影と形
んーっと思いっきり背を伸ばす。
ようやく、馬車の受け入れが終わったからだ。
「おつかれ~」
「あ、お疲れさまです。」
一つ上の先輩も、そう言って休憩室に戻っていった。
先程まで馬と人と馬車でごった返していた此処も
今では、
馬は厩舎に
人はホールに
収容されたため、静まり返っていた。
護衛の人も御者も休憩室で御馳走を頂いているのだろう。
少し羨ましく思いつつ、駐車場の最終点検を進めていく。
とはいえ、先輩達が既に見終えているので
最終点検と言っても簡単な見回りで終わる予定だった。
上級貴族のフロアに行くと、何故かメイドさんが1人で歩いている。
馬車の方へと向かっていくようだったので
助けが必要か確認するべく、近づこうとした。
すると、メイドさんは見たことのある紋章の馬車へと近づいていく。
多分、エタンセル家の・・・
但し、もう一つ紋章がついている。それがナニカがは分からないが・・・
メイドさんが向かっていく方は、暗がりが深いので
灯りがないと厳しそうな気がする。
誰もいない空間。
しーんと静まり返った空間。
そのはずなのに、『じゃっ』という踏んだ音が4つ。
俺とメイドさんなら2つのはず。
でも、その音とは違う、もっと重い音がした。
俺は手持ちの光源を消し、
可能な限り音を立てずに近づく。
途中で御者台から棒を手に入れる。
・・・何もないよりマシ。
扉側の方を覗き込むと、馬車の扉は閉じていて、誰もいない。
仕方なしに扉を叩く。
「おう。馬ぁもって来たか?
先客が居たせいで面倒な事になった。
馬車使ってさっさとずらかるぞ。」
どうやら、馬車に乗って逃げるらしい。
そのまま、静かにしていると、扉が開いて
口元を隠した男が顔を出した。
棒先の輪に相手の腕を入れてひっくり返す。
バランスを崩した男が頭から馬車の外へと放り出された。
そのまま、馬車の中に侵入すると
メイドさんの口を抑えている男が奥に座っていた。
手には刃物らしきものがあった。
メイドさんは此方を助けて欲しそうに見つめて来る・・・
「っち。来るなよ。この侍女がどうなってもいいんか?」
「他家のメイドが一人居なくなっても問題無かろう?
我が主の馬車に乗り込んだ時点で逝く先は早いか遅いかだ。」
メイドさん?侍女さん?
まあどっちでもいいや。
彼女を人質にして逃れようとしたんだろう。
でも人質の価値がない体で話を進めていく。
じゃないと彼女が危ないからね。
でも、メイドさん自身は絶望な顔をしていた・・・
男はチラリと外を見ると
メイドさんを此方に向かって蹴り飛ばした。
俺の目の前に華奢な身体が飛んでくる。
それを庇いながら受け止めると、勢いに負けて馬車の外へと押し出された。
「ぐふ」
そして、そのまま地面に叩きつかれる。
なんとか、メイドさんは接地しないですんだようだ。
「無事ならあっちへ」
そう、叢の方へ指指すとメイドさんは四つん這いのまま離れていった。
正面の方から馬の足音が聞こえてくる。
俺は、腰にある警笛を吹いた。
ピーーーーという甲高い音が闇夜に響き渡る。
「ちっ。早く馬を繋げ!
門が閉まる前にずらかる。
そうだ。そこの餓鬼拾っておけ。
御者台に乗せておけば誤魔化せるかもしれん。」
警笛で慌てた男達は馬車に馬を繋ぎ、俺を担ぎ上げる。
持ち上げられた時に、のびている男が見えた。
どうも、俺の落ちた場所には先客がいたよう。
道理で、直ぐに笛が吹けたわけだ。
男達はチラリとその先客を見ると
「そいつは捨てていけ。行くぞ」
と吐き捨てた。




