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~No, 1 [school and I and clown] 学園と僕と愚かな道化「オーギュスト」~

色を無くした僕は、透明だった。

以前の事が、思い出せない。

今までの僕がどんな人間だったのかも、忘れてしまった。

もう二度目は無い。あの時、僕は一度死んで生まれ変わった。

既に消えてしまったモノは二度と元には戻らない。

だから、想像してみた。心の中で、造ってみた。

理想がもしかしたら、現実だったのかも知れないから。

現実が、想像のような嘘であるかも知れないから。

もしかしたら、僕には暖かい家庭があったのかも?

もしかしたら、彼は世界最高の科学者だったのかも知れない。

もしかしたら・・・・・

そうやって、幾億の想像をして、

数千億の夢を砕いてきたのだろうか。

前の僕も、今の自分も、もしかしたら、同じ事をしていたのだろうか。

だったら・・・

そう思ったら、何だか笑えてきてしまった。

ああ、自分は、

何も変わっていないではないか、と。

その結果は最良のはずなのに。

あの選択は間違ってなんかいないのに。

何故か、

只、

泣いていたのだ。

白い、白い、白い。

揺れる炎は二つあって、

その中央には、誰かの遺影があった。

誰かは、見えない。

どんな人だったかも、思い出せない。

思い出も、記憶も、その温もりも、声色も。

何もかも、何処か、遠くに行ってしまった。

いずれ、灰になり、海へと消えていく物。

もう、動かない指。

開かない瞳。

青ざめた唇。

少し匂う、甘い匂い。

そして、肉の腐った腐臭。

どうしても、そこから出たいとは、何故か思えなかった。

それが、最初の記憶。



「・・・・・・・・・・・・・・ん、・・・・・・・今、何時だ・・・・・?」

けたたましい目覚まし時計の音が小さな自室に鳴り響き、朝を知らせてくれた。

布団から手を出してアナログ式目覚まし時計の時刻表示に眼を落とす。

表示された時刻は、午前四時十五分。

いつもどおりの平和で退屈な日常が始まる時刻を指していた。

「・・・・まだ早いけど、あいつ、もう起きて・・・・?」

そうやって辺りを見回す。

見えるのは普通の学生の一室。共用の為、制服は男女両方引き出しにしまってある。

暖かい布団の中から手を出すと、エアコンが効いているらしく空気が冷たい。

恐らく同居人が電源を付けたまま寝てしまった様だ。

「___________________居ない、な・・・・・・・」

気配が感じられないので、探し人は此処には居ない様だ。

珍しくもう起きているのだろうか。

ゆっくりと立ち上がろうとして、暫くぶりに眠気が覚めてきた。

そして、気付いてしまった。

「_____________________________________________________________________________________、は?」

今は自分の布団の中。唯一この部屋の中で体温によって温められた空間。

動物は体内温度が低下すると本能的に体温を回復させる為、様々に移動・行動すると聞く。

ほら例えばイグアナとか変温動物は身を寄せ合って体温の低下を防ぐとか聞くだろう?

