くっしょん話(幕間)①
「大将よぉ。たまには運動した方がいいぜ?」
そんな些細な一言から、ラド強化訓練が始まった。
「いや、何故!?」
「なんだ? 奴隷の分際で文句を垂れるとか、いつからそんな偉くなったよ。えぇ?」
うだうだと抵抗するラドの襟首をひっ掴み、中庭へと二階の窓から投げ捨てる。「わきゃーー!?」とか言う悲鳴が聞こえた。
「何すんですか!」
「特訓だ」
角に土を付けたラド目掛けて飛び降りるも、流石にこれは避けられた。舌打ち。
「お前、力はいっちょまえにあるが、使い方がなってねぇ」
ただ力が超絶に強いからと言って、それがそのまま実力に直結するかと言えばNOだ。パワーバカの降し方など、幾らでもある。
故に、魔力ある=スゲェ奴、ではなく。
魔力ある=へなちょこ、でしかない。
化け物問題が浮上しつつある今、力の使い方を教えて無駄はあるまい。
「ドラゴニュートって奴等は、時にその身を竜へと変えて敵をほふると言う。その姿は竜の因子を持つリザードマンの様であり、人間の様でもあるらしい」
「えっと、つまり、最初の時みたいにドラゴン要素を両手足に移して戦え、という事で?」
「察しはいいじゃないか。んじゃ、やってみな」
ラドは最初の時みたく、たっぷり三十分かけてその手足を竜のそれへと変貌させた。
「遅い! 目標は一秒未満だ、いいと言うまで繰り返せ!」
「ひぃ、鬼教官だ!?」
涙目になりながらも、ラドはひぃこら言いながら素直に繰り返す。人間の手足になったりドラゴンの手足に戻ったりを丸一日、休憩を挟みつつひたすらに繰り返した。
汗だくになってぐったりとするラドを脇に抱え、屋敷に入り服をひっぺがして風呂へと叩き込む。
ぶくぶくと溺れそうになったラドを救出し、動く気が起きないのかぐんにゃりしたままなのをいい事に体の隅々まで洗った。そして再び湯へと叩き込む。
もののついでで俺も服を脱ぎ、体を洗って湯へと浸かった。
「うぅ、もうちょっと丁寧に扱ってくださいよぅ」
程好く脱力している為か、ラドの体が湯に浮かんでいる。
「アホか。奴隷に相応しい扱い方だ。お前等を生き物として見てるだけありがたく思えよ」
「主様は誰に対してもそんな調子じゃないですか」
「よく見ろボケ。奴隷以外にはそれなりに気を使ってるだろが」
「………………。え?」
「沈めてやろうか?」
胸や腹にびっしりと敷き詰められている鱗に指を這わせ、時折指先に力を入れて沈めに掛かる。
「……そうだな。まず、奴隷以外に気安く触れた事はないだろ?」
「そうですね。さらっと異性と混浴している挙げ句遠慮なくお腹をぷにぷにするお人なのに……、あ、やめて、謝りますから頭から沈めようとしないで!」
「すみませんでしたぁ!」と叫ぶラドに舌打ちし、その頭を支えながら体の方を沈める。
「風呂では肩まで浸かれ、風邪引くぞ」
「あ、はい」
「あらかじめ言っておくが、体調崩したら鞭で打つからな」
「理不尽!?」
それからもラドの特訓は続いた。といっても、形体をひたすら変えているだけで、特訓らしい特訓はしていないのだがね。
二週間みっちりスパルタ式に仕込んだお陰で、ラドの形体変化は見事一秒未満に収まった。これなら万が一不意を突かれても一瞬で防御からの迎撃が可能だろう。
「どうだ!」
と、稼ぎから戻ってきたトラとエルにラドの仕上がりっぷりを見せ付ける。二人は感動のあまり苦笑を漏らしていた。
「結局運動してねぇのなー」
「マスターにまともな事言っても仕方がない」
「泣けるぜ」
しばらく奴隷達と周辺環境のお話。