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プロローグ③

 踏み固められただけの街道を幌馬車で移動する事二日。

 馬を贅沢に二頭使っているから、移動速度は速い方だが、やはり片道が長い。車なら半日と掛からない距離を三日だ。それもガソリンぶち込むだけの車と違い、馬の世話は予想以上に大変で、全部トラに任せている。

 見た目完全に子供の俺に、馬のマッサージなんて出来る筈がない。


 馬用の餌に水、それに塩の塊と、何かと荷物が嵩張ってしまう。それを思うと、二頭も要らなく思えるから不思議だ。


 御者台にはトラとエルが座り、交替で馬を操っている。俺とラドは完全に戦力外だ。というか、俺はそもそもやる気がない。適当にだらだらしてるだけだ。


 ラドといえば苛立った様に二頭の馬を睨んでいる。

 最初、ラドはドラゴン形体に戻って自分が飛んだ方が早い、と主張していた。が、町から離れた所に降りようと、その存在を隠せる訳もないし、馬車とかどうすんのって話だし、わざわざ人化させた直後に元の姿に戻すとか、無駄にも程があるので結局却下なのだが。


 そんな経緯があったせいか、ラドは「気に入らねぇ」とばかりに馬へ殺気を向けていた。恐怖に駆られた馬が普段よりもやる気を出しているので放置しているのだが、余りストレスを掛けるのもよくない為適当なところでチョップして止めている。


「っは!」


 そろそろチョップするかなー、と思い始めると同時に、この二日で学習したのか、それとも危険を感じたのか知らないが、ラドが冷や汗を滲ませて馬から目を離した。勘のいい奴め。


 睨む事を止めると、途端にやる事がなく暇なのか、ラドはそわそわしている。


 一時間ぐらいそわそわし、ようやくラドは口を開いた。


「あの、主様? 単純な疑問なんですが、どうして私を奴隷に? その二人でも十分稼げるでしょう?」


 首に嵌められた無骨な首輪に手を添えながら、彼女はそんな事を言った。


 確かに、俺を養うだけならトラとエルだけで十分だ。寧ろラドは過剰戦力過ぎる。逆に要らない。

 だけど、だけども、だ。


「じゃあ誰が俺を構うんだよ」


「……はい?」


 ラドの目が点になった。


「二人が稼ぎに行ってる間暇なんだよ。だからこうして毎回付いて来ては荷物になってるんだよ。拠点ホームに居ると暇で暇で死にそうなんだよ」


 拠点ホームに居てもごろごろしているだけだし、一日中寝てても苦じゃないタイプでもないし、本読んでも直ぐに肩凝って投げ出すし。


「やる事と言ったら昵懇じっこんにしてる貴族と飲み会するぐらいなんだよ」


「大将の場合、それが一番重要なんだよなー」


「貴族からしても、マスターは貴重」


「今回のラド加入で危険視されなきゃいいがなー」


「マスターは変に信用あるから平気平気」


ドラゴン()にグーを入れる時点で主様が一番の危険人物では?」


「あー、なら問題ないのか?」


「マスターはまだまだ成長期」


「末恐ろしい……」


「全くだ……」


「なんだいなんだい! お前らばっかり意気投合しやがって! 俺は仲間外れか!? 泣くぞ! わんわん泣くぞこら!」


「ラド任せた」


「マスターの相手よろしく」


「あ、これ生け贄ってやつですね、分かります」


 何やら悟りを開いた顔をするラドに飛び掛かり、かーまーえーよー、とばかりに頭をぐりぐりする。服の上からでもその向こうが鱗のせいか、無駄にゴツゴツしていた。ゴツゴツというか、ゴリゴリ?


 三十分もするとラドはぐったりと疲弊しきっていた。


「ふぅ。満足」


 爽やかな気分だ。


「……子供の遊び相手って、偉大ですね」


大将(それ)、後一時間もすればまた構ってちゃんモードになるから頼むな」


「……奴隷じゃなきゃ逃げ出してますよ」


 ラドは死んだ。


 それから半日程で、拠点ホームがある町へと辿り着いた。人の出入りを管理する門で、身分証を提示すると門衛さんは若干慌てながら頭を下げる。

 本来なら麻薬の類いが持ち込まれないよう、荷物検査があるのだが、毎回されるのはめんどいので仲のいい貴族に言って俺達だけ特別扱いさせている。

 これで変なの持ち込んだらその貴族に泥を塗りたくる事になるので、こっちはこっちで敵対勢力の貴族の配下に妙なもん投げ込まれないよう注意する必要があるのだが、まぁいいや。


 奴隷共にはポケットや荷物に気を付けるよう言い付けているから、問題はない。


 そういった意味では、拠点ホームを六日間も空けるのはそれなりに危険なのだが、過去に入り込んだ空き巣と背後に居た貴族にはきっちりかっちり報復したので、今後同じ様な事は余り起きないだろう。


 派閥争いは正直怠い。どちらかと言うと中立なのだが、その日の気分で味方にも敵にもなり得る俺達は貴族からしてみれば扱い難い事この上ないだろう。


 現に、荷物検査をパスさせている貴族も、ちょっと前まではバリバリの敵同士だったのだから。

 まぁ、向こうからしてみればたったこれだけで俺達が敵にならないのだから、お徳だろう。


 損得勘定を抜きに仲良くしている貴族も居るが、今は忙しいらしくこの町には居ない。


 成功を納めるという事は、それなりにめんどうな立場に身を置くという事だ。


「んじゃ、俺はお得意さんとこにただいまの挨拶してくるから、適当にしてろ。あっ、ラドは俺と一緒に来い」


 いつもの事なので、トラとエルは慣れたように応じ、ラドは「えぇー」と不満を漏らした。


「不満がるな! 俺だってめんどいんだから!」


 新しくラドが俺の勢力に加入した事をアピールせにゃならんのだ。こういうのは迅速に動いた方が後々めんどうが少なく済むので怠る訳にはいかない。


 幌馬車からラドを連れて降り、その辺の屋台から串焼きを買って小腹を満たしておく。ラドにも買ってやると、一口かじって何やら感動していた。


「どしたのお前……」


「こう、加工された食べ物が始めてで、予想以上に美味しくて……っ!」


 感涙しながら食べる奴始めて見た。

 記念にもう三本買ってやると顔を輝かせた。可愛い奴である。


 ドラゴニュートはそれなりに珍しい種族で、やはりというか、注目を集めている。角や尻尾をそのままにしているから当たり前と言えば当たり前なのだが、鬱陶しい。


 適当に睨むと野次馬は逃げた。根性無しめ。


「食い終わったらその辺の角に投げとけよ」


「えっ。流石にそれは……」


「孤児とかがゴミ集めて換金すんだよ、そういうのを」


「はぁ。人間の文化って、よく分かりませんね」


 等と言いながら、ラドは言われた通り串を折って道の角に投げ捨てた。五分とせずあれは誰かに拾われるだろう。


「んじゃ、貴族んとこ行くかー」


「意外と律儀」


「アホ、そんなんじゃねぇの。荷物検査の他にも色々と融通して貰ってるからさ。町から離れる時と戻った時は報告してくれって頼み込まれてんの」


「へぇ。相手は一体どういう貴族なんですか?」


「あー、貴族っつーか。町長?」

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