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第一話 サバイバル


人間、生きてりゃ良いことも悪いこともあるもんだ。

平凡な成績で大学を卒業出来たのはいいが、就職難にあって放浪。

ようやくまともに就職出来たと思っても嫌味の絶えない上司の下で延々と仕事をして帰ってきても特にやることもないからゲームと漫画を読み漁ってはまた仕事。


そんな事はどこも当たり前で俺だけがってわけじゃない。

中には俺なんか以上に体と精神を酷使しながらも働いてる人間なんてわんさかいる。


だから馬車馬の如く働いていてもそれが給料と見合っていて休日に酒でも飲みながら遊ぶ奴がいたらそれで事足りる。


「……そう思ってたんだけどなぁ」


薄暗い洞窟というか洞穴の中で、止むことを知らないのか。降り続く雨を凌いでいた。


30分ほど前。


俺はいつものように仕事から帰ると明日から二週間の長期休暇に心を踊らせ、久しぶりに深酒でもしながら最近ハマってるRPGゲームをクリアしようと意気込んでいた。


二時間くらいやり込んでた覚えはあるんだが、気がついたら寝ていて妙に肌寒く感じたから布団に入って惰眠を貪ろうと起き上がったら何故かこの洞穴に横たわっていた。


最初は夢か何かと思い二度寝したが、瞼は重いのに妙に頭が冴えて寝付けず結局起きてしまい。

仕方なく現実に目を向けようと思ったんだが。


「この雨じゃなぁ……。台風でも起きてるんかね?」


外は数メートル先の視界すら許さない豪雨が続いており、この洞穴を出たら間違いなく遭難して死ぬ自信があるくらいにヤバイ。


ちなみにこの洞穴。結構住みやすかったりする。

出入り口はそれこそ匍匐前進しないと通れないくらい狭いのに奥へ入るに連れて中腰の高さまで広くなるし奥行きだって五メートルくらいあるから雨風は余裕で防げる。

しかも、この辺りは地熱でも通ってるのかビニールハウスに入ってるムワッとする暑さではあるが凍え死ぬよりは何倍も良いので余り気にならない。

そうそう、一番奥には地面を通ってたぶん濾過された水が溜まった水源もあって割とガチで二週間くらいは困らない場所だ。


それにしても、これからどうしたもんかね。

寝て起きたら異世界でした〜なんてラノベや漫画の世界だけだと思ってたんだが、いざ自分がマジでそんなとんでもハプニングに遭遇するとぶっちゃけどうしたらいいか分からん。


まぁそれ以前に異世界かどうかも怪しいんだけどね。

ひょっとしたらプレデターの人間狩(マンハント)りみたいな展開だったらたまったもんじゃない。


ーーぐぅ〜……。


……なんにせよ、今やるべきことがあるとしたらこの鳴り止まない腹をどうにかせん事には始まらんか。

とはいえ外は相変わらずの豪雨で出るに出られんし、食えそうなもんといったら壁や頭上から伸びてる根っこと壁土をちょこっと掘ったら出てきたなんかの幼虫しかない。


「……いやいやいや。流石に虫はまだ早いだろ」


うにうにと手のひらで動くこの虫。

昔見たテレビの珍味番組でレポーターが食べていたのに似てるけど、大きさが三倍くらいあってテニスボールとほぼ同じくらいある。

いくら空腹だからって我慢の限界ってわけでもないし、とりあえず先にまだ抵抗の少ない根っこにしよう。


俺は突き出てる指の太さくらいの根っこを掴むと力任せに引っ張ったり、平な石で地道に削ること十分。

ようやく引きちぎれたので一旦外で雨を利用して泥を落としスルメ感覚でかぶりついてみた。


「あれ?けっこーイケる?」


一瞬だけ強烈な青臭さが口に広がり吐き出しそうになったが、すぐに臭みが薄れて樹液みたいのが出てきたと思ったらゴボウのようなニンジンのような風味が広がり悪くなかった。


