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人魚の花嫁にされました

 輝きを放つ銀色の髪、高い鼻に不機嫌そうに歪んだ唇と細められた青い瞳。整った顔立ちの二人が並ぶと何とも言い難い迫力が出てくる。しかし、シェリルが何よりも気になるのは高身長に長い手足。もう一度確認する、足、だ。



「足が、ある」

「は?」



 シェリルの言葉にグレンと名乗った(本人が名乗ったわけではないが)男が力ない声を漏らす。その言葉にシェリルは腹が立ち、口調が強まる。



「だからっ、貴方に足があるって言ったの! 私の記憶では貴方の足が魚みたいなヒレになっていたから……」



 最後の方になると自信がなくなり声が小さくなっていく。なに寝ぼけたこと言ってるんだ、なんて言われたら恥ずかしくてしょうがない。シェリルは恐る恐る二人の様子を盗み見た。

 すると二人はきょとんとしているではないか。まずい、変な事を言ってると思われている。シェリルはそう悟った。


 しかし、グレンは至極当然といった素振りでシェリルの度肝を抜く言葉を発した。



「あの時は水の中だったんだから当たり前だろう」

「は、い?」

「だから、水の中なんだから足がヒレに変わって当たり前だって言ってるんだ。お前、馬鹿なのか?」



 シェリルは必死に頭を動かしグレンの言葉を反芻する。


 ……水の中だから足がヒレに変わるのは当たり前。お前は馬鹿なのか?

 ……足がヒレに変わる。お前は馬鹿。

 ……お前は馬鹿。馬鹿。



「誰が馬鹿じゃぁああ!」

「そこぉおおお!!」



 シェリルの叫び声に反応したのは、二人の様子を伺っていたジェフである。



「だってそんな簡単なこともわからないやつは馬鹿だろう」

「お前が馬鹿だ!」



 グレンの頭にジェフの拳が落とされる。

「いでっ!」 と漏らし頭を抑えながらしゃがみ込んだグレンを見てシェリルは、よく知らないジェフに向かってナイス! と心の中で呟いた。



「だいたい何も説明せず部屋に放置したお前が悪いんだろうが!」

「だって起きないし、研究の途中だったし」

「そこは起きるまで付き添ってやるべきだろう! だいたい家に連れて行け! 仮眠室に寝かせるな! まず、何の説明もなく、人間の彼女に理解できる方が可笑しいんだよ!」



 ヒートアップしていくジェフの説教に口を挟めずにいたシェリルだったが、ジェフの言葉に引っかかるものを見つけ、思わず言葉を漏らす。



「人間の彼女って……え? お二人は人間じゃないんですか?」

「あぁ、そうだよ」



 爽やかな笑顔でジェフはシェリルに爆弾を投下してくる。

 いや、外の光景から考えてもおかしな事が起こっているだろうことは予想できていたが、人間にしか見えない二人が人間じゃないとはどういうことか。シェリルの頭は爆発寸前だ。



「僕たちは人魚族なんだ。君たち人間の言うウンディー湾の中にあるアクリムニアという国で暮らしている。人魚族っていうのはね、アクリムニアの外である水の中、つまり空にある膜の外に出ると足が魚のヒレになるんだ……って大丈夫?」

「いや、突然すぎて何が何だか……」

「まぁ、そうだよね。人魚については追々知っていくかな」



 まずシェリルが最初に思ったことは、母親に謝らねばということだ。

 本当にウンディー湾の底には人魚が住んでたよ、お母さん。冗談だと笑ったりしてごめんねーーである。



「あの、私は神への生贄としてウンディー湾に供えられたはずなんですけど」

「あぁ、まぁ……人間の言う神っていうのは僕たち人魚の事だから」

「え? 神が人魚? なんで? だって神の力で天災から助かったって……じゃあ私、人魚への生贄!? 騙された? 人魚って肉食!? どっちみち死ぬの!?」

「お、お、お、落ち着こう! 騙してないし、食べないし、死なないから!」



 シェリルのパニックが移ったのか、宥めているはずのジェフまで挙動不審だ。それでもジェフは面倒くさそうに部屋から出ようとしていたグレンの首根っこを掴んでいる。



「まずは落ち着こう。そして、君の名前を教えてくれるかな?」



 ジェフの努力の賜物なのか次第に落ち着きを取り戻したシェリルはジェフの問いかけに短く名前を答える。



「それじゃあ、シェリルさん。君にとって一番大切な話をするよ。驚くかもしれないけど、落ち着いて聞いてね」



 先程のシェリルの動揺ぶりを考え、ジェフは前置きを挟みシェリルの様子を伺う。ジェフの気遣いに気がついたシェリルは大丈夫だと伝えるように大きく頷いた。



「君は僕たち人魚族にとっては貴重な存在、人間の花嫁なんだ」

「ハナヨメ、はなよめ……花嫁ぇえええ!?」



 ジェフの気遣いはシェリルの叫び声と共に遥か彼方へと飛んでいった。しかし、それだけでは終わらない。ジェフは続けざまにシェリルに驚愕の事実を告げる。



「そう。ここにいるグレンのね」



 首根っこを掴まれたままのグレンはジェフによってグイッと前に突き出される。

 目の前にやってきたグレンを見て、この男が自分の夫になるのか、そう考えた瞬間、シェリルは項垂れた。


 ジェフの今までのセリフと自分の記憶をまとめると、シェリルは神の生贄としてウンディー湾に供えられたが、人間の言う神とは人魚のことで、突然の水柱によって水の中に投げ出され溺れ掛けていたシェリルをグレンが助けてくれたということだ。

 そして、助けられたシェリルは研究所の仮眠室とかいう部屋のベッドに放置され、その放置した本人であるグレンの花嫁になったのだという。


 そこまでは理解したが、やっぱり納得できない。花嫁になったこともそうだが、何よりもーー



「なんでこの人?」

「なんだと? 俺だって花嫁なんか欲しくなかった!」

「私だってなりたくないわよ!」

「大体、なんでこんなじゃじゃ馬な女をーー」



 またもや喧嘩が始まりそうになり、ジェフが止めようと身を乗り出した時、部屋のドアが勢いよく開き、数名の制服を着た男が雪崩れ込んできた。



「こちらにいらっしゃったのですね。家にもご実家にもいらっしゃらず探しましたよ。さぁ、お城で国王様がお待ちです」



 そう言うや否や、男達は睨み合っていたシェリルとグレンを引き離し、グレンの腕を掴み引っ張り始めた。

 シェリルの元にも男達がやって来たが、シェリルの姿が余りにもみすぼらしかったからなのか、一瞬困惑した表情を浮かべる。彼らが何をしに来たのかもわからないシェリルもなんと言えばわからない。そんな双方を見て苦笑いを浮かべていたジェフが制服の男に耳打ちをすると、男はすぐにキリッとした表情に戻り、シェリルに軽く頭を下げた。



「失礼いたしました。それでは貴女様もご一緒にお越しください」

「えっ、一緒にってどこ……どちらに?」

「もちろん城にでございます、人間の花嫁様」



 怒涛の展開にシェリルが頭を抱えたのは言うまでもない。

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