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第5話 赤い紐事件(5)

「それでは、ここにサインを……」


 僕は『魔法律関連事件における弁護業務専属委託契約』という契約書にサインをした。これで僕はアシュリーに頼るしかなくなった訳だ。


 なお、事務所の前で会話していた時より30分ほど時間が経過している。なぜなら……


「ここが事務所?」

「ええ、何か問題でも?」


 事務所として通されたのは、古書店の前にあるクリーニング屋。その中を通ってレジの後ろにあるクリーニング屋の住人が住む居間を通り、奥の階段を梯子を上がった2階。そこには沢山のまだ引き取られていないワイシャツやらコートが掛かっている棚があり、それをかき分けて進むと、僕がいた古書店を見下ろすような位置にある窓際、そこにポツンとある事務机と、その前にある丸椅子。


「これが事務所?」


 僕は少し表現を変えて、もう一度確認した。


「ですから、何か問題でも?」

「問題はありませんが……帰っていいですか?」

「違約金をお支払いになると?」

「こんな魔法律事務所なんて信じられないですよ。そもそも、アシュリーさん、あなたは本当に魔法調査士なんですか?」

「そこからですか?」

「ええ、そこからです」


 魔法調査士というのは、自称でなれるものではない。

 魔法使いとしては最難関の国家資格「魔法士免許資格試験」に合格し、2年間の研修を受ける必要がある。


「だいたい、アシュリーさん、おいくつですか?」

「女性に年齢を聞くとは、タイチローさんはマナーを知りませんね」

「おいくつですか?」

「それとも、私の美貌に興味を持ってしまいましたか? はっ……ここには二人っきり。こんな所に連れ込んで、一体、何をするつもり?」


 アシュリーは両手で身体を抱きしめ、僕を睨みつけた。


「あなたが僕を連れてきたんです!」

「そうですか。それではサインを……」


「だから、アシュリーさん、あなたは本当に魔法士なんですか? みたところ、随分お若いように見えますが」

「そうですか。若くて美しいなんて口がうますぎますよ」


 今度はそう言って、僕を上目で見上げる。

 確かに美貌というのは間違い無い。だが、


「ごまかされませんし、美しいとも言ってません。そうだ、魔法士には免状があるはずです。それを見せてください」

「タイチローさんは、ムードがありませんね」


 そういいながら、アシュリーはようやく机の引き出しを開け、ごそごそと探し始めた。


「確か……この奥に……あ、ありました。はい」

「貸してください」


 アシュリーが差し出した薄い緑色の名刺大の石版には間違いなく、


『魔法士: アシュリー・セラフィーナ・クロッカー』


 魔法士としての認定日は先月の日付、そして、その下には生年月日が記載されており、


「え、17歳?」

「ええ、そうですわ」


 僕の1つ下……魔法士として認定されるには免許資格に合格後、2年間の研修期間が必要だ。という事は、アシュリーは15歳の時に試験には合格したという事か?


 国家魔法士という資格には年齢的な制約は無い。

 なぜなら、難易度がそもそも高いため、年齢制限を設ける事に、大きな意味が無いからだ。


 才能があって、更にその才能を踏み台にした努力があって、初めて合格できる最難関試験。


 通常、王立学院のような専門性の高い教育機関において、僕のような研究系の学科ではなく、実践系の学科を卒業し、その後、資格専門の魔法スクールと呼ばれる学校に通った後に試験に挑むというのが一般的と言われている。


 試験は年に1回しか無い。

 平均受験回数2から3回、平均合格年齢27歳から28歳と言われており、ひどい人になると10年以上も繰り返し受験しても受からないと言われているほどだ。


 その試験範囲は、魔法律だけでなく魔法に関する法律全般も含めた知識が必要であり、一流の魔法使いとしての戦闘能力(・・・)も求められる。このため、合格後の研修期間中に挫折をしたり、命を落としたりする人も多く、試験に合格してから実際に魔法士としての職業に付くまで、また多くの人が振り落とされるのだ。


 最終的に魔法士となるのは、年間で100名前後。


 これがこの国の魔法士という存在だ。

 

「史上最年少合格……とまでは、実はいかなかったのですが、魔法士史上2番目に若い合格者になります」


 魔法士になると、魔法監察院の監士か、アシュリーのような魔法調査士、そして通常の事件の裁判官のような仕事にあたる魔法判士の3つの職業に就く事が出来る。優秀な魔法士の中でも、特に成績上位者は、その能力を買われ監士か魔法判士になる者が多いらしい。


 魔法調査士は、落ちこぼれか、監士の引退後の職業だとも揶揄されている。


「若いのに珍しい」

「珍しいものが好きなんですわ」

「でも新人か」

「フレッシュというのも売りになってます」


 アシュリーが机の向こうで、変なシナを作っている。


「サインは……」

「していただけないのであれば、解約違約金ですわ」

「しなきゃいけないんですね」


 僕の言葉を聞き、アシュリーはニコリと笑い、僕に契約書を差し出した。


良い子のみんなは、その場で契約しては駄目ですよ……怪しい契約書は、持ち帰ってちゃんと吟味しましょう。

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