しばらくその味を楽しんでいたが、腹が満たされたわけじゃない。というか、中途半端に食べたせいで余計に腹が減ってきた。

食うんじゃなかったと思っていると不意にうにうにと蠢く幼虫に目がいってしまう。


「まぁ珍味ツァーに参加したと思えばイケるかな……」


俺は拳サイズの石を掴むと幼虫の頭を潰し。

流石に生きたまま食うのには抵抗があるからちゃんと殺しておくことにした。


「……いただきます」


しばし幼虫を見つめていたが、あまりみていると食欲がなくなるのでここは一気にいこう。うん、それが良い。

俺は潰した頭とは反対側の方から一口食べる。

むにゅっとした食感が広がりゾワッと寒気が走るが一気に噛み潰して咀嚼。


「…………美味いじゃん」


ドロリとした体液が口に広がるが、同時に重厚なステーキのような食感に驚き、時折小さな粒が出てきて噛み潰すとパァンッと弾けて蜂蜜に似た甘みが広がり旨さを引き立ててくれる。

その上鼻から抜ける風味はクリーミーなアーモンドクリームを連想する独特の甘みを放ってくれる。


食べ終わると若干舌がビリビリする感じがしたが、薄っすらとあった毛や甲殻で傷つけたのだろう。

抵抗はあったが、中々に美味かった。そして意外とボリューミーで一匹で結構満足だ。

まぁ元々あんまし食う方じゃなかったしね。


腹が満たされると満足したのか遠ざかっていた眠気が再びやってきたので俺は固いような柔らかいような土の上で再び眠りについた。







目がさめると外から聞こえていた雨音がしなくなったので止んだのだろう。

いつまでもモグラ状態になるつもりはないので何時間かぶりの新鮮な空気を吸いに外へ出る。


「んー……予想してなかったわけじゃないけどやっぱここ異世界っぽいな」


外へ出ると昨日までの雨が嘘のように晴れ上がり、けっこーな時間寝ていたのか日差しが真上にきている。

そのおかげで身体のあちこちが痛かったが、辺りは良く見える。

視界に映るもの全て森・森・森。

森林浴とはよく言ったものだけど、森林が濃すぎてもうここアレだよ。ジャングルだよ。ジャングル。


三百六十度どこをどう見渡しても森しかねぇ。

しかも元の世界じゃ大学のサークル仲間とよく登山に行ったりしてたから自然については人よりは知ってたつもりだけど、よくわからん見たこともない植物に囲まれてるよ。


え?なにあの木。外皮はツルツルなのに葉がすっげートゲトゲしてんじゃん。怖っ。

しかもなにあの植物、丸くて上の部分だけポッカリ穴が空いてるけどひょっとしてウツボカズラ?デカすぎじゃね?しかも色合いが赤青黄色の三色でやたらカラフルだし、信号機かよ。


普通ウツボカズラって確かでかいやつでも十五センチくらいなのにあれどう見ても倍以上はあるぞ。

興味本位に近付いて中を覗き込むと砂糖のような匂いがして中にはゴポゴポと現在進行形で消化されているなんかの虫の死骸が浮かんでいる。


どんな虫なのかは分からないが、見た感じは蜂の超絶デカイやつっぽい。

少なくとも人の顔くらいはあるのは間違いないだろう。


「……こりゃ冗談抜きでヤバいかもしれんな」


あたりをよく見るとこの巨大ウツボカズラがそこら中に自生してる上にあのトゲトゲの葉っぱをした大樹が辺りを囲んでくれてるおかげで俺のいた洞穴にさっきみたいな巨大蜂が近づいて来れないだけで、ここより先に出たら何が待ち受けてるのかわかったもんじゃない。


なんだっけか、漫画の知識だからあやふやだけど確か生物の巨大化について語った漫画があったな。

現代社会じゃ陸上の巨大生物といったらキリンやゾウくらいだけど、大昔の恐竜がいた時には最大で六十メートルを越すのがいたらしい。

うろ覚えだがその理由は気候が高く地球全体の酸素濃度が濃かったから植物がやたら成長して、それを食べる恐竜が相対的にデカくなってったんだっけ。


うわぁ〜、そう考えたらここって異世界どころか石器時代より前の恐竜が桜花してた時代なの?え、マジで?

