終わり。発見、終わり
目を開いた。いつになく思い瞼だった。いつものように朝食をとり、着替え、荷物をもってドアを開けようとしたとき、何か異変を感じた。
「そうか。もう終わったのか」
うっかりしていた。もうすでに、手に職は無いのだ。昨日の上司の言葉が、脳裏を掠める。「お前はもういらない」と言われた。最後もそれだけだった。
本当に、ふざけた奴だった。自分が決めたことのくせに、その計画で部下が失敗するとすぐに怒る。そのくせ、部下がうまくいくと、その功績を横取りする。最低最悪のクズだった。
私は悩んだ末に、再びドアに手をかけて回した。車庫に止めた愛車には目もくれず、外に出るとすぐに歩き出した。
世界は顔を出して間もない太陽に照らされていた。山には夏の旺盛な勢いも秋の紅葉の美しさも無かったが、静かな灰色の山はその奥の澄みきった蒼天によくにあっていた。刈り取られた稲に、霜はまだ降りていなかったけれど、私を追い抜いて行く風は、もう大分冷たくなっていた。秋は終わりかけているんだと気がついた。
風は私を押してくれた。
景色はぐんぐん進んでいく。
今まで、仕事に勤しんできた自分には見えていなかったモノが見え始めている気がした。自分の周りにある世界が、こんなに素晴らしいとは思わなかった。
気がつくと、いつもの場所に来ていた。いつもは車での通勤だったけれど、今日は徒歩。日はかなり高くなっていた。
「これからどうしようか」
呟きはアスファルトのなかに吸い込まれていった。
帰ろう。私は用済みなのだ。
これまで勤めてきた場所に頭を下げて、私は回れ右をした。
不幸の中に幸福のあるを知った。これで十分ではないか。仕事よりも大事なものを見つけた気がした。いつの間にか、私は嬉しくなっていた。昨日解雇されたばかりであるのに。今日にはすでに喜びを見つけられたのだ。突然、自分の予期しない、でも大変魅力的なものが降ってきたようだった。
家に続く、最後の曲がり角を曲がった。
私はまだ上機嫌だった。
それゆえにだろうか。遠くのバスが挙動不審な様子で近づいて来ることに違和感を覚えることができなかった。私は行った道とは逆の景色を楽しみながらも、ちゃんと路側帯の中を歩いていた。
その安心感からか、身の危険を察したのは黒い影がほんの数歩先に来たときだった。
--もう、避ける気にもなれなかった
そのあとは、もう……