3つの幸運と1つの試練
この俺、ノワール王国ヴィヨレ子爵領パピオン通りの宿屋の息子ジャスタンは、
産まれて11年の間に3つの幸運と一つの試練を得た。
一つ目の幸運。ノワール神聖学園の小学部に合格したことだ。
ノワール神聖学園。
ノワール王国の王都にある、この王国最大の学校だ。
この学園は4つの学部に分かれている。
・幼学部:4歳から8歳までの貴族の令息・令嬢が社交を学ぶために通う学部だ。
この学部は貴族であれば誰でも入学出来る代わりに、それなりの社交スキルを期待されるらしい。
・小学部:12歳から18歳までの間、様々な事柄を学ぶための学部。
7年のうち5年分の単位の修学を目指す。
この学部は、平民でも入学可能だが、入学試験がとても難しく、貴族でも落とされる。
上級貴族である伯爵以上であれば、優秀な家庭教師を付けて励むのでほぼ合格するが
下級貴族、特に男爵だと半数以上は落ちるらしい。
ましてや平民ともなると、とても難しいのだ。
・高等部:ギルドの職人や商人たちが徒弟から印可になるための最初で最大の難関らしい。
この学部は、ギルドから推薦状を得てさらに試験に合格した人だけ入学が許可されるそうだ。
ただし、在学期間は4年。それまでに卒業できないと、退学扱いになるらしい。
・大学部:ノワール王国の英知が集結し、様々な最先端技術を研究する学部。
ノワールの天才が集う場所らしい・・・けど、それくらいしか分からない。
そんな凄い人たちが集まる学校の小学部の試験に合格し、
12歳になったら入学することになったのだ。
平民ですらない、この俺が。
二つ目の幸運。領主様が在学期間中の経費を支払ってくれることになった。
学校に通うための経費は、貴族の方がら見れば大したことないかもしれないが、
平民からしてみても、かなり高額だ。
それを領主様が肩代わりしてくれるそうなのだ。
理由は、領地で行っている政策の後援。
俺のいるヴィヨレ子爵領は、王都の北へ8~9日の所にある。
回りは侯爵領と公爵領に囲まれた、何もない平地だ。
北側で寒く、農地としては心もとなく
山も森林もないため、鉱石も林業も見込めない。
観光となる名所は、蝶の泉と呼ばれる、蝶が舞う池があるだけ。
名産予定といえば、とても上質な飼葉が取れる地域があるが、
蝶の泉の極一部しか取れないので名産に成り切れないし、畜産も見込めない。
本当にないない尽くしの領地なのだ。
そこで30年前に領主様は、学問の領地にする政策を立てた。
そのお陰で領民の識字率は90%を超える程になったのだ。
そのタイミングで俺のノワール神聖学園への合格。
前にも言ったけど、ノワール神聖学園の小学部の試験は難しい。
今まで合格した平民は、王都や公爵・侯爵領にいる大富豪の子息・令嬢。
極まれに伯爵領からポロリと出てくるくらい。
下級貴族の平民ですらない領民なんて学園始まって以来、一人もいなかったのだ。
そんな学園に、領主の坊ちゃんが8年前に合格し入学。
お嬢さんが去年合格し、入学。
そして俺が今年合格と、ヴィヨレ領の評判を挙げることになった。
で、領主様は金銭に困る領民のため、合格者の支援を約束してくれたのだ。
まあ、遊ぶお金は自分で稼ぐ必要があるけど。
三つ目の幸運。王家の方と知り合ったこと。
俺が勉学に励む理由になったのは、これが原因だろう。
俺が7歳のとき、侯爵領への道で落石が起きた。
そのため、ちょうどお忍びで侯爵領へと向かっていた、
第三王子と第一王女、そしてその母である側妃様が足止めになってしまった。
そのうえ、運悪く、領主様のお屋敷では、何かしらのパーティが行われており
領都もお屋敷でも部屋がもう足りない状態だったのだ。
そこで領主様からの依頼でうちの宿屋に滞在されることとなった。
うちの宿には親父の趣味で作られた清算度外視の部屋が一つあった。
親父曰く、蝶の泉を家族連れで見たいという貴族の方だっているはずだと。
そこで作られたのは、スイートファミリールーム。
家族連れのやんごとなき方向けの部屋だった。
でも、子供視点から見ると、蝶の泉って退屈なんだよね。
蝶が綺麗に舞ってるけどそれだけで・・・。
そんな訳でこの部屋が空いていたので、お泊りになられたと。
当時、第三王子は5歳、第一王女は3歳。
うちの妹が丁度4歳だったこともあり、滞在中は4人で遊んだもんだ。
子供から見たら、王子も王女も分からず遊び相手でしかなかったから、猶更だった。
なので、数週間後に道が戻りさようならするときに、
「手紙書きますね」と言われても「手紙」が理解出来なかった。
当然、手紙なんて運んでくれる人も居る訳もなく、数か月経ったとき、
領主様がうちに駆け込んできた。
王子様と王女様の「手紙」を持って。
領主様、顔が青ざめていたなぁ。
手紙の最後に、「返事をお待ちしてます」と書いてあったと伝えたら、泣きそうになってた。
そこから、王子様と王女様、庶民の俺と妹の不思議な文通が始まったのだった。
しきたりも文字も、貴族で扱う言い回しも知らない俺と妹は、
領主様の助けを借りながら手紙のやりとりを行った。
当然、直接手紙が庶民の俺たちの元に届くことはない。
領主様の元についた、俺たち宛の手紙を毎回持ってきては返事を持っていくのだった。
手紙の内容は多岐に渡っていて、内容についていけるよう、
相手に楽しんで貰えるように勉強に励んだ。
その結果、学園の合格に繋がったのだろうと思う。
そして、一つの試練
学園入学の報を第三王子と第一王女に伝えたところ、
おめでとうの言葉と再来年は妹だね。と激励の返事を頂いた。
そこまでは良かった。
・・・問題は同時に送られてきた、第二王子からの王城への招待状だった・・・・
庶民が王城に行けと?