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04話 「そして少年たちはエルフと邂逅する」

 俺とアニーが【Re:ACT】を立ち上げて3日が経っていた。

 

 武器や防具をそろえるにしても金が足りないと判断した俺たちは、連日クエストにおもむいて小銭稼ぎに励んでいるのだった。


「でやあああああああああ‼」


 腰の回転を使い、一気に右から左へと敵を切り裂く初級剣技パワースラッシュ

 俺が繰り出した斬撃は見事に《ゴブリン》を一撃で落とすことに成功した。


 ようやく馴染んできた右手の《アイアンソード》を背中の鞘に納め、ドロップしたばかりの少額のお金と《ゴブリンの角》を回収した。


「これで5つ…。終わったね、お兄ちゃん」

 

 アニーが笑顔で近づいてくる。


 今日は「《ゴブリンの角》を5つ納品せよ」というクエストを受けて、キャメロット城から少し離れたところにある《ゴブリンの森》にやってきている。


 《ゴブリンの角》が薬の材料になるのと、城周辺のモンスターの数を減らすために、初心者に依頼されることが多いクエストらしい。

 

「ふふ。お兄ちゃんも中々サマになってきたね」


「まあな。ゴブリンも楽に狩れるようになってきたし、レベルも上がったしでこわいもんなしだな、がはは」

 

「もう、調子に乗っちゃつてさ。最初はスライムに苦戦してたくせに」


「それはもう忘れろ……」

 

 なにも俺だって根拠もなしに天狗になっているわけではない。


 最初こそ、アニーの言う通り《スライム》にも苦戦したが、生前のゲームの知識をフル活用して戦闘のコツも掴んできた。


 今日だって≪ゴブリン≫相手にほぼ攻撃を食らうことなく、勝つことが出来ている。


 最初こそ剣の重さに四苦八苦した俺であったが、レベルが8になったこともあり、《STR(腕力)》の値が上昇した今、ずいぶんと剣を持つことが楽になってきていた。


「お兄ちゃんが頑張れてるのは私のバフのおかげなんだから、そこ勘違いしないでよね」


「へいへい、分かってますよ。お嬢様」


 思わず悪態をついてしまったが、アニーの言う通りだ。


 【Re:ACT】を立ち上げるにあたり、アニーも戦闘に参加してくれることになった。


 彼女がまとう白いローブに、手に持つ《ウッドロッド》を見てもらうと分かる通り、彼女は主に《回復魔法士(ヒーラー)》として戦っている。


 回復魔法だけでなく、《一定時間STR(腕力)上昇》や《一定時間AGI(素早さ)上昇》の強化魔法――いわゆる《バフ》をかけてくれるので、戦闘の効率がかなり上がったのは間違いない。


