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閑話:侯爵
駐車場は、騒然としていた。
賊の侵入を許し、侯爵家の馬車を盗まれたからだ。
この報は、すぐにマジェンダ侯爵の下へ伝えられた。
侯爵は静かに怒りを覚えたが、それでも娘が此処に居ない事に安堵していた。
ターゲットが娘である可能性は当然あったからだ。
先程までは、娘が居ないこの環境に屈辱を覚えていたが、
今となっては、第二王息の行動に賞賛を与えたいくらいだった。
そもそも、侯爵自身が王家との誼を望んでいないのだ。
先にあった、黒の三華事件で殊更そう思うようになった。
ましてや、その事件の詫びの一つとして、王家との婚約を出されたときは
本気でどうしてくれようと憤った程だ。
しかし、第二王息の候補として、更に筆頭として名を出された以上は
それなりの対応は必要だと考えてはいた。
お互いに義務を果たした先に、決定があると、
そして、最終的な判断は娘が望むとおりにと・・・
だからこそ、目の前の景色は一つの屈辱であった
第二王息がエスコートした女性は、我が娘でなく、何処の誰か分からない小娘だったからだ。
まあでも、今となればこれで良かったのだろう
襲撃の話を聞き、そう結論付けることにした。
とまれ、虚仮にした第二王息と盗んだ愚か者にはそれ相応の責を負ってもらうが。
そう心に決め、替りの馬車を手配するのだった。




