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02話 「そうして少年は転生する」



 ―――暗い。ここは…?


 これが死後の世界なのだろうか。前後左右、どこまでも闇が広がっていて、よく物語などに登場する天国とは似ても似つかない場所だ。


 ふむ。案外そんなもんなのかなと思った。


 もし本当に天国が天使がいて、きゃっきゃウフフな場所なら、とっととみんなで死んだ方が幸せになってしまうしな……。

 などとアホな考えを巡らしていると、突如目の前に眩い光が出現し、その中から一人の少女が現われた。



 本当にまだ年端もいかない、幼い少女。

しかし幼いながらも、人間離れした美貌を感じさせた。

人形のような小さな顔に、何でも見通すような大きな瞳、そして黄金色のロングヘア―がより煌びやかに少女を彩っている。

挿絵(By みてみん)


「お兄ちゃんも残念だね。あんな会社に奴隷のようにこき使われた挙句、死んじゃうなんて。まだ若いのに」

「まだ若い、って…。君よりは年上だと思うんだけど」

 すると少女が笑う。

「アハハ、駄目だよお兄ちゃん。人を見かけで判断しちゃ。私の方が年上だったらどうするの?」


 まさか。そんな風にはとても見えない。と、俺が戸惑っていると再び少女が口を開いた。


「ま。とりあえず大事な話をしようよ」

「大事な話?」

「うん。分かってると思うけどお兄ちゃんは死んだ。だから新しい人生を始めましょーってお話だよ」

「あ、新しい人生⁉」

「そんな驚くこと?」


 そりゃあそうだ。

今この娘はなんて言った? 新しい人生? そんな馬鹿な。

人は死んだらそこで終わり。だからこそ、「一度っきりの人生を後悔しないように」って大人たちはみんな言っているんじゃないのか。

まぁ後悔しっぱなしの人生を送ってしまったが。


「まあ驚いているところ悪いんだけど、時間も押してるから巻きで説明するわよ」

「巻きで⁉」


 まさかこれからの俺を占う(もう死んだんだけど)大事な話を巻きで説明される宣言されるとは思いもしなかった。

少女は俺のツッコミを無視して言葉を紡ぐ。


「死んだ人間には簡単に言うと二通りいるの。やり残したことがないくらい人生を全うした人と、あなたのように未練たらたらで死んじゃう人ね」


 彼女の話を要約するとこうだ。


 未練が大きい死人は、現世に引っ張られて成仏することが難しい。なので、その未練を消し去るために≪新しい世界≫で≪新しい人生≫を体験させることによって死後の魂を安定させるということらしい。


「もし、成仏されずに魂が残り続けたらどうなるんだ?」

「聞いたことない? よくあるあれよ。悪霊みたいになっちゃって現世で色々悪さしちゃうやつ」

「ああ。テレビとかでやってるやつか」

「そうそうそれよ。もし、あなたが悪霊になってまでテレビ出演したいというなら止めはしないけど?」

「…遠慮しときます」


 俺も一度くらいテレビに出てみたいなんて思ったことはあるし、かわいいアイドルや綺麗な女優なんかと共演したい気持ちはあるが、悪霊や除霊師とゴールデン進出する気は全くない。


「じゃ決まりね。さっそくだけど、どんな世界に行きたい?」

「え、そんなことまで決めていいのか?」

「言ったでしょ。現世で残した未練をなくすために転生するの。その人が望む世界に転生させてあげた方が手っ取り早いのよ」


 なるほど。理に適っている。


 もしせっかく転生しても、パシらされたり、こき使われたりするような場所ならお断りだ。そんなブラックな人生は一度きりで十分である。


「なんか好きだったものとかないの?」

「うーん……。ゲーム、かなぁ」

「ゲームね。ジャンルは? RPG? FPS? それともお兄ちゃんの顔から察するに……エロゲ?」

「エ、エロゲじゃないやい‼ 普通に王道のRPGだ!」


 確かに紳士のたしなみとしてエロゲも経験済みであるが。


「ていうかどこをどう察したらエロゲなんだよ?」

「どこって…明らかに変態さんの顔をしてるじゃない?」


 何を言っているのかしら?と言わんばかりにキョトンとした顔をこちらに向けてくる。つらい。


「それともエロいのは嫌いなの?」

「大好きに決まってるだろ」


 じいちゃんも言っていた。―――男はみな変態であると。


「まあいいわ。じゃあ王道らしくファンタジーの世界にしましょう」


 へーそんな細かいことまで決められるんだあ、と感動しながら聞いていたが、ある疑問が胸に沸いた。


「…ちなみにFPSの世界を選ぶとどうなるんだ?」

「左に右に銃撃戦が乱れる超ハードモードな世界が待ってるわ。米軍でもロシア軍でも体験できるわよ」


 聞いた俺が愚かだった。開始5分で死ぬ自信がある。


「あと。エロゲの世界なら、左に右に性が乱れる超えろっえろな世界が待ってるわよ。幼女から人妻までヒロインが準備されてるわ」

「なにぃ⁉えろっえろ⁉」


 思わず食い気味に反応してしまった。俺としたことが。

 でもしょうがないよね、男なら誰もがハーレム展開に期待しちゃうからね。ね、じいちゃん?


