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1.旅人――オリビア。

ここから、第1章です。







「決闘……? 俺と、か?」

「あぁ、その通り。いま私は有能な配下を求めている。もし私が勝利したならば、お前には我がパーティーのメンバーになってもらいたい」

「…………はぁ、なるほど?」



 なにやら突然に、変なやつに絡まれた。

 俺は首を傾げて相手を観察する。


 外套を羽織った美青年、といった人物だった。

 金の髪に蒼い瞳。特徴的な長い耳を見るに、エルフなのだろう。中性的で整った顔立ちをしており、男の俺でさえドキッとしてしまうほどだった。

 ちらりと見えた腕は非常に華奢で、まるで少女のそれのよう。


 ひとまず俺は、そいつにこう訊ねた。



「決闘するかは置いておいて、とりあえず名前を聞いていいか? ちなみに俺は、アクロだ。アクロ・ヴィーケル。お前は?」

「ふむ。たしかに自己紹介がまだだったな」



 俺の言葉に納得したらしい。

 彼はやけに綺麗な所作で礼をして、こう名乗った。



「私の名前は、オリビア・エーデルヘイム。しがない旅人だ」――と。







「旅人、ねぇ……?」



 宿に戻って、俺はベッドに身を横たえていた。

 そして思い出すのはオリビアという、先ほどのエルフのこと。どこか浮世離れした雰囲気を醸し出していた彼のことを考え、しばしの時間が流れていた。


 パーティーを組むために、決闘をする。

 オリビアはそう言っていた。



「互いの力を確かめるためなのか? いや、それだったらダンジョンに潜ればいい。どうして、わざわざ決闘する必要があるんだ」



 俺には、それが引っかかって仕方ない。

 彼の行動はあまりに不自然だ。だから少し悩んでしまった。

 とりあえず俺も仲間を探していたところなので、申し出を受けることにはしたが。それにしても、違和感が拭えなかった。



「まぁ、明日になったら確認してみよう」



 だが、考えていても仕方ないだろう。

 これは相手のあること、なのだ。一人で悩んでも意味はない。



「さて、寝よう。おやすみ」



 俺はそう結論付けて、誰もいない空間にそう呟いた。

 疲れていたのか、意識はあっさり闇の中へ。







 夜の街、その公園にて。

 オリビアは星空を見上げ、小さくため息をついた。



「なるほど。アクロ・ヴィーケル、か」



 そして、口にしたのは先ほどの冒険者の名前。

 ダンジョンで見た限り、彼の実力は申し分なかった。そう思ったからこそ、オリビアはアクロに声をかけたのである。

 単刀直入に決闘を申し込んだのは、自分でもどうかとは思っていた。それでも彼は、比較的あっさりと了承。数日の後に、街の郊外で手合わせすることになった。



「今回は、どうなるのだろうな」



 星に手を伸ばしながらオリビアは、静かにそう口にする。



 空気に溶けていく言の葉。

 その真意を知るのは、オリビア以外にいなかった。




 


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