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The Rose   作者:
3/4

くらくろどぼん

なぁ 考えたことあるか?


例えばそう、自分が急に何もかもをなくして、見知らぬ土地へ放り出されて、世界一平和な国で育った自分はただ狼狽えることしかできなくて、気がついたらあっという間に鉄格子の中へ。


(考えたことがある奴は、余程のMかシリアスなファンタジー好きだろうな)


カチャカチャと、少し視線を下げれば見たくもないのに視界に入る従属の証。

こんなものを日常生活で見たことがあった奴はマニアックなプレイ好きの変態だけだろう。

この鉄格子の中に入れられてから、何日経ったのかもう解らない。分かることは、自分が現代社会で生活していた頃とは比べ物にならないくらい薄汚れて、きっと臭気も相当だろうにそれすら分からないくらいに鼻が馬鹿になっているってことと、もう反抗できるほどの体力も精神力も残されてはいないってことくらいか。


(言葉も通じねぇし、食いもんも水も腐りかけだし、こいつら抱えてどうしろってんだよ)


【にいちゃん、お腹すいたね】

【......おにいちゃん、しぃもつれていかれるの?】

【佳祐、俺らもうヤベェよな】

【僕らの前にこの檻にいた連中はさっきの女の人で最後だから、きっと次は】

【嫌よ!私はいや!!なんでこんなことに、なんでっなんでよぉ、ママ、パパ......】

【美衣ちゃん、落ち着いて。泣いたりしたら余計体力が】

【なによっ!?あんたは平気なわけ?!こんなわけわかんないとこで、私は死にたくない!!死にたくないのっ】


俺たちは学生キャンプに来ただけだったはずだ。

各グループにまとまって、引率のセンコーもいて、絶対安全だから双子の妹と弟も連れてきた。

どこからおかしくなった?

川で遊んで、定番のカレー食って、夜はグループごとに肝試しのルートを散歩がてら歩いてただけだろ?

道に迷うような、複雑なルートでもない。俺の弟や妹の話も前からセンコーには報告してあるから途中リタイヤしてもいいように今年は結構ゆるい感じの......聞こえは悪いが学生向け時じゃねぇちいせぇ子供だまし程度の設定で、普通にふざけながら歩いてただけだろう。

なのに急に霧が出て帰ろうとしたがどんどん濃くなって、何も見えなくて、視界が開けたら見知らぬ山の中に七人で取り残されてわけわかんねぇ奴らに捕まった。


【~だって!!】

【いいかげんにしろ。奴らが来たらどうするんだ?連れて行かれたいなら出口の近くで騒げ】

【......ご、めん】

【わりぃ】

【すみません】


このまとまりのねぇ連中を抱えて檻の中、俺はじっと息を潜めてきた。

なぜなら、俺たちがこの檻の中に放り込まれる前から捕まっていた連中は騒いだ順から外に連れ出されていたから。そうして、帰ってくることはない。

それがいい意味か悪い意味かは、わざわざ口に出さなくてもわかるだろう。


「******!!***!!」

「***?****」


遅かったらしい。

連中が室内へ入ってきた。

だが、いつもの連中だけじゃい。見れば、コートのフードを目深にかぶった小柄な人間も一緒だ。


「*、**」

「**?***、**」

「**。**?……*******」


奴等は暫く話し込んだあと、フードのやつを一人置いて部屋をでていった。


(なんだ?品定めにきた上客か?)


【……******?▲◎●○■◆◇?ΠΟΡΞΖΘヵΣΔ?】


全員で鉄格子の置奥に固まり顔を伏せた。

妹や弟を腕に閉じ込め、俺はそいつに背を向けて黙りを決め込む。


【んー、あんまり長いことしゃべらないとうっかり忘れちゃうわね。しっかし、日本人かと思ったんだけどなぁ。やっぱちがうか】


(は?今の……日本語)


【黄色人種って此方にもいるのねぇ、怯えちゃってかわいそうに。まぁ違うなら良いや、丈夫そうなエルフでも買って帰ろ】


(っ、ま)


【待って!!日本人なのっ!?あなたは言葉が分かるの!?】


俺が呼び止める前に叫んだのは、女子二人のうちどちらかと言えばおとなしめな方で名前はキイカ。


【ん?日本語?きみら日本人なの?】

【そうです!お願いします助けてください!!ここから出してっ】

【んー、無理だね。私経済力ないし】

【そんなっ】

【でも久しぶりに母国語が聞けて嬉しかったから、多分ワケわかってない君たちに情報をプレゼントしてあげる】


(経済力……やっぱ売り買いされてんだな俺たち)


