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プロローグ④

 町長宅への訪問という事で、俺とラドが緊張する筈もなく、執事さんに案内されるがままに応接室へと赴く。

 門衛さんから連絡は来ているだろうから、わざわざ足を運ぶ必要ないんじゃねぇのと思うが、万が一誤報だったらどうするとの事でこんなめんどうな事になっている。


 町長という立場上、味方も多ければ敵も多いのだ、このトーマスくんは。


「ですから、私の名前はエデ――」


「町長の名前は前世からトーマスと決まっている! 異議は却下だ」


 毎回会う度に名前を訂正しようとするトーマス。頭に被ったハット帽がハゲを隠す為だって知ってるんだからね! いい加減諦めろ。


 ラドは壁に掛けられた絵画が気になるのか、じろじろと遠慮なく眺め回している。

 大空を翔るドラゴンの絵だが、知り合いと似通った点でもあるのだろうか。


 観察を終えたラドがテケテケと俺が腰掛けるソファーの横に駆けた勢いのままに座り込み、受け止め切れずに押し倒された。


「重い……」


「あの絵画から隙間風を感じますよ?」


 もぞもぞと起き上がろうとして苦戦するふりをしながらそう耳打ちしてくる。が、そんくらい知ってる、ただの隠し通路だ。


「あー、よしよし」


 突き飛ばすのも流石に悪いと感じ、妥当に頭を撫でておく。ラドは満足げな顔になった。


「うぉっほん!」


 トーマスの咳払いで離れるかと思いきや、撫でられる事が気持ちいいのかラドは目を閉じて堪能している内に、あっという間に寝やがった。

 それも仕方がない。人間で言えばラドはまだまだ甘えたい盛りの子供だ。ドラゴンとはいえ、まだ幼い内の追放は堪えたのだろう。原因作ったの俺だがね。


 ……しばらく自由にさせておくか。


「んで、なんか町で変わった事はあったのか?」


「まさかの続行……。いいえ、貴方の不在中にあやつ等に動きはありませんでした。至って平和です」


「ボケカスハナクソハゲ」


「突然何を!?」


「その程度の情報知ってんだよ。バカにしてるのか? 俺が聞いたのは町の様子だ。誰が貴族について話せっつったよ間抜け」


「っ!」


 自分よりも遥かに幼い子供に罵倒されてプライドが傷付いたのか、トーマスは顔を赤くして歯軋りをする。

 元々、この町を治めていた町長はトーマスではなく、別に居たのだが、一家揃って魔物災害に見回れもうこの世には居ない。跡を継ぐ者も居らず、トーマスは首都から左遷される形でこの町へとやって来た。


 いつか首都へ返り咲こうとしているトーマスだが、正直言って彼の能力では無理だろう。首都の魑魅魍魎共を相手にするには知識も経験もまるで足りていない。簡単に足元を掬われて今よりも酷い環境に追いやられるのがオチだ。


 今のトーマスは言わば代理町長。このまま三年後に行われる新しい町長を決める選挙が始まれば、投票負け間違いなしだ。

 それほどこのトーマスの手腕は酷いもので、思わず俺が敵対する程だ。

 様々な過程を経て、ようやくトーマスが俺の聞く耳を持ったので敵対を止め、変な方向に突っ走らないよう舵取りをするのが俺の役目となっている。正直怠い。


 亡くなった前町長から秘書をやっているおっちゃんから、待ってましたとばかりに一枚の紙を渡された。そこには彼なりに分析されたこの六日間の町の様子が記載されている。


 冒険者ギルドの魔力測定器をぶっ壊した人物とは、近い内に会う必要がありそうだ。


「最近多いな。測定器が壊れる案件」


「あぁ、ギルドからの報告ですね。多いのですか? 測定器の故障でしょう? 魔力を計り切れないなど、それはもう化け物としか言えません」


 馬鹿馬鹿しいと言いたげなトーマスにじろりと目をやる。


「成る程。じゃあこの化け物がこの国だけで今月八件、全国合わせて計六十三件、来月には百人を越えるんじゃないか?」


「……なんですと」


 流石にこの異常性に気付いたのだろう。トーマスは真剣な顔で渡してやった報告書に目を通し始めた。


「これは、一体どういう傾向なんだ……?」


 訳が分からないのか、トーマスは小声でぶつぶつと呟いている。


「さてね。分かるのは、年単位の話だが近々波乱が起きるのは間違いない筈だ」


「と言うと?」


「戦争、いやそうなる前に内戦か。その化け物共を引き込んだ貴族、そして国が超戦力を持て余す筈がない。力ってのは使ってこそ価値があるんだよ」


 というのは、化け物共に共通点がない場合の話だ。そいつ等に何かしらの、例えば前世とかの共通点がある場合はもっとめんどうな事を考える必要がある。

 大人数の化け物共を各地にばら撒いて、する事と言えばそれはもう一つしかない。


「……駒と駒とのぶつかり合い」


 外れて欲しい予想だった。


 町長宅への挨拶を済ませて、俺とラドは拠点ホームへと足を向けた。

 町の中心から外れ、ちょっと外側に位置する拠点ホームは下手な屋敷よりも大きく、町長宅よりも立派な豪邸だ。

 元々ここは幽霊屋敷で、前町長からの依頼による幽霊退治の報酬にこの豪邸を貰った。

 維持費と庭師や使用人への人件費で丁度よく溜め込んでいた資金も吐き出せて都合がよかったのだ。


「お帰りなさいませ、旦那様」


「ただいま執事バトラー。屋敷で変わった事は?」


「ございません。強いて申し上げるなら、シェリナとヒロイの仲が少し進展したくらいでございます」


「お! マジか。恋人繋ぎくらいするようになったか!?」


「いいえ、シェリナがヒロイの為にお弁当を作るようになった程度で、相も変わらずヒロイはヘタレを発揮しております」


「おぅ、執事バトラーの口からヘタレという言葉を聞けるとは、お前、相当悶々としているな?」


「お恥ずかしながら。……して、そちらのお嬢さんは?」


 執事バトラーの視線が、俺から脇へと抱えられたラドへと移る。こいつ、あれから全然起きる気配がなく、めんどうになって丸太持ちして連れてきたのだ。


「俺の新しい奴隷だ。今はドラゴニュートって偽ってるが、本物のドラゴンだ」


 言うと、執事バトラーは珍しく目を丸くする。やったぜ。


「……成る程。お次は神様でも奴隷にするのですかな? この執事バトラー、もう驚きませんぞ」


「あながち、そうなるかもしれんぞ? 執事バトラー


 実際そうなるかどうかは、化け物共の動き方次第、だけどな。

 まーた名無しのキャラが増えたよ。

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