「……やっぱり変態さんだね」


 見てる。めっちゃ見てる。とてつもなく冷たい視線で俺を見ている。まるで汚物を見るような目で。

 いや、そんな目で見られると興奮しちゃ…げふんげふん。


 いかんいかん。幼女に罵られて新たな扉をあけてしまうところだった。


「ごほん。と、とにかく。ファンタジーな世界で頼む」


 えろっえろな誘惑との戦いになんとか勝ったぞ。


 × × × × × × × × × × × ×

 

 そのあとも少女の質問が幾つか続いた。


≪どんな世界観がいい?≫


―――魔法と剣で戦いたいよな、うん。


≪仲間の数は?≫


―――最初は一人、かなあ。徐々に集めていきたいし。


≪レベルは? マックスにできるわよ≫


―――いやいや、俺TUEEEEEE!がやりたいわけじゃないしな。1からで。


 と言った、初期設定的な質問から。


≪お兄ちゃんの好きな食べ物は?≫


―――すき屋の牛丼‼大盛りで!


≪他になにか好きなものは?≫


―――おっぱい‼


 と言った俺の好みに関する質問に及んだ。そんなこと聞いてどうするんだろう。


「これで全ての質問が終わったから、さっそく転生しちゃおっか」

「お、おお。なんかあっさりだな。全然実感がわかないんだが」


 そもそも死んだ実感さえあまり湧かないというのに、何がなんやら≪ファンタジーRPG≫の世界に転生するというのだから当然と言えば当然か。


 とにはともかく。


 あんなに夢中になったゲームの世界に行けるなんて、ゲーマー冥利に尽きるというか。


「じゃ、転生開始~♪」


 少女が指をパチリと鳴らすと、俺の足元に魔法陣のようなものが出現し、光が身体を包み始める。


「どう、緊張する?」

「う~ん、どうかな。正直、一回死んだ身だしな。今更緊張もくそもないというか」


 そう。なんかワクワクしている。


 だって、ブラック会社で働き詰めの人生なんかより、ゲームの主人公のような冒険の方がとても魅力的だ。少なくとも、俺には。


「あはは、いいね。お兄ちゃん。これから剣を手に冒険へ出よう、って人間が緊張なんかしてたらゴブリンにさえやられちゃうもんね」

「ところで、あっちの世界に着いたらまずどうすればいいんだ?」

「そこらへんは大丈夫! まぁ着いてからのお楽しみということで」


 そう言うと少女は人差し指を唇に置いて、おどけて見せた。

 本当に見た目が良いだけあって、こういったポーズも非常に様になる。


 わずかな時間であったが、この美少女と別れなければいけないということに寂しさを感じる自分がいた。


「短い時間だったけど、ありがとうな」

「いえいえ~、私は自分の役目を果たしただけだよ」

「最後になっちゃったけど、名前はなんて言うんだ?」


 お世話になった人の名前くらい聞いておくのが筋ってものだろう。


「私の名前? んー。まぁいずれ分かると思うよ」

「えぇ…」


 はぐらかされてしまった。名前くらい減るもんじゃあるまいし、と思ったが、もしかすると立場的に言えない決まりでもあるのかもしれない、と深く聞くことは遠慮した。


 そういうやり取りをしている内に、俺を包む光がより一層光り始める。


「お、いよいよだね。これからお兄ちゃんの新たな冒険が始まるよ。もしかしたら元の生活より快適だろうし、もしかすると元の世界より大変かもしれない。ま、そういうところも含めてお兄ちゃん次第だけど。きっと大丈夫だよ‼」


 美少女がただ大丈夫だと肯定してくれただけで、なんだかイケる気がしてくるのだから男って生き物は単純明快である。


「じゃあ、夢と希望の世界へ()()()()()()。お兄ちゃん!」

「ああ‼―――って、……え?」



 今なんて言った? 一緒に行こう?


 俺は全身が光りに包まれ、意識が途切れる瞬間、俺は高らかに叫んだ。



「お前もくるんかーーーーーーーーーい‼」




 こうして、俺・本田春夏は新たなる人生へとログインしたのだった。



昨日の続きとなります。

ついに主人公とヒロインが邂逅するという場面になりました。

下手ではありますが、少女のイメージ像は挿絵の通りです。

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