ヤベェ、気が滅入るなんてもんじゃねぇじゃん。

確かにアウトドアは好きだけど、基本的に休日は漫画喫茶に篭って黙々とじだらくを過ごしたい派なのに……。


クッソどうせ訳のわからん世界にいくならもっとこう猫耳とか犬耳とか狐耳とかエルフとかドワーフとかのいる世界に送ってくれよ!

なんでよりにもよって巨大生物の蔓延る世界なんだよ!

どこの防衛軍だよ!いきなり白亜紀とかまんまA◯Kじゃん!


……はぁ。まぁいいや、こんな事してても始まらんしな。

軽く周囲を探索。いや、なんの武器も持ってないからまずは得物になりそうなもんでも作ってからにするか。


そうと決まれば後は行動あるのみだ。

オタクなめんなよ!漫画の知識しかねぇけど、やったるわ!





とりあえず、まずは石器から作るか。

幸いにもこの辺は色んな形をした石がゴロゴロしてる。

そんな中で俺が選んだのは三角形っぽくてなるべく平たい感じの石を二つ見つけ、刃にする三角形の広い部分の両側を石を打ち付けて少しずつ削っていった。


時間にして三時間くらいはやってただろうか、ようやく削り終えると次は持ち手になる木製バットくらいの長さと太さの枝を探して先端に穴を開けて削った石を通し後は蔦でぐるぐる巻きにして取れないように固定してやった。


「うん、まぁ形にはなったかな?」


完成した石斧を手にぶんぶん振り回して感触を確かめる。

うん、悪くないな。


試しに近くに生えていた二メートルくらいの木に打ち付けると切れ味は良くないが、斧としての機能は十分果たしてくれた。

切り倒した木は余分な枝や葉を落とし、さらに三十〜四十センチ感覚で切って洞穴へと運び入れていった。

昨日水分をたっぷり吸い込んだのでしばらくは使えないが一、二週間もすれば水分もいくらか抜けて薪として使えるだろうからな。


ついでに同じ大きさの木をもう一つ切り倒してこっちは余分な枝を落とした後に一メートルくらいに切って洞穴に運び入れた。

こっちはあとで石槍を作るのに必要だからあえて長めに切ったんだが、水分が抜けてからじゃないと不安だから最低でも三週間以上は見ないといけないな。


そんなことをしてると太陽もだいぶ沈み出したので俺は洞穴に戻って昨晩と同じように適当に掘ったら出てきた白い幼虫。アーモンドを食べて早々に眠りについた。




ここからは日記形式でいこう。


三日目。

身体がめちゃくちゃ痛い。土の上だからしょうがないのだろうけど、めっちゃ痛い。

それはさておき、そろそろ火を作ろうと十字架の形をした俗に言う舞錐式火起こし器を作ったが、肝心の木材が湿っていたのでダメだった。


四日目。

うーん。最初に比べて身体の痛みが少ないな。慣れてきたのかな?

今日は洞穴を出て少し周囲を探索してみた。

そしたら二メートルくらいあるムカデの死骸を見つけ持ち帰って食べてみたら反吐が出るほど不味い所と蟹味噌みたいに美味い部分を発見した。

甲殻は軽い上に頑丈だったから何かに使えると思い取っておいた。


五日目。

人間って案外すぐに順応するんだな。もうどこも痛くねぇや。

今日はもうちょっと探索域を広くしてみた。そしたら二頭の忠犬みたいな獣に遭遇して本気で逃げてたら川を見つけて飛び込み、何とか何を逃れる事ができた。

あれは犬?狼?いや、きっとどちらでもない別の何かだな。

だって頭に赤いモヒカンみたいな鶏冠があったし。

……はぁ。帰りたい。


六日目。

昨日見つけた川で魚とりに挑戦したが、逆に食われかけた。

一時撤退した後木製の投槍を用意して再度挑戦したら鱗に弾かれて折れてしまった。

あれは本当に魚なのか……?

