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The Rose   作者:
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                    われらがおうのなをしっているか


                 われらのうつくしき すうこうなるじょうおう


                        『ローズ』を。












あなたは考えたことがあるだろうか?例えば、今の自分がちっぽけな花屋で働く安月給の一般庶民でも、違う世界で生まれた自分は男だったり、犬だったり、風だったりするなんてこと。


「そうちゃん、今日はもう上がっていいわよ」

「あ、はい。それじゃあ、お疲れ様です」

「はい。気をつけて帰ってね」


小さな町の小さな花屋で働く私は、まるで世界には必要とされていないような気がしてたまに落ち込む。

だって、朝から晩まで働いて、借りることができたアパートはワンルームで、毎月切り詰めて貯金するけど使い道も時間もない。


「あーあ、またハンドクリーム買わなきゃ」


水仕事だから手は荒れ放題だし、ハンドクリームも本当に効きが良いのは高くてただでさえ薄い給料なのに出て行くお金は多くて毎月の出費に頭が痛い。


「花は、好きなんだけど」

「生活がなぁ」


友達は結婚したり、旅行に行ったり、子供産んだり、人生をエンジョイしてるのに。私はいったい何やってんだか。

来月には、妹の結婚式がある。

またもやご祝儀で飛んでゆくお札に、おめでたいのか、憎らしいのか、懐の痛みや先を越された妬みでよくわからない。

じゃりじゃりとコンクリートの地面を踏みしめ、ふと夜空を見上げれば満月。

仕事場から家までは一本道で、前も後ろも見えるのは電柱と街頭くらい。

あぁそうそう、家に着くまでには七本の電柱があるんだけど、三番目の電柱は面白いの。如何わしいポスターの上に【俺参上!!】って真っ赤なスプレーで悪戯書きしてある。


【ぴすぴすぴすぴす】

【しー、でぴす】

【んー】

【みちゅけたでぴす】


(あ?今、子供の高い声が聞こえたような)


こんな前も後ろも人影のない夜道で、電柱の傍、子供の声、こんなよくあるホラー映画みたいな条件が揃うなんて。


【どどどどどどどどど、れにしゅるぴす】

【んー、やっぱりしゃんばんでいきたいでぴす】

【しー聞こえちゃうでぴすよ】

【しょれより、いっちばんでぴす】

【じゃあよんばんで!!】


(聞いた意味あったの!?て言うかこの声......)


子供の声はとても楽しそうで、賑やか。とてもじゃないけどこれを聞いてホラーだと信じることはできないだろうって感じなのに、私の目には何も映らない。





















不可思議で、少し怖くて、好奇心を擽られて。

知っていますか?

こんな体験をした人は、うっかりとこの切り取られた異空間から抜け出せなくなる。


(そうして、かみかくしにあうの)





















「......ここどこ」


こんな言葉を自分の口から問いかける日が来るとは、思ってもみなかった。

そもそも、私はどこに行くにもしっかりとした事前調査を終わらせて、石橋いしばしを叩いて叩いて叩いて渡る小心者ですから、こんな理由の解らない事態には関わりのない人生を送っていたはずなのに。


《世界:****》

《大陸:第二大陸》

《国:魔》

《現在地:青の草原》


(ゲームか!!って突っ込めたら楽なんだろうな)


わたし、ゲームと名の付くものは大体苦手なんだけどな。


「......えっと、これはゲームか何かなのかな?この画面いつ消えるの?」

「ていうか、喉渇いた」

「あー、どこまで歩けば人に会えるのかね」


独り言を続けながら青々とした草原を歩くこと数時間。

この画面に聞けばわかるのかな?なんて、バカみたいなことを真剣に考え始めた自分に寒気がしたけど、一応聞いてみる。


「......現在の状況は?」


《現在地:異世界第二大陸魔の国青の草原に誤召喚後、放置》


「召喚って......ファンタジーでよく聞くあれか。つーか間違って召喚したなら帰せよ!!」


とは言いつつも、ファンタジーにも色々あるしな。

例えば勇者召喚やドラゴンなどのボス的脅威への生贄として召喚するとか、中には恋愛だの福利厚生がしっかりしているものもあるだろうが、恋愛系は未来的にアウトだな。そんなもの最初は珍しいから手を出されはするだろうが最終的に現実はどこも変わりないことに気づかれ離婚か、もしくは暗殺か。勇者関係も最終的にはボスを倒したとたん召喚側が敵になるかお払い箱だろう。生贄は最初からもう終わっているし。なんにしろ他の世界の住人を本人の許可なく連れてくるような奴はろくなものじゃない。大体にして私は単なる花屋の一店員で特技もない上異世界で何も出来やしないのだから召喚主に出会わなくて良かったとも言える。


「えっと、帰る方法と、安全に生活する方法」


《帰還:召喚主の魔術》

《安全的生活術:この世界には獣・人・魔の三大国が有り、いずれも異世界人は食用兼奴隷として使用されている。中でも獣の国では食用のみ。人・魔の国では奴隷として使われており、まれに魔力ある異世界人は魔の国でのみ人としての市民権を得ることができる》


「......は?しょ、食用?人間が?私も?」

「嘘でしょ。どんな世界よ」


現実はいつも残酷で非道。 

ろくでなしの召喚主に会うまで、私は帰れないのだから、この酷く恐怖しか感じない世界で生きるしかない。


「とにかく、とにかく!現在地が魔の国なんだから、町に行って市民権もらう!食べられる前に急がなきゃ」


どこまでも広がる草原を見据えて、私は歩き出した。

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