05 石の町ベルル
べルルは通称石の町とも呼ばれていて、希少な石材や鉱物が採れる非常に大きな鉱山が近くにある事で有名な場所だ。昔からこの土地に、仕事や良質な金属を求めて多くの人間が往来していた。
また、多くの鉱物が採掘され取引されているこの町は、大きな工房としての役目を同時に担っている。生活用品から武器、魔力を帯びた貴重な岩石の加工まで様々な役割を古くから担ってきたこの町には、勇者が訪れる最初の町としての伝説が残されている。
千年以上の昔の話だが、魔王討伐の長い旅に備えるために勇者は、この町へ武器や道具を調達するべく最初に訪れたのだとか。
町には至る所に石碑が置かれており、そこには勇者伝説について事細かに記録されている。
「勇者が最初に訪れる始まりの町なんだ」
メルは中央広場にある大きな石碑を見ながらそう呟いた。
宿屋に荷物を置いて、今はコルネに案内される形でべルルの町を探索している。
べルルの街並みは千年前からほとんど変わらず、勇者伝説が語る通りに様々な石材から作られた趣きのある建物が並んでいた。
ほとんどの建造物が千年以上前から存在しているというのだから驚きで、古びた雰囲気はむしろ町の特色になっている。
所々欠けたり、苔が生えたり、長い年月によって変色している建物もちらほら存在するけれど、今でもその建物には立派に人が暮らしていて、メルにとってはまるで生きた古代遺跡の様に思えた。
さらにこの歴史ある町は今でも活気に溢れていて、人の行き来が激しい。恐らく、貴重な石材や鋼材等の資源が町を賑わらせているのだろう。千年以上の時が経った現在も。
建物だけでは無く、町の中は全て石畳が敷き詰められている。
古びてはいるが、定期的に町の住民によって整備されているみたいで、とても綺麗だ。歩くたびに、コツコツと高い音が軽快に石畳を鳴らす。
「勇者伝説が気になるのか? お前たちにとっては聞きたくも無い話だろう」
石碑を一生懸命見つめるメルに向かって、コルネは不思議そうに尋ねた。
「私、自分が住んでた町以外のことはよく知らないから」
メルは好奇心いっぱいの表情でそう言う。
じっと石碑を見ていると、欠けて読めなくなっている部分をメルは見つけた。
そこには、この町を訪れた歴代勇者の名前が刻まれているのだが、最後の一人だけ故意に削られて読めなくなっている。
「ねぇ、どうして最後の一人だけ名前が無いの?」
メルは何気なくコルネにそう尋ねると、コルネは『さぁ? 何でだろうな』と言ってメルから顔を背けた。続けてメルはコルネに質問する。
「千年前に、最後の勇者が人間を裏切ったことが関係してるのかな?」
コルネはその質問に答えなかった。無表情でじっと、千年前の石材で作られ風化して、誰の顔なのか面影すら分からなくなった勇者の像をただ眺めているだけだった。
メルがあまりにも教えてほしいとしつこいので、勇者伝説についてコルネはメルに自分の知っている限りの話を渋々教えた。
そしてメルがようやく満足して、そのお茶目な好奇心を十分に満たせた後、コルネはメルが今後この町を暮らしていく上で重要な、生活に必要な物を売っているお店を紹介する事にした。
それが終わると、息抜きにコルネはとある露店へと案内する。
通称石の町らしく、この町には様々な特殊な石材や鋼材が売られている。
その一つの浮遊岩に、メルは釘付けになった。
名前の通りふわふわと浮いており、石によって浮く強さも異なる。中央広場に繋がる長い一本道に並び立つ様々な露店が、それぞれ色々な種類の珍しい石のお土産を売っていた。
その中の一つに浮遊岩を売っている露店があり、それにメルは目を引かれた。
どこかに飛んで行かないよう、浮遊岩は小さな縄の紐に一つ一つ繋がれていて、それがメルにとってはまるで逃げようとしてロープに縛られた、可哀想な生き物の様に見えた。
メルは小指ほどの大きさの浮遊岩を人差し指で物珍しそうに、ツンツンと突いている。
その度に浮遊岩はふわふわと揺れ、あっちに行ったりこっちに行ったり、忙しく逃げ回っている。
その様子を見ていた露店の店主がメルに向かって声を掛けた。
「浮遊岩が気になりますか? それはお目が高い!」
店主は四十代くらいの前髪が少し禿げ上がり始めた中年男性で、営業のため長年鍛えた自慢の笑顔で、饒舌にメルへと話し始める。
「この石の町、べルルから採れる浮遊岩はまさに一級品! 浮力もそこいらの雑多な物とは比べ物になりません。
その証拠に、こうして紐で結んでいないと何処かへと勝手に飛んでいってしまいます!
こちら、大きな物は飛行船など多くの人に利用される様々な乗り物に使用されておりまして、安全性も折り紙付き!
小さい物はこうしてアクセサリーに加工され、べルルでも一押しの石材となっているんですよ」
「あの、でも私ーー」
メルが断ろうとしたところ、食い下がる様に店主はさらにメルへと詰め寄った。
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