もう一度
「水会さんを抜擢する理由はもちろんあるんでしょうね?」
牧ノ矢は半信半疑に尋ねると、夕影の隣にいた水会が右足を一歩前に踏み出して皆の前に立ち、厳然とした態度で言った。
「私はかつて本気でアイドルを目指していたことがあります
……毎日歌って踊って、歌って踊って
……それの繰り返しでした。
でも、私はそれを諦めてしまった。自分にはもう無理だ、自分には才能がないからダメだって諦めてしまいました。でも、私は夕影さんに背中を押されて、かつて抱いていた夢をもう一度掴んでみたいと思いました。我儘で自分勝手だって言うのは分かってます!
それでも私は! もう一度頑張ってみたいんです!
もしもこの中の誰か一人でも私にアイドルは向いてないと思ったらその場で私は舞台から降りるつもりです。そのぐらいの心構えは出来ています。なので、その時は遠慮せずに言ってください!
よろしくお願いします!」
それはほんの少しの決意表明だったのかもしれないが、水会が普段の弱々しい姿からは想像できないほどの勇ましさをみせつけたため他の皆はどんな言葉をかけたらよいのか分からない様子だった。
「……雪凍乃ちゃんがそう言うなら……私は信じるよ」
沈黙を破り一番に口を開いたのは天彩心結で、その表情は素直にその決意に対する敬意を表するものとは別に、わずかな悋気、羨望の眼差しがあったようにも思えた。
「まあ、私はバックダンサーやれるならなんでも良いけどな!」
彈野原は自分の意に沿った編成が公表されたようで満足気に大笑していた。
「ふふふ……唯虎は私の足手まといにならぬようにな!」
「言っとけ言っとけ! ユイアーネこそ私の動きについてこれなくなっても知らねーからな!」
「ふふふ……望むところだ!」
ユルゲンスもいつものように彈野原との談笑を楽しんでいるようにみえた。
「まあ、妥当なんじゃない? 私と牧ノ矢さんで敵の舞台をめちゃくちゃにすれば良いんでしょ?」
「そうね……私たちが大人しいだけの可憐でクールな乙女じゃないってところを見せてあげるわ」
我舞谷と牧ノ矢たちは夕影の決断に異を唱えることはなく、自分たちの役割を認識した上でその考えに賛同していた。もちろん本音のところを言えばこの二人も舞台に立ちたかったであろうが、誰もが皆が舞台に立てるわけではないということは承知していたし、誰かが折れなければならないということは心のどこかで悟っていたようだった。
「私の意味は夕影惟斗の護衛ってことですか。意味ありますね」
無相も意味ある配役に納得したようでそれ以上は何も言わなかった。
「それじゃあ! この編成で一年エクレア組は《天上天下ユイちゃんが独尊カップ》に出場する!」
こうして夕影が最後に宣誓することで一年エクレア組は皆が同じ方を向いて走り出すことが出来るようになった。
次回は6月23日7時更新です。




