ウィリアムのラルゴ
ベルナデット様はこほんと咳払いをし、こちらを向いて話かけてきた。
なので、雑談ベースでこちらも回答する。
「それはそうと、ジャスタン様
べナルド様の学校の件は、何が良くないのかしら。
識字率が上がり、より有利な職に就けるのは魅力ではないかしら?」
「王都や領都の平民相手なら良いかと思いますが、そういう所は既に学校があるでしょう。
庶民やスラムの人を相手にする場合は、卒業後の仕事をまず創らないと賢い犯罪者を増やすだけかと」
「仕事が・・無い?」
「はい。身元が分かりやすい平民と、分かりにくい庶民・スラムなら前者を採用するのは当然でしょう。
さらに、学の無い庶民とある庶民。使い潰せて、悪巧みしなさそうなのは前者です。
つまり、下手に学校にいかない方が、使い勝手が良い訳ですね。」
「・・・・領都や王都以外の街や村は?どうなりますか?」
「そもそも、子供の労働力の計算式が異なります。
大きい街なら子供は労働力として換算されにくいですが、小さな村では立派な労働力です。
赤子を背負えば、母親の手がそのまま労働力になりますからね。」
そして、子供たちの作った菜園。
税を取り立てる側からしたら、子供の親の真似をした土遊び程度の認識だろう。
けど、出来上がるのは食べられる野菜だ。
家庭の食を助け、売って財になる大切なシロモノに変わりない。
それが学校とやらで奪われるようだと生活が成り立たない所だって出てくるだろうな。
教えないけど。
「肉体労働だからこそ、幼くても一助になりえるのですね。」
「そうですね。
で、もし運よく学校が軌道に乗ったとして、農業従事者がより良い職に就いたとする。
結果起こり得ることってなんでしょうね。」
「え?・・・・・あ。」
ふうと、ベルナデット様はため息をついて言葉をつづけた。
「つまり、やるべきではないと」
「いえ、皆が学校に行けて勉強できるのは理想ですよ。
ただ、その理想に辿り着くまでの工程が多いだけです。」
俺の回答を聞いて更に悩み始めるベルナデット様に
ロラン様が総括をしてくれた。
「うんまあ、まだまだ思案の余地があるってことだぁね。」
「そうですね。
加えて、1庶民の意見ですから、政治方面の方策で解決可能な部分もあるでしょう。
そちら側は暗いので案外解決の術があるかもしれませんね。」
「そうですわね。今一度ヘラルド様と考えてみますわ。」
その後は、他愛のない話をしながら城門へと向かい、
ベルナデット様は自分の馬車で帰られた。
別れ際に「次は学園で会いましょう」と残して。
因みに俺はというと、
何故かロラン様に馬車に押し込まれてヴィヨレ領に戻された。
途中、宿も用意されているという徹底ぶりだった。
宿がある。
つまり、行きで使用した最短距離の穀倉地帯ではないルートだということだ。
それでもたった2日で着くのだから、行きとの差に驚愕する。
貴族すげぇと。
来年から、あそこで住むのだ。
学生として・・・。
こうして、もうすぐ12歳になる俺の15日弱の大冒険は幕を閉じたのであった。
P.S.
帰った後、お父さんとお母さんに旅の話をしたけど、
ベルナデット様のことをベルナデット嬢と呼んでたり
ロラン様相手にフランクに話してたり
あああああぁぁぁな状況を改めて思い出し、ベッドで悶絶したことは内緒である。
P.SのP.S.
スヴェンとアンネリーエから、あの後手紙を貰い、
王城まで来たのになんで顔を出さないのか?と問い詰められた。
無理だよ。お城の中で迷子なるし、変にうろついたら危険じゃん?と回答しといた。
そしたら、ロラン様と領主様と坊ちゃんとの連名で入学後に騎士見習いの演習参加要請が来た。
一応任意になってるけど・・・・強制だよね・・。
ゲセヌ