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死にました


よくある話だ。


道を歩いていたら、暴走するトラックに跳ねられて死んだっていう。

俺にもそんな、ありふれた結末が訪れただけだった。


跳ね飛ばされて、コンビニで買ったばかりのビールの入ったビニール袋と一緒にくるくると宙を舞いながら、せめてこれ飲んでから死にたかったなぁ、なんてどうでもいいことを考えていた。



次に気がついた時は、ラノベでよく見る『真っ白な空間』ってやつにいた。仕事帰りのスーツで、ビールの入ったビニール袋を手に。

ちなみにカバンの方はあっさり手放したみたいだった。我ながらわかりやすい。


静かで人の気配がしない空間。

とりあえず飲みながら誰か来るのを待つかぁ、そう思って一缶手に取り、プシュッ!とプルトップを上げた時だった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!勝手に一人で始めようとしてんじゃないわよ!」


何やら叫びながら、絶世の美女が虚空から現れた。


「折角おつまみとか色々用意してたんだから、ちょっとくらい待ちなさいよね!」


勢いに押されて反射的に頭を下げる。


「すみませんでした」


「わかればいいのよ」


女性はいつの間にか目の前に出現していた大きめのテーブルに、小皿やグラスなどをどんどん並べていく。


「はい、あなたのビールも置いて!」


言われるままにビールを袋から出してテーブルの中央に並べた。


「やだ!プレミアムじゃない!」


それを見て女性のテンションが上がった。

今日は普通の六缶パックと、あとちょっと高級なのも買ったんだよね。給料日だったから。

それがお気に召したらしい。


「えーっと、つかぬ事をお伺いしますが俺は…」


「死んだわよ」


軽っ!

皿を並べながらもののついでのように言われた。まぁ、だいたいわかってたことだから、そんなにショックはないけど。


「それでここは…」


「生と死の狭間的な場所ね」


うん。テンプレ通り。


「……それで俺は何故ここに?」


やっぱりチート能力授けるから世界を救ってくれとか言われちゃうんだろうか。


ちょっとワクワクしてきた。

しかし


「ビール持ってたから」


「は?」


女性から返ってきたのは、意味がわからなすぎる返答だった。


「えーっと…?」


「ビール持ってたから招待したの」


聞き直したけどやっぱり意味がわからなかった。



よくよく話を聞いてみると、テンプレ通り彼女は女神らしい。そして、俺の持ってたビールが飲みたかったから、俺をここに呼んだんだと言われた。

驚いたことに、死の瞬間にお酒を握って手放さなかった人からもらう以外に、神様達がお酒を入手する方法は現在ないのだそうだ。


なんでも過去に、酔った神様が大暴れして世界を壊す『事故』が何度も起きたり、酒で気が大きくなった神様が、神様の中でも一番偉い天帝の住む城に攻め込んで庭を荒らしたり城を燃やしたりしたんだと。それにキレた天帝が、神界のシステムを改変したのだそうだ。

だから大抵の物は手に入るけど、ここ千年くらいお酒だけは滅多に手に入らないとのことだった。


命の鼓動が止まるその瞬間まで酒を手放さない人間はなかなかレアらしく、そういった人間が死ぬたびに激しい争奪戦が繰り広げられるのだそうだ。

毒殺で死ぬ人は結構いるけれど、大抵は飲んですぐに盃ポロって落とすから対象外だとのこと。


「盃一杯の酒も持ってこれない根性なしどもがっ!」って罵ってたけど、それはしょうがないと思う。

因みに、神様に毒は効かないので、こっちに持ってきさえすれば美味しくいただけるんだそうだ。


それと早い者勝ちだから、いち早く対象が死亡した気配を察知して自分のテリトリーに連れてくる必要があるんだとか。


「百年ぶりの酒よ!ヒャッハー!!」


そういうわけで、女神様は非常に浮かれていらっしゃった。

絶世の美女のヒャッハーは、なかなか胸にくるものがある。


いつの間にかテーブルのビールを置いた箇所からは冷気が漂っていた。

女神様が、ビールの適温にセットしたのだと豊満すぎる胸を張った。


「こんなこともあろうかと」各界の酒についての学習には常に余念がなかったらしい。だから数多ある界の中の一つの、日本という小さな国の新発売どころか開発中のものまで、酒と呼べるものならなんでも知識だけはあるのだそうだ。

涙ぐましくすぎて、本気で視界がぼやけた。


口にできるかどうかわからない酒の知識をひたすら集めて悠久の時を生きる。

なんという生だろう…。


「それでは俺はこれで失礼しますので、どうぞごゆっくりお楽しみください」


俺に言えるのはこれくらいしかないではないか。百年ぶりの酒を是非、堪能していただきたい。

しかしそんな俺を女神様は引き止めた。


「あら、ダメよ。神が飲めるのは、元の持ち主と同量まで。そう決まってるんだから」


なんと、そんな細かい決まりが。


「それに一人で飲んだって楽しくないじゃない。付き合いなさい!」


そう言われては断りようがない。


こうして俺と女神様のサシ飲みが始まった。

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