もう一人のユイト
「え、今、ゆいとって……え? え?」
夕影の幼馴染、光樂幽絲は『男の娘』だった――見た目は美少女だが中身は正真正銘の男性である。だが、一年エクレア組のクラスメイトには目の前にいる女の子の恰好をした人物が男性だとは思えないようで、周りは皆困惑気味だった。
「えへへ。ダブル主人公、狙っちゃってますから。さあ、ここから僕たちの物語を始めよう! 惟斗となら、どこまでも飛んでいける! そんな気がするんだ……」
「飛んでいくってどこにだよ。ってか女装少年が主人公になれるわけねーんだよ。いい加減そのキモい趣味はやめろって言ってるだろ……まったく、小学生のころから変わんねーな」
「キモい趣味とは心外だなあ……僕は真面目にの男の娘になろうとしてるんだからねッ! ほら、惟斗、みて! パンツ!」
全く恥じらうことなく光樂はそのスカートをまくしあげて純白のパンツ、男子用のものではないショーツというものを曝した。
「男の娘ってのはもっとこう……恥じらいを持って、おしとやかに慎ましくって感じですよ!」
そこに間髪いれずに横から無相有意味が難詰してきた。
「ちっちっち、そんなの誰が決めたのさ。男の娘が恥じらいながらもじもじするただの女顔の中世的な男性だけのことを指すと思ったら大間違いだよ。僕に言わせれば、そんなのはただの『か弱い男の子』だよ、『男の娘』とは程遠い存在であると言ってもいいね! 可愛く見せるための努力をしてこそ『娘』と呼ばれるのであって、断じてただの軟弱な男子のことを僕は『男の娘』だとは思わない。男の娘の認識が徐々に一般の人にも広まってきてる今こそ! 立ち上がれ、男の娘! 男の娘最高! 全世界にあまねく男の娘に幸あれ!」
光樂は右手を天高く突き上げながら、全世界の女装男子にエールを送っていた。
「まさか、お前もこのへんてこな世界にいたなんてな。偶然って恐ろしいな……ってかパンツなんて見せつけられても俺はお前になびくことなんてないからな!」
夕影はそう言いながら久しぶりの友人との再会を喜んでいた。まさかこんなところで会うなんて思いもしなかった。本当に人生は何が起こるか分からないものだなんて考えていた。
「ちぇっ……惟斗のいじわるー! じゃあ、僕は惟斗の敵になっちゃおうかなー!」
ほっぺたをいじらしく膨らませて光樂は言った。どこからどう見てもこれが男だとは思えない。
「ああ、別に構わないぜ。今さらお前なんて怖くねーよ。どこからでもかかってきやがれ」
「あー言ったなー! じゃあ、本当に敵になっちゃうんだからねー! ってことでほい! 僕はセンターだから、惟斗も必ずセンターね!」
光樂が手渡してきたのは、一枚の紙。そこには、はっきりとこう書かれていた。
『一年エクレア組×一年ババロア組』
「おい、これってどういう……」
「みたらわかるでしょ! 僕は一年ババロア組だからッ! じゃーねー!」
紛れもなく《天上天下ユイちゃんが独尊カップ》のマッチングリストだった。光樂は夕影にそれを渡してさっさと教室から姿を消した。
「おい、おい、おい……」
夕影はどうコメントして良いのか分からずにただただたじろぐのみだった。
一年ババロア組の男子生徒とは、光樂幽絲のことであった。圧倒的なカリスマ性、突出した実力、抜群の才能という、確固たるリーダーとしての素質を持ち合わせた生徒光樂。夕影たちはこの光樂率いる一年ババロア組と対峙し、勝利しなければならない。夕影がこれからどうなるのか、それを知る者は誰もいない。
次回は明日6月13日7時更新です。




