大変よ!
「それじゃあ! この編成で一年エクレア組は《天上天下ユイちゃんが独尊カップ》に出場する!」
こうして夕影が最後に宣誓することで一年エクレア組は皆が同じ方を向いて走り出すことが出来るようになった。
――俺達は水会を中心として、《天上天下ユイちゃんが独尊カップ》に向けて全力で練習し、特訓し、鍛錬し、あっという間に決選当日を迎える……
――なんてことはなかった。
「残念ながらあっという間に日々が過ぎてしまうなんてことはないですよっ! はい! 今彈野原さん右足が遅れてましたっ! ユルゲンスさんはいつもさっきのところタイミング早いですよっ! そして夕影さんはもう少し私と合わせてください……全てのステップが遅れてます。そしてテンポも定まっていません。その上キレがないですっ!」
こんなのじゃあの光樂って人に勝てませんよっ! という言葉が口癖なのかと思えるほど夕影は水会からその言葉を聞いた。つまりそのくらい夕影は水会にダメ出しされたということで水会のレッスンは思っていた以上に厳しかった。本来は夕影がリードするつもりだったにも関わらず、今ではすっかりその立場は逆転してしまっている。
「水会! 休憩だ! 休憩しよう!」
「休憩はさっきしたところじゃないですかっ! 弱音を吐いてちゃ……」
「光樂に勝てない、だろ? 大丈夫! 大丈夫! 光樂は本当のアイドルじゃない。演技力じゃこっちが負けることはないよ」
夕影は慢心していた。水会がいる限りこのクラスは負けない。そう心のどこかで確信していた。だからこそ、ある程度の練習ですっかり満足してしまっていた。
「まあ、そうかもですね……まあ、私が気合入りすぎだったのかもしれません……休憩にしましょうか」
ここでムキになって練習を無理強いしてこないのが水会で、だからこそ皆は水会の練習についてゆくことができた。そしてなにより水会自身も自分たち以上の演技を一年ババロア組を始めとする他のクラスが出来るとは思っていなかったのであろう。
――だが、その傲岸不遜な態度を改めなければならないほどの事態が発生する。
「夕影プロデューサー! 大変よ!」
そう言って押っ取り刀で駆けつけたのは、我舞谷と牧ノ矢、舞台攻撃部隊の二人だった。
「そんなに慌てて、どうしたんだ二人とも。らしくないな」
いつもは冷静沈着、駆け足する姿さえみないようなクールな二人であったが、息を切らせて呼吸が乱れているようだった。
「それが……私たちの初戦の相手の一年ババロア組だけど、私たちのクラス以上のものを持っているわ……」
「正直、余裕勝ちできると高を括っていた節があったことは否めない私たちだけど、その認識を改める必要がある……」
「二人とも何があったんだよ、二人は連携攻撃の練習をしていたんじゃなかったのか」
夕影には正直なところ二人の言っていることが、何かのドッキリか何か、つまるところ冗談のように思われた。だが、一向に二人の態度が安堵に変わることはなく二人は深刻そうな面持ちで続けた。
「興味本位でね、覗いちゃったのよ……まあ、敵情視察ってやつね」
「そしたら、あの光樂って男の娘の動き……かなり精錬されてた。どうやって勉強したのかは分からないけれど、無駄のない動き。とても一日二日でマスターできるような動きじゃなかった……」
――夕影さん、何か心当たりは?
と二人に問われた夕影であったが、そのような心当たりは全くなかった。
この時夕影が感じ取ったのは得体のしれないおぞましさだけで、この二人がこれだけ動揺しているということを考えると事態は只事ではないのだと思った。
次回は6月24日7時更新です。




