7.26 墓参り―2
EMIKOの墓は額田にある。8年ほど前に和歌山から移したそうだ。
長男だから先祖の面倒も見なくてはならない。
おにぎりをかじりながら額田へ。約30分。町営墓地。
こじんまりとした一角にTT家の真新しい墓石があった。
EMIKOは漢字でちゃんと彫り込んである。
この三文字にTTの心情のすべてが凝縮してるように思えた。
入口で手桶と柄杓を持ち水を入れる。TT君は車から
二束の仏花を持ち出した。ちゃんと用意していたのだ!
私は墓石に水をかけ彼は仏花を差し線香に火をつけ始めた。
薄曇りだがこの日も38℃。むっとした中おもむろにリュックを開け
大きなリンをリュックの上に乗せ椅子を出して後ろに座ってもらった。
ゆっくりと五度鈴を打ち法華経方便品と寿量品を読誦する。
滴る汗、周りは民家だが墓地には一人もいない。
炎天下の静寂の中に法華経が響き渡る。
EMIKOは死の間際、
「ありがとう、ごめんね」
と言い、
「生きて・・・」
と言いかけて、力尽き笑顔で死んだ。
今でも生きてるかのような死に顔は写真でも明らかだ。
医者は余命3年と言ったそうだが7か月後にEMIKOは死んだ。
若いがん細胞がモーレツに増殖したからだそうだ。
それは恨みか怨念か、はたまた地獄の業火か。
生きようとする命をじわじわとにじり殺していく。
痛かったろう苦しかったろう。唯一の癒しは彼の愛。
毎日彼は変ったばかりの職場から来てくれる。
痛みをこらえ苦しみに耐えて彼女は笑みを浮かべた。
そのうち彼女の心情に変化が生まれる。
『曾て私はあなたより息子を選んだ時がありました。ひょっとしてそれは
私の大きな大きな誤りではなかったかと思うようになりました』
「ありがとう、ごめんね、あなたの子が残せなくて」
「生きてください、私の死を乗り越えて、私の分も!」
大空にあのEMIKOの笑顔が浮かんだ。大声で叫んでいる。
「おとうちゃーん!がんばってー!」