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第9話 赤い紐事件(エピローグ)

 終わりだというアシュリーの言葉が気になって、中々寝付きの悪い夜となってしまったのだが、それでもいつの間に寝てしまっていた。


「タイチローさん! 朝ですよ!」


 僕は部屋のノックの音で起こされた。

 まだ眠り足りない気もしていたが、今日は監察院に行って、事件が終わったというアシュリーの言葉を確認しに行く必要がある。


「起きました! 起きました……えっ?」


 今、僕を起こした声に違和感があった。

 慌ててドアを開けると、そこには、


「クロエさん?」

「おはようございます。タイチローさん。朝ですよ。朝食にしましょう!」


 僕がリビングに出ると、すっかり出かける準備をしたアシュリーが朝食を前に苦笑いしながら座っていた。


「このアパートは、モーニング付きだったのですね」

「い、いや……そんなサービスは無いはずなのだが……」


 タイチローがそう言うと、


「こ、これは新サービスです。店子に対するサービスなんですよ! きょ、居から始めました! これからも毎朝、目覚ましと朝食サービス付きになりますからね!」


 クロエが顔を真っ赤にしながら、そう説明した。


 どうやら僕は、今後、寝坊と朝食の心配は不要になったらしい……


***


「それで、どういう事なんですか?」

「そうですね……監察院までの道すがら、説明しましょうか」

「お願いします」


 僕は昨日事件のあった古書店を管轄としている監察院の第18分署に向かっていた。徒歩でだいたい1時間ちょっと。馬車を使えば早く着くのだが、そんな贅沢は言ってられない。


「昨日の時点では確信をしていた訳ではないのですが、今日になっても監士が戻ってこない事を考えると間違いないでしょう」

「はぁ」

「昨日、タイチローさんがおっしゃっていた赤い紐。あれの意味、解ります?」

「いえ」


 アシュリーは少し寂しそうに、


「運命の赤い糸は解りますよね」

「勿論です。運命で結ばれた男女の小指には赤い糸があるっていうアレですよね?」

「そうですね」


 そこで少しアシュリーは考え、


「魔法を実行する時に、魔法律を組み立てる事はご存知ですよね」

「はい、燃焼なら、発火、発熱という2つの幻象プロセスを経て、燃焼という現象を引き起こすというルールの事ですよね?」



 魔法の使えないノートムとしても王立学院卒は伊達じゃない。基本的な魔法律の仕組みは把握している。


「その魔法律を実行するのに最適なのは……」


 そう言って、アシュリーは自分の手のひらを見せる。


「ここです」

「はい」

「魔法は手から発動するのが一番、イメージがしやすいとされています。当然、訓練を積めば、身体のどこからでも……あるいは、身体から離れた場所にも発言させる事が出来ますが……」


 そういって、アシュリーは自分の身体の回りに、いくつもの炎を幻出させた。


「それでも、楽なのは手のひらです」


 今度は手のひらから大きな炎を幻出させる。


「タイチローさん。魔法使いと、一般の方の恋愛ってどう思います?」

「どうって……身分じゃないけど、お互いにかなりの違いがあるから、中々難しいんだろうなとは思ういますが……」


 思わず、アシュリーと自分が恋人同士になっている事を想像してしまった。脳内でそれを慌てて打ち消す。


「そうですね。たしかに魔法使いは身分ではありませんので、魔法使いと一般の方がお付き合いするケースは、たまにあります。それでは、貴族と一般の方はどうでしょう?」


 身分による差別というものが、ほとんどなくなった現代社会においても、貴族の身分は特殊だ。


 この国への軍事的な貢献を前提として、ある程度の法的特権を得ている。身分差カップルの婚姻は法的には認められているが、実態としては、あり得ないと言ってもいいくらいだろう。