ってか今更過ぎるかもしれんが、何でこんな世界に俺いるんだろう。


七日目。

外は大雨がまた降ってたので洞穴の中で初めて火を焚いた。

煙だけが立ち込み、一酸化炭素中毒になりかけて死ぬかと思った。

煙が抜けるようにリフォームしよう。

……本気で帰りたくなってきた。マジでどうして俺なんだよ。

クソッ神様の馬鹿野郎!


八日目。

腹壊した。

神様ごめんなさい、許してください。二度と悪態なんてつきませんからどうか許してください、お願いします。


九日目。

色々ヤバかった。

やっぱり何でもかんでも食べていい訳ではないらしい。

最近はあの白い幼虫ばっか食べてたせいで感覚がおかしくなってたけど普通、虫=食用なわけないよね。

うん。これからはちょっと自重しようかな。

……Fucking God!


十日目。

いつぞやの忠犬みたいな獣に襲われた。

今度は一頭だけだったけど、それでも殺される寸前だった。

まだ手に石斧を振りかざし、頭をかち割った感触が残ってる……気持ち悪いが、こういうのにも慣れてかないとな。

ん?ひょっとして昨日言ったことに怒ったからあの獣をけしかけられたのか?

ははは、まさかね?


十一日目。

昨日のこともあって武器を増やすことにした。

作ったのは保留にしていた石槍の他に鳥などを捕まえれるように石と蔓を使った投擲具と木製のシャベルの三つだ。

シャベルはそろそろ洞穴のリフォームをしようと思い作ってみた。

早速明日から作業に取り掛かろう。


十二〜二十日目。

ようやく洞穴の拡張工事が終了した。

出入り口はそのままで中の広さを以前は中腰くらいだったのを立っても頭をぶつけないくらいに高くして横幅もシングルベッドを置いてもまだ余裕があるくらいにしてみた。

ちゃんとした寝床はやっぱり欲しいしね。

途中何度も崩落しかけたり白い幼虫が大量発生したりと問題があったが、食料の備蓄が増えたと思えば得した気分に……はならないか。

だってずっと蠢いてて流石に気持ち悪いからね。

掘り出して出た土は今は外で放置してるが、途中から粘土のような土が出てきたので普通の土とは別にして後で土器でも作ろう。


二十一日目。

拠点作りも終えたので久し振りに狩にいこう。

とはいっても獣を狩るわけじゃない。

この辺りには虫か稀に忠犬みたいなのが現れるくるいで狩と言うほどでもない。

そういうわけで川にきて以前断念した魚を捕まえようと思う。

その結果。

何とか一匹を確保したが、こいつは本当に魚なのだろうか?

確かにエラがあって外に出してしばらくしたら死んだが、鱗は薄い鉄板のような装甲で口はワニのように鋸を上下に合わせたような口をしている。

……なんでこんなのしかいねぇの?この森。

マジでもう帰りたい……。クソッなんで俺がこんな目にあってんだ?


二十二日目。

また大雨が降り出した、本当によく降る雨だなぁ。

はぁ、もう自分の不運について語る事はない。というかそんなことをいつまでも言ってたところで仕方ないしな。

諦めるよ。うん、諦める。

諦めるけど、いや。諦めるからせめて誰かと話しがしたい……。

一人でいるのは元々苦じゃなかったが、独りで居続けるのはダメなんだって気づいたよ。

あー、これが女子がよく言ってた人恋しいってことなんだろうな。





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