 そういう意味では俺は彼女に頭が上がらないのであった。


「ありがとな、アニー」


 女性には兎に角褒めておけ―、という我が人生の恩師(おじいちゃん)の言葉を思い出し、素直に感謝の言葉を送った。


「…なによ、急に褒めて」


 アニーはこういう時、素直に受け取ってくれないのだが、嬉しい時にある《クセ》が出るのを俺はこの3日で気付いていた。


「はは、そろそろ帰ろうぜ。日も暮れちまう」


「その笑いは何よ~」


 彼女の美しい金髪に隠れる耳がぴくぴく動いているのを眺めながら、俺はほっこりした気持ちに浸っているのだった。



 × × × × × × × × × ×



 ずいぶんと森の奥まで入ってしまっていたので時間がかかったが、俺たちは《ゴブリンの森》を抜け出し、草原へ出た。


 正確な時刻は分からないが、沈みかけている太陽の位置から判断するに夕方の5時くらいであろうか。


 陽が沈むまでまだ時間があるものの、夜になるとモンスターの活動も活性してしまうので急がなければならない。


 視界が悪い中で、まだ駆け出し冒険者の俺たちが戦闘を行うのは危険行為だ。


 少しばかり急ぎながら歩を進めていた、その時であった。


「きゃああああああああ‼」


「⁉ な、なんだ」


 女性の悲鳴が広々とした野原に響き渡る。


 声が聞こえた方角に向かって進んでみると。


「お兄ちゃん、あそこ‼」


 アニーが指差す方に視線を送ると、一人の女性が3匹ほどのイノシシモンスター《ワイルドボア》に囲まれているのが見えた。


 女性は一応武装はしているものの、身動きが取れないようだった。


「アニー、あの人を助けるぞ!」

「りょーかい‼」


 俺たちが近づくと、ボアたちはこちらに気付いたらしく、グルル…、と低い鳴き声で威嚇する。


「大丈夫ですか⁉ 今助けますから!」


「す、…すいません。私……」


「こっちへ。後はお兄ちゃんに任せて‼」


 アニーが女性に肩をかして移動しているのを横目に、俺は一番近くにいたボアに切りかかった。


「おらああああああ!」


 確かにヒットしたものの、スライムとは違って一撃で倒すことは難しい。

 俺の斬撃にボアがノックバックするものの、入れ替わるように他のボアが長い牙を構えて突進してくる。


 その軌道は直進的であるものの、強靭な4本の脚から繰り出される突進は当たったらひとたまりもないだろう。


「くっ、流石に3匹はきついか⁉」


 俺が先ほど攻撃を当てたボアも態勢を立て直し、突進しようと狙いを定めている。


 ―――ここは撤退するべきか


 ―――いや、3人無傷で逃げ切るのは簡単じゃない


 と、この戦闘を無理やり終わらせるかどうか迷っていたところに、保護した女性の声が確かに届いた。


「ボアたちは、火属性の攻撃が弱点です!」


 ―――火属性の攻撃が弱点、ならば。


 俺は先ほど《ゴブリンの森》でレベルアップした際に習得したものの、木々に囲まれた森の中では危険だと判断して、使っていなかった新技の準備に取り掛かる。


 精神を集中し、自身の中の魔力をエネルギーへと転換する。

 

 左手を突き出すと、空中に魔法陣が出現――。


「ファイアボール‼」


 ゴオオッ、と魔法陣から勢いよく3発の火球は、ボアたちに命中。

 グルオオォ、とボアたちの断末魔が聞こえたのち、彼らの命を焼き切った。


「う、上手くいった…」


 意外なところで初お披露目となった初級炎撃魔法ファイアボールだったが、性能は抜群と言っていいだろう。

 

 女性が言った通り、火属性が弱点だったのもあるが、剣士である俺の《INT(インテリジェンス)》――つまり魔法攻撃力の値でも抜群の威力を発揮した。


 これからの戦闘でも役に立つことは間違いないだろう。


 とは言っても、剣士である俺の魔力だと何発も発動できないのだが。


「大丈夫でしたか?」


 先ほどの女性に近づいて、安否を確かめるが、重症は負っていないようだった。


「すいません、ご迷惑をおかけして…」


 真面目そうな女性はぺこりと頭を深々と下げて御礼を言ってくれた。


 ぼんやりと夕焼けに照らされる女性はたいそう美人だった。


 ボブくらいの長さのエメラルドのような髪に、整った顔のパーツに黒縁の眼鏡は彼女を知的に感じさせる。

 

 そして、ローブの上からでも分かるほど、体の凹凸に自然と視線が吸い寄せられるのはどうしようもない。

 

何より一番の特徴はぴょこんと顔の横に出ている長い耳だ。


その存在が彼女が《エルフ》だと言うことを確かに証明していた。


「お姉さん、危なかったね~」


 アニーの言葉に苦笑いを浮かべながら。


「すいません、私。どうしてもキャメロット城に行かなくちゃいけなくて」


「キャメロットなら俺たちも今から帰るんだ」


「そうなのですか。 良かったらご一緒させてもらってもよろしいですか?」


「もちろん。一人にするのは危険だしな」


 そう言うと、先ほどまで生気が無かった女性エルフの顔に、綺麗な花のような笑顔が咲いた。


「ありがとうございます、あなた、とっても優しいんですね」


 突然向けられた彼女の笑顔にドキドキしてしまいながらも。


「えへへ、いやーそれほどでも。困ってる女性がいたら助けるのが男ってもんですよ」


 女性のあまりにも可愛い笑顔にデレデレな返事が口から漏れたのだが、それを見たアニーにぎろりと睨まれて。


「お兄ちゃん? …なに鼻の下伸ばしてんの」


 ぶるるっ


 アニーにあまりにも冷たい視線を向けられ、思わず寒気を感じてしまう。


 なんでこいつはこんなにプンスカしてるんだ?


「な、なに怒ってんだよ?」


「はあ? 怒ってないよ」


 いや、おこじゃない?


 絶対におこじゃん…


 生前女性との関りなんて恋愛ゲームの中だけだった俺にはアニーの機嫌が悪い理由が分かるはずもなく。


 こうなったアニーがしばらく不機嫌なのは重々承知していたので、ここはさっさと話を進めることにしておいた。


「俺はハルカ。こっちはアニー。とりあえずよろしく」


「私はクレアと申します。よろしくお願いしますねハルカさん、アニーさん」


 こうして暫定的ではあるものの、パーティーに加入したエルフの美女・クレアとともに、俺たち3人は拠点であるキャメロットの宿屋に向けて歩き始めたのだった。


 その途中、《ファイアボール》で消費した魔力を回復しようとポーションを飲んだのだが、なぜか魔力が回復しなかった。


 ポーションに使用期限とかあるのかな……?


 と、疑問を抱きつつ、それがのちに大きな波紋を広げることになるなどこの時、知る由もなかったのだった。


ハルカ、アニーに加え新たなキャラのクレアさんが登場した回になりました。

ハルカがポーションを使っても魔力が回復しなかったのはなぜなのでしょうか・・・。

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