 僕はアシュリーにそう説明をした。

 そう説明をしながら、僕にも事件が薄っすらと見えてきていた。


「それでは妻子ある人との恋愛は?」


 不倫については、賛否があるだろう。

 恋愛は自由だという人もいれば、妻や夫がいるのであれば、そこに恋愛の自由など無いという人もいる。


「決して褒められるような事では無いと思います」


 他人が口を挟むような話しでは無いとは思うが、不倫の事実を知って気持ち良い気分になるような事は無いだろう。


「じゃあ、その3つが重なったら?」


 一般人と魔法使い、一般人と貴族、そして不倫関係。


「絶望的ですね」

「ですよね」


 アシュリーはそう言って、僕より少し前に出ます。


「魔法を使うなら、手のひらが一番。二人をつなぐ運命の赤い糸。禁じられた恋」


 そう歌うように口ずさみ、

「続きは監察院で確認してみましょう」

「わかりました」


***


 19分署に到着し、受付で分署長に会いに来た旨をアシュリーが告げると、少し待たされて、会議室へ通された。


 会議室の椅子に腰掛け、さらに数分待つと、


「お待たせした」


 そう言って、ランドルフが入ってきた。


「分署長さん、昨晩の私の伝言に対しての調査結果は?」


 挨拶もそこそこに、そう告げるアシュリーにランドルフは少し目を細め、


「ご協力感謝します。クロッカーさんのアドバイスで今回の事件が早期に解決した」


 まずはこう頭を下げた。

 高圧的な態度を取ることで有名な監察院の分署長が頭を下げたことに驚いたが、アシュリーはそんな事はお構いなしに、話しの続きを促した。


「それで?」

「昨日、アドバイスをもらった通り、親指から出ていた紐の先に、死体となっていた古書店の店主以外の肉片が、わずかだが残されていた」

「やっぱり……それで犯人は? 特定できましたか?」


 アシュリーの言葉にランドルフは言葉を詰める。


「特定……出来た。近所の……洋品店の……12歳の少女だ……」

「え?」


 どこかの貴族の奥様との禁じられた恋を想像していた僕は、思わず声をあげてしまった。アシュリーも、どこか呆然としている。先程の会話からすると、アシュリーの推理も外れてしまったのだろう。


「近所の……12歳の女の子……ですか」

「はい」


 古書店の主人である被害者は、犯人の12歳の少女を膝の上に乗せ、本を読み聞かせていた。二人は足の親指同士に赤い紐を巻きつけていたと思われる。その状態で、犯人である少女は被害者の旨に両手を押し当て、自爆。


 少女の肉体は、爆発のための触媒として完全に消滅、赤い紐だけが被害者の足の先から30センチほど伸びており、輪っかになっている部分の内側にわずかに被害者とは違う人間の肉片が残っていた。


 上半身だけを吹き飛ばしたのは狙ってのことだろうと推測しているようだ。


 犯人の少女が、こんなに早く特定出来たのは、洋品店から少女の行方が解からなくなっているという届け出が、昨晩あったからだ。


「動機は?」

「現在調査中だ。仮に解っていても、これ以上教えるわけにはいかない」


 12歳の女の子が古書店の店主……何歳かは知らないが、すくなくとも少女と同年代という事はあるまい。そんな子が無理心中? 理解が出来ない。


「その少女は魔法を使えたのですか?」


 アシュリーが僕に続いて質問をした。


「使えました。それも将来が有望視されているレベルで……」

「そう……ですか……」


 アシュリーはその言葉に肩を落としながらも、


「それではタイチロー・ジョーカーさんへの嫌疑については?」

「疑わしき所はもうありません。ジョーカー君への監視も、昨晩、引き上げさせています」

「そうですか……よかったですね、タイチローさん。疑いは晴れました」


 そう弱々しく、僕に告げた。


 僕も12歳の女の子が引き起こした事件という事で、どう反応していいか解からず、僕とアシュリーの初めての事件は、非常に後味の悪いものになってしまったのだった。


***

 後日、報道で判明した動機は、さらに僕の気持ちを落ち込ませる事になった。


 どうやら少女の母親と古書店の主人が不倫関係にあったらしい。3人姉妹の長女でもあった少女は、その事に気が付き、不倫関係を解消するために、古書店の主人ごと自爆することを選んだようだ。


