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平民騎士予定の憂鬱なる日々  作者: もりかぜ
もうすぐ13歳
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これから・・・3

「……金貨も、ですか?」

ベルナデット様の声は、少し震えていた。

「ええ。金貨も、です。  そもそも商人が真っ先に削りますから」

「……削る?」

「角を少しずつ削って、金を取り出すんです。

 見た目は金貨でも、重さが違えば信用されません。  

だから、領民が持ってる金貨は、まず疑われる」

ベルナデット様は、静かにコップを見つめている。

少し取るのに失敗しているそれは、潰れた粒がゆらゆらと浮いている。


「……でも、金貨ですよ?」

「そうですね。当然価値はあるでしょう。  

でも、“誰が持っているか”の方が大事なのです。

まともな金貨は、商人と貴族だけでしょう。

 それも、基本的には税を納めるために使うものです。」

「……え?」

「納税の時に、金貨の重さを測ります。

 その場合、適正な重さでない金貨は金貨ではない。

 つまり、滞納扱いです。

 場合によっては、処罰されます」


ベルナデット様は、少しだけ俯いた。

その表情には、戸惑いが混ざっていた。

「……では、商人はどう、貴族を相手にしているのでしょう?」

「商人は、ね、騙されないように、そして、貴族相手にもできるよう、

 “適正な重さの金貨”を一枚だけ常に持っています。」


「……一枚だけ?」

「ええ。その一枚は、貴族から受け取った場合も、親から相続した場合もあるでしょう。

 商人として一人前であることを示す“戦いの印”です。

 それを使って、天秤にかける。相手と自分の“本物”を比べて、重さを確かめるんです。」

「……なるほど。それでは、天秤があれば安心なのですね。」

「そう思うでしょう?  でも、中にはその天秤に細工する商人もいる。」

「……えっ」

「針の軸を削って傾けたり、重りの底に細工をしたり。

 それ以外にも思いつかない方法でだます商人もいる。

 だから、金貨だけじゃなく、天秤の“信用”も問われる。

 商人の世界は、信用と欺瞞の綱渡りです」


ベルナデット様は、コップを見つめながらぽつりと呟いた。

「……信用って、そんなに重いんですね」


俺は、少しだけ首を振って答えた。

「いいえ。軽いです。

 どんなに信用していても、毒や麻痺毒を使って物を奪ったり、

 人を捕まえて売り飛ばすこともある。」


ベルナデット様は、静かに息を呑んだ。

「けれど――信用しないと、どちらにしても凍えて死ぬか、腹をすかせて死ぬんです。」

「……そんな……」


「だから、信じるんです。

 裏切られるかもしれないと分かっていても、誰かと食べて、飲んで、命を預けるしかない。

 それが隣人を作り、村を作っているのです。」


ベルナデット様は、そっとコップを両手で包み込んだ。

その仕草は、まるで命の温度を確かめるようだった。


「……私も、少しずつ信用を得ているのでしょうか。」

「ようこそ。ヴィオレへ。ベルナデット様」


中央の暖炉が、ぱちりと音を立てた。

その音に、子供たちの笑い声が重なる。

ベルナデット様は、そっと微笑む。

その笑顔は、少しだけ強くなっていた。

そして彼女はコップをあおり、少しだけ水を足した。

粒が、またゆらりと揺れる。

そして、小さな声で一言、彼女は覚悟するように呟いた。

「……金貨は、隠しておきます。 お守りとして」


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