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始まりの町ベルルにて  作者: 鼻村鼻太郎
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01 ベルルに繋がる街道で

 夏の日差しが、古びて所々欠けている石で出来た街道をチリチリと焦がし、陽炎がゆらゆらと空気を震わせる。


 べルルと呼ばれる町に続く一本道に、一人の少女がフラフラと歩いていた。


 暑さに悪態をつくかの如くうめき声を上げながら、一人黙々と歩き続けている。


 少女は小柄な体格に比べて大きめの、ベージュ色をしたフードを目深に被り、その隙間からは赤い髪の毛と白い肌が見え隠れしていた。


 頬を伝って汗が一粒、また一粒地面に落ちていく。


 汗が地面に触れる度に熱された石がジュッという音を立てて、すぐ様乾いていった。


 背中には小柄な少女が背負うには少々大きめな、茶色の革で出来た荷物入れを背負い、左手には魔法使いが持っているような立派な木製の杖を持ちながら支えにして、赤いロングスカートを引きずるように様に歩いていた。



「あと……もう少し」



 自分に言い聞かせるように少女はそう呟くと、もうひと頑張りといった様に大きく息を吐き、一度立ち止まって背中の荷物入れを背負い直すと再び歩き始める。


 街道のすぐ脇には青々とした木々が生い茂り、一度足を踏み入れれば二度と帰って来れないのではないか、と思うほどに先が見えない。


 足を一歩一歩踏みしめるたびに、茶色の革靴がコツコツと高い音を立てる。


 やや遅れて杖が地面に当たると、乾いたカンという音が街道に響いた。


 べルルへと向かう旅人は辺りを見る限り少女一人だけで、昼間だというのに少女の足音と鳥のさえずり以外、目立った音は聞こえない。



 昼間で、街道に人気が無く森が静かというのは変だ。



 彼女が慣れた旅人ならそう疑問に抱いただろう。


 しかし、たどたどしい歩みで暑さに苦しめられながら、顔の半分が隠れるほどにフードを深く被り、目的地へと無我夢中になりながら歩いている今の彼女には、暗い森の奥からじっと眺める捕食者の視線を感じることは出来なかった。



 捕食者は森の影から少女を目で追うだけで、襲い掛かってはこない。焦らず、じっくりと獲物の様子を観察している。確実に捕らえることの出来る瞬間を、今か今かと待ち構えているのだ。



 少女は、街道のすぐ脇にあるちょうど人が一人座れそうな大きめの石を見つけると、休憩するために背中のリュックをヨロヨロと下ろし、糸の切れた人形のようにどさっと座り込んだ。


 おもむろに荷物入れを開けると、そこには分厚い本や衣服や食料、そして木材で作られた水筒がぎゅうぎゅうに詰まっているのが見える。

 

 そこからおもむろに水筒を取り出し、栓に付いた紐を引っ張るとポンっという軽い音と共に栓が抜けた。そして勢いよく水筒に口をつけると、ゴクゴクと喉を鳴らせながら水を飲んだ。



「はぁ……」



 少女は思わずため息をついた。


 地獄のような暑さを和らげてくれる涼しい風と木陰が近くにあればいいのだけれど、残念ながらそんなものは無かった。

 

 街道から道を逸れて森に入ったなら、少しはうっとおしい日差しから逃れることが出来るかもしれないが、森には往々にして獰猛な生き物や恐ろしい化物が幅を利かせている。


 いくら日差しが辛いからといって、木陰に入るために命をかけるほど少女は無謀では無かった。


 少女はリュックから水筒の他に、折りたたまれた一枚の紙を取り出した。


 それを丁寧に広げると、ぶつぶつと独り言をしゃべり始める。どうやら自分の現在位置を探しているようで、それはベルルへと案内してくれる地図のようだった。


 朝から歩き詰めだった彼女はあとどのくらいで、ベルルへとたどり着くのかを確かめたかったようだ。


「そろそろ町が見えてきてもおかしくないはずなんだけど……」


 額の汗を右手の袖で拭いながら少女はそう呟く。


 そして、忌々しい夏の太陽を睨みつける様に空を見上げた。小さな雲がぽつりぽつり、一人ぼっちで浮かんでいるだけで、それ以外は澄み渡るような清々しい青空だ。


 風が吹いていれば尚良かっただろう。



 突如、少女の隣からガサガサと何者かが枝をかき分ける音が聞こえた。


 突然の出来事に不意を突かれ、少女は体をビクッと震わせる。


 そして恐る恐る音のした方向を見ると、暗い森の奥に何かがいるのが見えた。



「え? なに……?」



 そこで少女はようやく気が付く。


 辺りがやけに静かすぎる、何か変だと。



 しかし時すでに遅し、森の影から獰猛な生き物が一匹、ぬるりと姿を現した。

 


 それは四足歩行の鋭い牙と爪と、灰色の頑丈な皮膚を持った肉食獣で、大きさは少女の一回りか二回りほど。


 赤い目をぎらつかせながら、ゆっくりとした足取りで少女の方へと向かってくる。


 その肉食獣は低いうなり声を上げながら下顎から牙を覗かせた。牙の隙間から、小川の様に唾液が流れ出る。襲い掛かってくるのは時間の問題だった。



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