帰路
なんとなく居心地が悪いのと心配していたこともとりあえずは大丈夫そうだったので
「それでは、俺はこれで」
と立ち去ろうとしたが、
「ジャスタン様も、戻られるのですか?学園の方ですの?」
と、軽く止められてしまった。
「いえ、ここ2~3日、王都の方に滞在しています。」
「あら、ではタウンハウスの方かしら。」
「ええ、男爵家の一室をお借りしてます。」
「それなら」
ベルナデット様は、少し歩みを進めつつ
「行先が同じですね。一緒に戻りませんか?」
「お、お嬢様!」
「あら、下層では辻馬車もありませんし、それに、その、今のジャスタン様のお姿では・・・
ほら、色々と不都合がありますでしょう?
それなら、我が家の馬車であれば問題ないと思いません?」
「し・・しかし・・」
護衛さんは、必死にベルナデット様を説得しようと言葉を探しているようだ。
がんばれーと心の中で応援してみる。まあ、無理だろうけど・・・。
「学友と少々お話の続きをしたいだけですわ。
それに貴女が居れば、モンダイは起きないのではなくて?」
と、護衛さんがナニカを紡ぐ前にトドメが繰り出される。
護衛さんは、がくりと頭を垂れて「わかりました」と溢した。
こちらの都合を全く考慮に入れない押し問答は、こうして解決し、
俺は、サーコートを仕方なしに着込むのだった。
§
馬車はゆっくりと反転し、上層に向かって歩き出した。
ベルナデット様は斜め向かいに、護衛さんは隣に座っている。
馬車がどの程度のものなのか皆目見当もつかないけど
乗り心地は良かった。
春のダンスパーティのこと、夏のバカンスのこと、学園の授業のこと
他愛のない話を三人で盛り上がる。
話題の切れ目でふと、外を見た。
建物と建物の間、路地に入ったばかりの場所に”それ”は落ちていた。
焼かれた顔、折られた腕、そして小さな体と、浅黒い地面
奪われたのか、と残念に思っていると
「そうだ。男の子もいたな。」
と、視線の先に気付いたであろう護衛さんが少し、此方側に乗り出してぼそりと呟いた。
「仕方がないことですが、奪われたようですね。」
そう返答すると、ベルナデット様は
「まあ、なんて酷いことを。」と憤った。
俺は宥めるように、
「貨幣に家紋はつけられませんから・・しょうがないかと」
と語ると
「・・・そうね。次はどうするか考えることにしましょう」
そう言って、少し落ち着いてくれたようだった。
護衛さんは、少し辛そうな顔をしていたけど
また、他愛のない話に戻った。
タウンハウスへ直接向かうと、男爵家の方々も困らせるので
近くの道で降ろして貰った。
「ありがとうございました。」
「また機会があればお話ししましょう。」
「ええ、その時は是非。
護衛の方もまたいずれ。」
「ああ。」
「それでは、また学園でお会いしましょう。」
簡単な挨拶と学園での再会を約束し、馬車はゆっくりと進んでいった。
俺は、それを見送ると、タウンハウスへと向かうのだった。




