2.しれっと行使される、規格外の魔法。
前提条件:キングデイモンは上級パーティーが一体倒すだけで凄い(という設定)です。
「てりゃ!!」
ワイバーン目がけて、剣を振り下ろす。
すると今までの苦戦が嘘のように、一撃で倒すことができた。断末魔の声が響き渡り、魔素の欠片へと還っていく。
それを拾い上げて、俺はギルド長の説明を思い出した。
「一度上昇した力は、ある程度が身体に染み付く。要するに窮地や逆境になればなるほど、俺は成長していくってことなんだよな」
まさか、冒険者稼業二十年目でこんな才能に目覚めるとは。
本当に今さらの成長期、というやつだった。
「とりあえず並の冒険者くらいには活躍できるようになったし、このまま順調にいけば、どこかのパーティーに拾ってもらえるかもな」
俺はそう考えて、ひと安心。
そして、同時に昨夜の件を思い出すのだった。
「そう言えば、オリビアとの決闘は明後日か。どんな奴なんだろう?」
仲間ほしさと勢いで了承したが、実際のところ彼についての情報はない。
分かっているのは、この街の出身ではなく各地を転々としている、ということだけだった。目的もなにも、実力も不明のまま。
俺は少しだけ考え込んで、しかし気持ちをすぐに切り替えた。
「まぁ、いまは気にしても仕方ない――ん?」
そう思った時だ。
ダンジョンの一角に視線をやると、件の人物がいた。
オリビアは一人で黙々と歩き、ダンジョンの奥へと進んでいく。
「おいおい。そっちはかなり強力な魔物がいるぞ……?」
俺はそう思って、少し心配になった。
なので黙って彼のあとを追う。そして、しばらく進んだ時――。
「いわんこっちゃない、キングデイモンなんて……!」
デイモン族の最上種。
筋骨隆々とした悪魔型の魔物が五体、姿を現した。
あっという間に取り囲まれて、オリビアは窮地に追いやられる。恐怖に足が竦んでいるのか、彼は身動き一つ取れなかった。
その様子を見て、俺は――。
「仕方ない。助けに――」
――行こうとした、のだが。
「へ……?」
その瞬間だった。
キングデイモンが襲い掛かろうとした時、オリビアは手を掲げてこう言う。
「【エンシェントフレイム】」――と。
直後、彼の周囲には炎の柱が発生した。
そして思わず閉じてしまった目を、次に開くとそこには……。
「………………すげぇ」
キングデイモンのそれと思しき魔素の結晶が、転がっていた。
その中心でオリビアは、黙して立っている。
「規格外の魔法使いじゃねぇかよ……!」
この一連の出来事を見て、俺が抱いた感想はそれだった。
キングデイモンを一掃する魔法使いなんて、この街にはまずいない。
「明後日、大丈夫なのか……俺」
思わずそう呟く。
そして俺の頬には、静かに冷や汗が伝うのだった。