エントリーナンバー1番
教室の隅で何かが蠕動を繰り返している――それもかなり大きい何かが。おそるおそる夕影はその謎の何かに近づいてみると……
「しましま……」
夕影の前には白と水色の爽やかなストライプ柄のパンツが見えた。夕影がさらに歩を進めようとすると……
「ひ、ひゃうっ!」
夕影の到来に声をあげたのは水会だった。今にも泣きそうな目でこちらを見ている。
「水会……こんなところで何やってんだ?」
「なんだか良いアイデアが全く浮かばなくって……ここにいると落ち着くんです……」
パンツをこちらに向けたまま、水会は力なく言った。どうやら、いい案が浮かばなくて懊悩しているらしい。
「そんなに心配しなくたって審査員は俺だぜ、なにも緊張することなんてない。精いっぱい、思うようにやればいいさ。別に、落ちたら何かあるってわけでもないし、ほんとに気楽にやれば良いと思うぜ」
「い、いやでもッ……」
「ん?」
「い、いや……なんでもないです……」
水会は何かを言いかけてやめた。そしてこう続けた。
「そ、そうですよね……がんばってみます!」
力こぶを出すしぐさをしながら水会は元気よく言った。曇っていた水会の表情が安堵の表情へと変わったのが夕影には分かった。そして、なんとなく、水会から目に見えない力を感じた。
そして迎えたオーディション当日。
「はーい! これから一年エクレア組、アイドル選抜オーディションを行いまーす!」
美甘先生が威勢よく開会宣言をして、オーディションはスタートした。
「ルールは簡単! 三分の持ち時間を使ってプロデューサーである夕影君に思いっきりアピールすること! そんだけでーす!」
大雑把すぎるルール説明ではあるが、あながち、というかほぼ間違っていなかったので夕影は訂正しなかった。このオーディションはあくまで夕影の独断と偏見によるもので、夕影のハート射とめたものこそが選ばれる、ただそれだけなのだ。
「早速いってみよー! エントリーナンバー一番! 天彩 心結さん!」
――いきなり登場、大本命、天彩心結。
「よろしくお願いしまーす!」
ワンピースはビビッドカラーの赤チェック、不釣り合いにまでに大きな黄色のリボンに純白の膝丈スカートをひらひらとなびかせながら天彩が夕影の前に姿を現した。その姿はまるでテレビで見るようなアイドルそのもので、夕影は天彩に思わず握手を求めそうになった。夕影は、学校では決して見れない天彩の姿を見ることができて自分はなんてラッキーなんだろうと思った。そして、一瞬のうちに審査ということを放棄し、その神秘的な美しさにため息を漏らした。
――そう、天彩は既に夕影の心を射抜いていた。
「夕影プロデューサー! 夕影プロデューサー! どうか、戻ってきてくださーい」
夕影が呆然としたままでいるのを見かねた美甘先生が夕影の肩を必死に揺らし、夕影を正気に戻した。
「はっ! 俺としたことが、いけない、いけない……俺はただ、天彩を審査するだけなんだ。天彩を審査、天彩を審査、天彩を審査、天彩は可愛い、可愛い天彩……いや違う、天彩を審査するんだ。審査するだけ、落ち着け、落ち着け、俺……」
天彩に告白した時のように夕影は動揺していた。まさかこんなにドキドキさせられる展開になるなんて思いもしなかった。確かに、少し考えてみれば分かることだった。いくら、夕影ハーレムなんだの言われても、俺は天彩のことが好きなんだ、天彩のことが好きで好きでたまらない
――この気持ちに偽りなんて無い。俺はそんじょそこらの何人ものヒロインを前にしてうろたえるような、典型的な優柔不断ボーイとは違うんだ。だからこそ、このオーディションは出来レースだ。最初から俺が選ぶ人間は決まっている
――こんな決め方で決めてしまうのは忍びないし、俺に選ばれようとして色々策を巡らしていた皆に申し訳ない。
夕影はこのオーディションの審査員を正式に降りることを決意した。
――だが、そんな夕影の意志は無意味だった。
オーディションの行方は!?
次回は明日6月11日7時更新です。




