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始まりの町ベルルにて  作者: 鼻村鼻太郎
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06 ベルルの浮遊岩

「もちろん、用途はアクセサリーだけに止まりません! 

 なんとこちらの浮遊岩、べルルの腕の良い職人たちの加工によって中に蛍火石がはめ込まれておりまして、浮遊岩を空に飛ばせば緊急時には何と近くの人に助けを求めることの出来る、旅人必須の持ち物となっております! 

 いや実に素晴らしい商品でしょう? こちらお一つ今だけ、百二十四パーセルとなっておりまして……かなりお買い得だと思いますよ」



 半ば強引に購入を促され、メルは冷や汗を流しながらどうしたものかと考えている。


 日が暮れかかり、周辺が少しずつ薄暗くなってゆく中で、小さな小指ほどの浮遊岩が何個もふわふわと浮きながら青色、紫、赤、緑と様々に淡く光り輝いて店先を照らしている。


 その光景はとても幻想的で美しく、メルは目を奪われてしまった。



 欲しく無いと言えば嘘になる。



 しかし、メルには今持ち合わせが無い。


 殆どのお金を宿泊費と日々生きる上で必要な生活用品に使ってしまっていて、とてもじゃ無いがアクセサリーになんてお金を使っている余裕は無い。


 メルが危険を冒しながらもこの町にやってきたのは、自分の事を知らない人たちが住んでいる場所で、働きながら静かに暮らして生きたいと思っているからだ。


 安定して働き、暮らせるようになるまで無駄遣いは絶対にしないと彼女は心に誓っている。


 自分のために今まで女手一つで育ててくれた母が残してくれた最後の財産を、無闇に使い果たす訳にはいかないと自分に言い聞かせ、メルは何とか店主に断ろうと言葉を探す。



「すみません、私ここに来たばかりでお金があまり無いんです……」



 メルが申し訳なさそうな顔で正直に店主へ打ち明けると、店主は落胆した表情で『はぁ、冷やかしなら帰ってくれ』と言い、そそくさと店の奥に引っ込んで行ってしまった。


 メルが落ち込みながらとぼとぼと店を後にすると、その様子を離れたところから見ていたコルネが声をかけてきた。



「欲しい物でも見つかったか?」



 コルネがそう尋ねると、メルは黙って首を横に振った。


 ただ、メルの表情は暗いまま後ろ髪を引かれるように、店先でキラキラと光り輝いている浮遊岩をチラチラと見ている。



「浮遊岩が気になるのか?」



 コルネの言葉に動揺しながらも、メルは首を横に振って否定した。


 ただそのメルの表情は何か悔しいような、悲しいような表情で、明らかに浮遊岩を気にしている様子から、コルネはメルが店主から追い返されたのだと推測した。


 すると、コルネは背中に担いだ大きな巾着袋から何かを取り出しメルに差し出す。


 それは小指ほどの大きさの浮遊岩で、店先に売られている浮遊岩と同じように中心に蛍火石がはめ込まれており、淡く輝いている。


 上部に小さな穴が空いており、そこに紐が輪っか状に通されていてネックレスのようになっていた。


「これは昔、ある人から貰った浮遊岩だが俺にはもう必要無い。お前にやるよ」


 そう言って、コルネはメルに浮遊岩を手渡した。


 メルはそれを受け取ると表情をパッと明るくする。次の瞬間メルははっとして、コルネに申し訳なさそうに尋ねた。


「でも、いいの? コルネにとって何か大切な物なんじゃないの?」



 それに対してコルネは笑顔で『ああ』と言った。



「俺には必要無かったが、これを俺にくれた人はきっと誰かに使って欲しいと願っていたはずだ。だからお前にやるよ」



 それを聞いたメルは、笑顔でコルネにありがとうと頭を下げた。



 頭を下げた拍子にフードが脱げそうになったが、とっさに慌てて手でフードを抑えてことなきを得る。


早速、メルはコルネから貰った浮遊岩をネックレスの様に首に掛けるも、ふわふわ浮いていないことに気が付いて、コルネにその事を尋ねた。


 するとコルネは『浮遊岩の使い方を教えてやる』と言い、人差し指で浮遊岩を軽く弾いた。するとふわふわと浮遊岩が浮き出した。


「誰かに助けて欲しい時、思いっきりそれを地面に叩きつけろ。

 そうすれば、浮遊岩は空高く浮き上がって衝撃で蛍火石が光る。人里離れた森の奥地でない限り、誰かに気付いて貰えるはずだ」



 夕日が地平線に沈みかけ辺りが黒に染まっていく中、ふわふわと浮かぶ浮遊岩だけが、空色に淡く光ってメルの顔を照らす。


 メルはしばらくの間、子供が大好きなおもちゃを見つけたみたいに、じっと浮遊岩を眺めていた。


 コルネはそんなメルに向かって『帰るぞ』と言い、メルはそれに対して静かに頷いて、浮力が弱まってきた浮遊岩を自分の胸にしまいながらコルネの後を付いていく。


 いよいよ日が沈み、夜の帳が下りるとベルルの町はまるでお祭りのような様相を呈する。


 町の至る所に置かれた蛍火石が、提灯の様に石畳で出来た道を橙色に照らしていた。


 夜になったというのに、町の活気は収まるどころかさらに盛り上がる。その様子を不思議に思ったメルは、コルネに質問した。


「夜になったのに、どうしてここの人たちはお家に帰らないんだろう?」


 それに対してコルネは淡々と説明調で答える。


「一年に一度の祭りがあるからだ」

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