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平民騎士予定の憂鬱なる日々  作者: もりかぜ
もうすぐ12歳
16/86

閑話:ヴィヨレ領での一幕

ここは、宿屋の一階にある食堂兼酒場。

丁度、昼時が過ぎ客足が遠ざかった頃だった。

奥の席に、4人の大人と1人の少女が話をしていた。


「11歳の子を一人で王領、王都まで行かせるのは些か無謀ではなかったのですか?旦那様」

青紫のローブを着た女性が扇子で口元を隠しながら、紺のコートを着た男性に問う。

口調は柔らかいが目には怒気が含まれていた。


「ジャスタンは俺よりしっかりしてやがる、自慢の息子だからな。

 王都までなら大丈夫だと思うが。

 それでもあいつはまだ幼いんだ。もう一寸やりようあったんじゃねーのか?」

白いシャツに黒のジレを着た男性がフォローはしつつも、釘を刺す。


「そうだよ。王都に行くって言ってたけど、一人だと思ってなかったよ。

 一人だったら行かせてないよ。

 それにお茶会の作法なんて教えてないよ。

 私の時だって大変だったのに、ジャスタン。向こうでいぢめられてないかな」

白いブラウスの上に赤のコール・パレネを着た、エプロン姿の女性が追い打ちをかけた。


「いやうん。本当、申し訳ないと思ってるよ。思っていますよ。

 こっちも、王息殿下からの直々の呼び出しだから、テンパってしまった。

 一応、必要なモノは、マチューに持って行かせたし、ちゃんと受け取れたみたいだから

 大丈夫じゃないかな。

 それに、お茶会も非公式の内々のだから、大丈夫だと思うよ。多分」

紺のジュストールを着た男性は、身を縮こませながら言った。


「わたくしからもヴェール公へ手紙を認めましたので、公爵領内なら安全と思われますわ」

「貴族の二人にそう言われたら、納得するしかねーのかね。ムカつくけど。」

「納得いかないけど、しょうがないのは理解するよ。でも、もうちょいなんとかしてほしかった」

はあ、とため息をつく男性と未だプリプリしている女性。

その両親を見ながら、少女は自分の疑問を零した。


「でも、なんでお兄ちゃんが王子様に呼び出されたの?」


4人の視線が少女に集まる。

そして、各々思案したうえで、原因となったであろう出来事を異口同音に述べたのだった。


「「「「華の誘拐事件「ですわ。」「だな」「よね」「だろうな」

「華の誘拐事件?」


「えっと、俺が18の時だから、だいたい20年前にあった一大スキャンダルでな。

 とある侯爵家のバカ息子が当時の社交界で

 名を馳せていた3名の女性を拉致・監禁等を行った事件があったんだよ。

 その事件の切っ掛けに王家も絡んでてな。

 その関係でだろうな。」

「その当時に、お詫びを受け取っていれば話は早かったのでしょうけど、

 色々あってとある少女は、受け取ってはおりません。

 その関係で、ご子息には、と、目を掛けてくれているのでしょうね。」

「しょうがないじゃない。社交界に引っ張り出されただけでも大概なのに

 王様の御前なんで無理だよ。ムリムリ。張り倒したくなっちゃう。」

「恐れ多いとかじゃなかった。もっと大概の理由だったよ・・・。

 表沙汰に出来ない話題が増えちゃった。もういやだ・・・。」

「だって、王子様なら誰でも憧れる相手だろうとか本気で思っているのと

 顔だけ良くて他がパッパラパーの2択なんて、どんな拷問だって話じゃない。

 大体、お詫びの理由だって、後見になっている『公爵家に迷惑掛けた』からだよ。

 フザケルナって言いたい。」


「つまり、王家は弱みがあるから優しくしてくれるってこと?」

「つーより、『お前の事はよく知ってるぞ。王家に対して変なことしたら速攻でバレるぞ』って脅しじゃねの?」

「はーい、ベルちゃんが会いたがってたのを知って、牽制してるに一票!

 三華の子供世代で接点ないの、ベルちゃんージャスタンのラインだけだし。」

「そういえば、ブリジットが3人でお茶をしたいと仰ってたわ。

 セリーヌ。また王都に行ってお茶しないこと?

 きっと華やかになるわ」

「あ、いいね。行きたーい。・・・・じゃなかった。

 お招き頂き、嬉しく存じます。シモーヌお姉さま。」

「貴方に合うローブも見繕わないと。ああ、いっその事仕立てましょうか。」


そんなこんなで、大人達は自分の会話に戻ってしまった。

少女は自分の質問に回答して貰えてないことに憤りを感じ

声を張り上げて意識をこっちに向けてもらおうとした。


「そんなことより!おにいちゃんのことは?」


功を奏したのだろう。

回答していないことに若干の居心地の悪さを覚えた4人はこう話しをして締めくくった。


「あれだ、お貴族様のマウント取の一環だからさ。

 俺すげえな会話をダラダラ聞かされて帰ってくるだけだよ。

 中身はねえから気にするな。」

「其の上で、貴方の実績は知っていますわ。と話をするだけです。

 あの子もそうですけど、触られて困る肚は、ありませんでしょう?

 心配いりませんわ。」

「一人で送り出してしまった手前、こんな言い方ひどいかもしれないけどね。

 ジャスタン君なら穏便に終わらせて帰ってくるんじゃないかな。

 大丈夫。心配ないよ。」

「まあ、とっても格好良いって訳じゃないから、いきなり知らない女の子を連れて帰ってきて

 『これ、俺の婚約者』なんてことは無いから安心したら?ダイジョブダイジョブ」


「何気に、お母さん酷い・・・。確かにお兄ちゃんは十人並だけどさ・・・。

 ほら、万が一とか、タデ食う虫も好き好きとか 奇跡の一人とかあるじゃない?」


4人は、一番酷い事を言いながら、兄の様々を心配する、とある少女を生暖かい目で見守りながら

また、会話に花を咲かせるのだった。




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