 なぜ、足の親指に赤い紐が結び付けられていたのか……この点については報道が触れる事は無かった。


「アピールだと思いますよ」

「アピール?」


 朝食の最中、報道を見て更に気落ちしていた僕に気が付いたのか、アシュリーが説明をしてくれた。


「不倫関係にあった古書店の主人には、母親の知らない運命の人がいた。そう思わせ、早く目を覚まさせたかったんだと思います。だからこそ、あの子は自分自身の肉体は、一片も残さずに消滅する事を願ったんだと思いますわ。あるいは、古書店に差し出そうとしている自分の肉体を汚らわしいものと思ったのか……」

「そうなんですか」

「じゃなければ、あんな魔法律を使う訳はありませんもの」

「え?」

「いえ、何でもありません」


 僕がこの時、よく聞き取れなかった言葉の真の意味を知るのは、もっと時間が経ってからの事だった。


 ところで、事件が解決したのにも関わらず、アシュリーが僕と一緒にクロエが作る朝食を食べているのかを最後に説明をして、僕とアシュリーの最初の事件簿は終わりにしよう。


***


「これだけですか」


「それだけになります」


 監察院の会計事務窓口の前で、アシュリーがプルプルと震えていた。


 嫌疑が晴れたことで、僕とアシュリーの間の契約は成功をもって完了した。魔法調査士への支払いは、基本的に国家が全額負担をしてくれる。これは魔法使いに与えられる特権の一つだ。


 通常、僕のような一般人が魔法調査士のお世話になることは無い。今回は特例中の特例と言えよう。


 そして、今回は嫌疑をかけられた僕に何の罪もなかったという事で、アシュリーへの依頼料は、全額、監察院の負担となった。


 そして、今、その費用を受け取っていたのだが、


「これだけなんですね」

「それだけなんです」


 今回の事件、アシュリーのおかげで、ほぼ一晩で解決をしてしまった。裁判にもなっていない上、僕は犯人として逮捕まで至らなかった。あくまでも嫌疑という段階だったため、魔法調査士への報酬は相談料のみとなる。


 アシュリーは律儀にも、実際に僕とこの件について会話した時間だけを請求した。その結果、手に入れた報酬額が少なかったのだろう。


「タイチローさん」

「なんですか?」

「とても心苦しいお願いがあるのですが……」

「はぁ」


「次回、また同じような嫌疑がかかっても、必ずわたくしが担当して、解決してみせますから」

「みせますから?」

「しばらく、お家に置いて下さい。行く宛がありません」


 そういって、会計窓口の前で僕に頭を下げた。

 周囲の目も気になるし、僕は大きく溜息をついた。

 その溜息が聞こえたのか、アシュリーは上目使いで、


「ダメでしょうか?」

「……アシュリーさん、簡単に騙されては駄目だと忠告してくれたのは、あなたですよ」

「ダメ?」


 こう重ねてきた。


 古書店にアシュリーが入ってきた時、僕は彼女の事を女神だと思ってしまった。多分、あそこで彼女が持つ運命のややこしい糸車に捕まってしまったのだろう。どうかそれが、あの赤い紐とは違うものでありますように。


 僕はそう祈りながらも、アシュリーにこう答えた。


「本当に、また助けてくれます?」

「ええ、それは勿論!」


 そう言って、彼女は身体を起こし、腰に軽く手を当てて、こう宣言した。


「おまかせください! わたくしアシュリー・セラフィーナ・クロッカーの魔法律事務所に!」

第1章となる事件簿1、これにて幕となります。二人の出会いを描く事を中心に考えていたため、事件の謎を解く感じにはなりませんでした。ちょっと後味の悪い終わり方だったかもしれませんが、事件というのは、そんなものなのかなと思っていたりします。


次章は、もう少しミステリー色を出していきたいとは思っていますが、こればっかりはキーボードを叩くてがどこに向かうか……


本作品はミステリーとして出来るだけ破綻の無いよう、各章を全て書き終わってから更新するスタイルを取りたいと思いますので、更新まで時間がかかると思いますが、ぜひ、お待ちいただければ幸いです。


皆様の暖かいご感想、お待ちしております!

※ 評価とかブクマとかも執筆の励みになります!


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