Twilight
この小説は過去、ホームページ「即興小説トレーニング」に1時間で記述したものを再掲しています。
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=399065
スマホを見ると、早希からラインが来ていた。
早希は中学の同級生で、ひょんなことから一緒になって、ずっと友達のまま過ごしてきていた。
ケンカもあんまりせず、マンガの趣味も合わず、好きなこのタイプも合わなかったが、好きな食べもの(メロンパン!)、好きなテレビ番組は合っていた。
凸凹コンビにも、好き者同士というわけでもないけれど、私達同士はずっと友達だった。この親交は、大学を卒業して就職してからも続いている。ありがたいことだ、と思う。
そんな早希からのライン。職場から帰る地下鉄に揺られる中で、ふと通知を見る。
「かぜひいた」
就職してからは2ヶ月に一回のペースで会って、喫茶店で他愛のない話をするのが私達の慣習となっていた。ただ、毎日ラインをやり取りし合ったり、長時間電話で長話をするような間柄ではもう、なかった。
なんたって、学生のときにやり切っちゃったんだもの。昔っからの中だから、話す内容も大体は分かるもの。
ただ、今日の連絡は少し心をざわつかせた。昔から体の強い方ではないと思ったが、そんなに弱くもない。
「大丈夫?」
私は返信したけれど、その通知を彼女は30分は見ていないようだった。
今日はたまたま早く帰れたので、帰って海外ドラマの続きでも見ようと思っていたけど、早希のことが心配になった。
私は、スーパーへ寄ってから帰ろうと歩いていた道のりを、早希の最寄り駅まで向かうために引き返した。
電車内。
くたびれた姿の中年リーマンや、部活帰りで鼻の頭を赤くテカテカさせた女の子。いろいろな人が電車に乗って、自分の居場所へ帰っていく。夕方だから、なんとなく、暗いフィルターが人々にかかっているように思えた。
でも、私は、これから向かうのだ。早希のもとへ。
早希の最寄り駅に着いてからも、私はあまり気が晴れなかった。
途中薬局に寄り、風邪に効果がありそうなものを用意していても、そのなんとなく沈んだ気持ちは浮かんできそうになかったのだ。
程なくして白地の古ぼけたアパートの前に着いた。早希の部屋は203号室だ。
カンカンと音を鳴らして階段を上がっていく。私は何度かここには来たことがある。早希は私が2階に上がると同時にドアを開けて待っていてくれることもあった。何度か来ているうちに、私の足音を覚えてしまったそうだ。
だけど、今日はあの可愛い顔で迎えてくれそうもないことは分かっていた。そうしてくれていたほうがずっといいとも思った。
インターホンを押す。「来たよ、しずかだよ。」
少しの沈黙のうち、ガチャっと音がして、ドアが開く。浮かない顔をして現れた小柄な女性は、私の顔を見て安心した顔に変化した。
ちょっと赤い顔をしているいつもの友人は、普段と比べ、はつらつとした彼女特有の雰囲気が出ていない。
「しずかぁ」
「ほぉらぁ、そんな顔しないの。来てあげたよ」
「ありがとう、うぅ…」
「いいから寝てな。何か作ってあげる」
「うー、ごめんねぇ」
部屋に入って早々に、フラフラしながらキッチンに行こうとしていた早希を静止して、私はベッドへ急かす。
彼女は紅茶が好きで、それ以上に、私に紅茶を出すのが好きだった。私もそんな早希が好きだった。
ただ、見るからに病人の今の早希にやらせる訳にはいかない。早希がベッドに入ったのを確認して、私はキッチンへと入った。
…
「ほら、ホットミルク。あと風邪薬も買ってきたから」
お盆に乗せて彼女が待つ寝室へ。仰向けに寝ている彼女は、布団に包まれるように縮こまっていた。
「ありがとう」
「いいのいいの、困ったときはお互い様でしょ」
「うぅ…ごめんね、忙しいのに」
「何言ってるの、会社が終わったついでだったから」
彼女の近くにお盆を持っていき、そっとホットミルクを手渡す。部屋には甘い香りが漂う。ハチミツ入りの牛乳。これも早希が好きなものだ。
「ありがとう」
「早く治ってね」
薬もしっかりと飲み終えたしずかは、やはり体力の消耗が激しいのか、すぐに眠りについた。
私はベッドのそばに座って、そんな彼女を見つめていた。
額に手をやる。少し苦しそうな彼女の顔は、赤みがかって熱かった。
「高熱ね」
呟いた私は、しかし口元が緩むのを感じていた。
早希の手を握りながら、私は、心に今日一番の暖かさを感じていたのだった。
「早く良くなってね、早希。」




