おやつタイム
――俺はあの期待や責任から逃げてばかりで真剣に向き合うってことを忘れていたのかもしれない……
物思いに耽っている夕影を現実世界に呼び戻したのは、天彩の呼ぶ声だった。
「みんなー! みてみてー!」
天彩と無相の二人は部隊の支援組で夕影たちの衣装作りを含めた準備の仕事を兼ねていた。つまり天彩が夕影の下にやってきたということはその作業が終了したことを意味する。
夕影が天彩の方を見遣るとその両手には華美な装飾を施した衣装がばっちり四人分用意されていた。
「天彩! ありがとう! この衣装すごく可愛い!」
夕影は天彩に感謝の意を伝えるとともに、普段自分が着る服に対して可愛いと思ったことはないため、ひどく違和感を覚えた。
「夕影惟斗、アイドルにとって衣装は普通の少女からアイドルに変わるための重要で神聖なアイテムです。さあ、その衣装を身にまとい、あなたもアイドゥルとなるのです!」
無相はその無機質な瞳で夕影をみつめ、夕影の着ている服を脱がそうとしてそのボタンに手を伸ばす。
「ちょ、待てって! 心の準備が!」
「もう心はとっくにその気なくせにー! そんな抵抗、無意味ですよ!」
夕影が拒絶しているのをものともせずに無相はぐいぐいと夕影に近づいてゆく。
「ちょ、そんなに近づくなって……うわっ……」
無相に押し倒される形で、夕影が後ろ向きに転倒するかと思われたその時、
「なーにやってんだか、二人とも」
我舞谷が転倒しそうになった夕影の腰を持って支えていた。
「ありがとう……我舞谷。助かった……」
「あらあら、なーにがありがとうよ。本音のところはくそう……残念だったぜ、でしょうが。せっかく『こ、この感触は……』って言って無相さんのおっぱいを不慮の事故を装って揉み拉くチャンスだったのにね。このラッキースケベを狙った変態プロデューサーめ! 我舞谷さん……そこは、夕影さんをキャッチしないのが正解だったわよ」
助けてくれた我舞谷とは対照的に、隣の牧ノ矢は酷い言い様である。
「惟斗君……本当なの?」
「え……いや、決してそんなことは……」
滅相もございませんと言いたいが、正直少し期待してしまっていた自分がいたために夕影は思わず口をつぐんだ。
「別にあなたのためにやったんじゃないから。ただそこに腰骨があったってだけのことだから。勘違いしないで欲しいわ」
字面だけをみるといかにもツンデレ風に見えてしまうが、決してそうではない。我舞谷はそのような語調で言ったのではない。あくまで棒読みだった。
――ってか腰骨があっただけだからってどういうことだよ。
「とにかく! みんなそろったことだし久しぶりにみんなで作戦会議も兼ねたおやつタイムにしようぜ!」
夕影がそう言って水会が用意してくれたお菓子の方に目を向けると……
次回は6月26日7時更新です。




