ちっぽけな虚栄心
「これで……とどめだ!」
ユルゲンスが右手を振りかざし、詠唱を行おうとしたその瞬間……
「背後から攻撃なんて卑怯じゃねーのか? おい?
――《黒槍突衝》(ブラックブラウニー)」
横から槍が飛んできた。まさに横槍が飛んできた。彈野原がユルゲンスに向けた一撃だった。
「とっておきだ! 逃がさねえぜ!
――《漆黒獄双槍》(ヘリッシュガトーショコラ)」
二本の大槍がユルゲンスを襲う。ユルゲンスは咄嗟に《克巧力》を発揮して応戦するも、その攻撃を防ぐので精いっぱいだった。
「――《螺旋竜巻風》(トルネリンデンロールケーキ)!」
二人は飴色の爆風に包まれ、外側から二人の姿を目視することは出来なかった……
「ほらほら! よそ見してる暇はないと思うけどね!
――《灼熱焦土》(バーンクレープシュゼット)!
――《焼挟炎囲》(アルタータルトタタン)!」
夕影と天彩は我舞谷と牧ノ矢の二人と戦っていた。我舞谷は地面をマグマのような高温の状態に変え、周りを炎で囲い、二人を包みこんだ。そして……
「《直線鋭刺》(ストレートプレッツェル)!」
牧ノ矢が夕影と天彩に虎視眈々と冷静に狙いを定め、的確に《克巧力》で作られた犀利な刃を射撃する。
「夕影君、どうしよう……」
周章狼狽する天彩。
――俺は、絶対天彩を守って見せる。
そこにあったのは、ちっぽけな虚栄心。
ただそれだけだった……天彩を守る。
愛する女性を脅威、恐怖、危難から救い出してやる!
ただ、それだけだった……
――いくぜッ! 俺はやってやる!
夕影がまさに今から全力でカッコつけて、いかにも主人公的で、いかにも英雄的、別の言い方をすれば向う見ずな突発的な行動、蛮勇ともいえる行動に及ぼうとした、まさにその時、ホイッスルが鳴り響く。
「はーい! みなさーん! そこまでー! そして、みなさーん! これから言うことを良く聞いてくださーい!」
美甘先生が拡声器越しに大声で皆に届くような声で呼びかけた。
《お菓子》でおかしな魔法、色々あるよ。
次回は明日6月4日7時更新です。