《スイーツグランプリ》の行方
きまりの悪かった夕影であったが、そのことについては誰からも咎められることなく収拾がついた。
――それもそのはず、奴は唐突にやってきた。
――ぐるるるる……
「え……あの……これは……」
水会の腹の虫が皆に聞こえるくらいに大きなうめき声をあげた。
皆は興奮状態のせい今の今までで気にしていなかったようだが、突然、戦いに終止符が打たれたことにより、そして、夕影の下らないはかりごとによって、その緊張が解けたことにより……すっかり我に返り、
――そして、気がついた。
「お腹すいたあ……」
「疲れたあ……」
誰もが皆、ひどく空腹で、疲労困憊の状態だった。それもそのはず、この《克巧力》の源はカロリーである。消費すればお腹は減るし、力も減退してゆく一方だ。
「さあ、さあ、食べて食べて! 腹が減っては戦が出来ぬってね!」
美甘先生は生徒一人一人にクッキーを手渡していった。
そこからは、女の子がバクバクとクッキーやらケーキやらを貪る姿が散見された。
「お、美味しい!」
「このバターの格調高い香りがたまらぬな!」
「サクサク食べれて、表面の砂糖の食感がたまんないー!」
「このタルト、しっとり、もっちり、口の中でとろけるううう!」
「すごい!このフィナンシェ、ハート型になってる! かわいい!」
「チョコレートケーキもしつこくない甘さで何個でもいけるぞ!」
「……これは、文句ないです」
間断なく女の子の口の中へと吸い込まれてゆくスイーツ達、それを眺めながら夕影はひっそりと呟く。
「そんなに食べたら太るんじゃ……」
「「「「スイーツは別腹なの!」」」」
夕影に向けての女子からの激しい反撃の一言が浴びせられる。
――別腹もなにもさっきからスイーツしか食べてないんじゃ……
そこには女子力の女の字もなかったが、幸福そうにスイーツを食べるその姿、美味しいものを食べたことで浮かび上がるその満面の笑みはなんだか可愛げがあって……
――ものすごく良いです!
夕影は心の中でサムアップしていた。
そして夕影たちはこの《スイーツグランプリ》について振り返っていた。
「まったくなんだったんだ……ほんと、とんだ茶番劇だったな……」
「そうだね、でもさすがにあの時は死ぬかと思ったよ……」
「だけど、本当に使えたんだね。《魔法》……まさか本当に使えるなんて……そして、あの時はごめん。ちょっと熱くなりすぎてた……」
牧ノ矢が夕影と天彩に謝罪し、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「だけどあの時はみんな必死だったから仕方がないよ。にしても、その《ユイドラシル》ってのはそこまで重要なもんなのか?」
美甘先生がその言葉を口にした瞬間、皆の眼の色が変わるのを夕影は感じていた。だからこそこの《ユイドラシル》には相当の意味があると思っていた。
「そうね……私も詳しくは知らないんだけど、この学校ではそれを目指してみんな競い合う、らしい……」
「そうよ、その称号には全てを手にすることの出来る力がある。だから私たちはそれを目指して戦うの……
――そのためとなれば……私はどんなことでもする覚悟よ!」
我舞谷が語気を強めて言った。そして、そこには我舞谷の強い意志を感じ取ることが出来た。
「だけど、我舞谷さん! 私たちは同じ釜の飯を食った仲ならぬ、同じ皿のケーキを食った仲なのよ! 喧嘩はいけません!」
美甘先生がクッキー片手に夕影たちの前に現れた。
「っていっても……周りがみんな敵なんだったらそうするしか……」
水会がそう言って口を挟む。
「水会さん。その考えは間違っているわ……なぜなら《ユイドラシル》というのは、クラス全体の称号なのだから……」
「……!?」
クラス全員に衝撃が走る。
「ってことは、クラスの皆で力を合わせて目指すってことなのか……」
「その通りよ、夕影君! これからみんなは他クラスとしのぎを削ってもらうことになります! だからクラスの皆は味方なんです、お互いにいがみ合うことも、憎しみ合うことも、蹴落とし合うこともありません!」
「じゃあ、さっきの戦いになんの意味が……」
無相が先の戦いの無意味さを嘆いていた。
「無相さん、それは最初に言ったように、委員長を選ぶって目的があるって言ったじゃない、それは変わらないわ。それでは早速、この一年エクレア組の委員長が決定したので名前を呼びたいと思います……」
ついに次回委員長決定!
次回は明日6月7日7時更新です。