【まず、ここは日本でも外国でもないし地球ですらない。私にもこの世界の名前はわかんない。この世界には、たまに他の世界の生き物か紛れ込むらしいんだけど見つかれば道は三つ。魔力があって魔の国へ落ちれば魔術師。人の国に落ちれば奴隷。獣の国に落ちれば食用肉。あ、ちなみに魔の国へ落ちて魔力ない人も食用肉か奴隷として輸出されてるよ。要するに異世界人には人権なんて奇跡でも起こらなきゃ存在しないってこと。よって、現在の君たちの状況を見れば……多分奴隷用かな?食用だったらもっと肥らせてると思うし】


(この女、ほんとに同じ日本人か!?)


なんの感情も含まれず綴られた言葉は、俺たちの中に冷たい刃のように突き刺さり、夢であってほしいと祈った願いも、そのまま引き裂かれた。


【あの、でも今エルフを買うって……】

【あぁ、丁度魔法と剣の使える丈夫な護衛を探しててね。獣人も考えはしたんだけど、気を抜いた瞬間にペロリと食べられちゃうのは嫌だし、エルフだったら私でも何とかできるかなって思ってね】

【あんた、同じ日本人だろ!?俺たちを助けてくれよ!!】

【だから、経済的に無理です。それに助けたところでどうするの?獣人に見つかれば食べられちゃうし、それでなくてもお腹をすかせた動物や小金がほしい奴隷商人やひょろい子供好きな変態がうようよしてるのにどうやって生きていくの?言っとくけどこの世界はゲームじゃないし、物語みたいに救いもない。中途半端なB級ホラーなんか比べ物にならないくらい異世界人には厳しいんだよ】

【あなたは?どうしてソッチにいるんだ?】

【檻に入りたくなくて、もがき苦しんだからかな?いろんな経験をしたよ。この世界に来てから、もう五年だ】

【ご、ねん?じゃあ、帰りかたは?】

【帰れると思ってるの?ふっ、おめでたいね。君らがいつからいるのか知らないけど、私が帰れると思って頑張れたのは最初の三ヶ月だけだよ。そのあとは一年目に仕方なく今の家に腰を据えて、二年目には死を考えたけど、何でかな?今も生きてる】


俺は、この話を聞いた時点で女に自分たちを全員救ってもらうことはもう無理だとあきらめた。

でも、


【頼みがある】

【人の話聞いてた?私は他人の頼みとか聞いてる余裕ないの】

【頼む!!こいつらだけ!弟と妹だけ助けてくれないか!?煩くねぇし、我儘も言わねぇようきつく言い聞かせる!!絶対とは断言できねぇけど迷惑かけねぇから!!】


俺ら全員が無理でも幼い子供くらいならどうにか助けてもらえるんじゃないか?いや、無理でも頼むしかない。

俺は覚悟を決めてその場で、薄汚れた床に額を擦り付けて頼み込んだ。


【おにいちゃっ】

【ぼくはヤダっ!おにいちゃんもいっしょにっ】

【黙ってろ!!】

【待てよ!俺らはどうなんだよ!?】

【そうよ!?私たちは?!】


自分勝手な奴らと、大事な兄弟だったら俺は兄弟を選ぶ。

こいつらだって散々自分勝手に喚き散らしてきたんだ、俺にだってその権利があるだろう。そして、俺は弟や妹を奴隷にしたくないし、化け物に食われるのも嫌だ。嫌だが、これしか回避できる術がないなら、土下座でも、靴をなめることだってするだろう。


【頼むよ!!】

【……うーん。ね、きみさ、名前は?】

【俺は、匂坂さきさかそう。弟はようで妹はしい

【ふぅーん。私はね、こっちじゃローズって呼ばれてる】

「******!!***、**?****!!*****」

【あ、ちょっと待って】


その女は、しばらく牢屋の傍を離れ、外の奴らと話し込んだ後戻ってきて笑いながらこう言った。


「****?*****、***?」

「*********。」

「***?*****?****」

【っぷ。ねぇ、あなたたちの値段知りたい?びっくりするほど格安なのよ】


そうして、ひとしきり一人ごとを呟いた後、俺の運命を変えたのだ。





「いいわ。助けてあげる」








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