その生理的現象を認識した上でこの現象・状況の確認に望もう。

人間で言うお腹辺りに感じる心地良い感触。

温度は偶然にも人肌そのものの様な感じがした。

本来の同居人たる「彼女」が居るはずのベッドは掛け布団が壁際に吹っ飛ばされている。

そして、同時に走る悪寒。

警告する動物的な本能。

社会的に危険な状況が迫る危機感。

布団の中を恐る恐る覗いた先に、俺が見たものは_______

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、・・・・・・・・・・・・・・う、ん・・・」


「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!????」



僕の腹部、丁度いい感じに抱きついて寝ている少女がいる。

茶髪がかった黒髪をショートカットに纏めている可愛らしい少女が、だ。

それなりに整った顔立ち、丁寧に手入れされていると疑えない美しい黒髪の少女。

起き立ての表情は然ることながら、それ以前の問題として幼い年代の美少女と並べても一向に遅れを取らない美がある。おそらくその中でも最高クラスの賞を受賞できるだろう。

何という事だろう。中年のオッサンが幼少時代によく見ていただろう漫画・アニメと似通った展開が俺を待ち受けていたとは・・・・・・・・・・・

しかし、だ。この子、いや、こいつには見覚えがある。

「・・・・ん?・・・・・・兄ちゃん、オハヨウ・・・・」

そして次の瞬間。肝を抜かして呆然とこの体勢から動けない俺の上の少女は。

ガクッ、と再び夢の世界へダイブしたのだった。

「お、おい!?二度寝はだめだって言っているだろ、紅葉!!起きろぉぉぉぉぉぉ!!」

これが我が家の日常茶飯事なのだから、全く、困ったものである。

窓にかかった教育に最適色のカーテンを開ければ、朝日に宙を舞う埃が一時の輝きを見せるのだが家庭的に育った俺にとっては天敵であることに変わりなど無いのだ。

毎朝の定番である布団の中の寝坊少女こと「紅葉」を叩き起こして俺の一日は幕を開ける。

無理やり布団を引き剥がしたので、エアコンの冷気に晒しておけば起きるだろう。

基本的に朝は義妹が起きてこないので、俺が日常的に家事をこなしているのだ。

今日の朝食の卵焼きと熱々のパンと野菜サラダが準備出来た処で妹が丁度起きてきた。

「ふあぁぁ・・・・・、おお!中々に定番アニメの朝食だねぇ」

「それ、どういう意味だ?まぁ、食う分には問題ないのだろうけど」

時折り妹のとる言動には理解が追いつかない時があるが、深くは考えない。

そして僕も朝食を取る為に椅子に座る。そうしたら珍しく妹がはっきりした声で喋った。

「そういえば、今日って「魔道筆記試験」のトップランカー発表の日だね」

「ああ、そういやそうだが・・・・・お前、サボったりしてないよな?」

「失敬な!そんな安っぽい事はあたしの流儀に反するからしないぞ!」

サラッと言われてしまった。流石にそれは無い、と言いたげな表情だった。

ずぼらな様に見えて真面目と言う事実を敢えて知っていながら聞いたのだから当然だが。

しかし、俺の知る限り、大物はいつも一足先を行くのだと言う事をこの時は失念していた。

「ほうほう、感心だな。いつもこうだと、俺も安心・・・」

「でも、全く勉強してないからビリなのが確実だなぁ・・・?どしたの、ニーちゃん?」

「・・・・・おれ。」

「え?」真顔で返してくる妹は悪気等全くもって無い、そう伺え知れた。だが、しかし。

「そこに直れ!この大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁああああ!?兄ちゃん、頭、頭!角出てるよ!?」

「黙らっしゃァァァァああああああああいいいいいいぃぃぃ!!!」

「いやあああああああああああああああ!!??」

ああ、毎度の事だが、如何してこう、我が妹は天性の馬鹿なのでしょうか・・・・?


西暦2115年。

現在の世界は一世紀前とは全く異なる変貌を遂げた世界らしい。

何でも第三次世界大戦やら「最終戦争(ラグナロク)」とか色々あって、今に至る。

かなりアバウト極まりないが、こんな事誰もが知っている事だから、意識していなかった。

要するに、「科学と魔術の融合」と言う表現が相応しいだろう。

今現在の暮らしは科学だけに頼った生活をしているのではない。

それ以外の技術、つまり「魔術」を用いているのだ。

前回の世界大戦、「第三次世界大戦」通称;「サードウォー」。

前代未聞の危機が迫っていた事に気付いていなかった科学者達は奇妙に思った。

敵軍の前線にいるのがたった一人の大きな帽子を被った少女だったことが。

その、不適な笑みが死を告げているとも知らずに。

そう、これは敵国の魔術師の策略だった。相手国が魔術を是としない事を逆手に取って。

魔術に通じていない故、科学者達は少女にとって必要な時間を十分に与えてしまった。

「______________________________________」

少女は長い詠唱を追えた後、手に取る杖を高くかざし、ただ一振り。

そして、たった一人の魔女は、その一撃で敵前線を跡形も無く消失させた。

その被害は多方面に及ぶ事になった。

前線を一撃で崩壊させられ大臣や民衆の多くは混乱に陥り、形勢は一気に傾いた。

戦略は意味を持たぬものになり、戦場の兵士達は悉く破壊の嵐によって蹂躙される。

結果的に、相手国は全面降伏し、その国の一部として吸収されたのだった。

これが魔術の初の公共的な運用。

初の軍事的転移。

異端の技術として虐げられてきた魔術サイドが、表世界に進出した瞬間だった。

その大規模かつ世界的な大惨事を引き起こした戦争こそ、「サードウォー」。

結果的に各国首脳はこれ以上の戦線維持は混沌をばら撒くだけだと判断。

条約締結後、世界は今一度の平和を取り戻したのだった。

しかし、戦争において確固たる地位を築き上げた魔術は多大な影響を与えていった。

「・・・・・・うん、こんなもんだろ。」

「駄目だよ!もう一度!」

「はいはい。スパルタ教師の異名は伊達じゃないな。」

平和な俺達の日常もその影響下にあるといっても過言ではない。

むしろそう言われた方は納得がいくだろう。

公共の学校の授業科目に「魔道」なんてあるくらいだ。

「自身の魔術の安全的運用の為に道徳心やその重要性」などの筆記や実技試験もあるのだ。

医薬品売り場にも薬草が置いてあったりするのも頷ける。

一般魔術の心得のある者ならその用法に従って調合して薬に出来るのだと言う。

・・・・魔術からっきし高校生こと俺にとっては苦痛以外の何者でもないのだが。

だがしかし、兄に対して俺の妹は天才らしいのだ。

一度教えた魔術の理解、再現を即座にやってのけると言うのだから末恐ろしい。

その恩恵に預かり俺も指導してもらっているのだが・・・・一行に習得できないのだ。

先生方にも「魔術師の基本センスゼロ」等と太鼓判を押されてしまったぐらいだ。

高校生なら余裕で使える魔術も一向に使える気がしない。

しかし、何とか妹の援助の甲斐あってか一種類だけ使えるようになったのだった。

「もう一回行くよ!集中して・・・・!!」

「ああ・・・・・・」

朝食を食べた後に、庭で妹が毎日こうやって魔道の指導をしてくれるのだ。


全神経をたった一つの事柄を成功させる為に集中する。


姿勢を正し、全身系を集中させて肉体を一つの機関と成す・・・・・

そして、体内の生命力の循環を感じ取る・・・・・

その循環に干渉して、生命力を魔力へと変換する・・・・・

そして、魔術を行使する。

「light hand is sword , my body is steel (右手に剣を、体を鋼に)!!」

空想の世界の中に魔術の「核」を創造する。


想像するのは銀の鎧を身に纏い、右手に剣を持つ偉大な騎士の姿。

半端な斬撃では掠り傷一つ付くことが無い洗練された鋼の鎧を身に纏う。

幾多の戦場を越え、尚その騎士に忠義し、眼前の敵を切り伏せる剣。


その意味は「攻撃と防御の両立」である。

妹の言うには魔術の基本は「想像の創造(イメージ・クリエイト)」らしい。


「魔術は自身の想像の具現化とも言って良いだろう。」(妹より。)


つまり、自身の想像する現象を種として、その上で実際に魔力を用いて現象を再現する。

例えば、魔術で炎を再現したいのなら火の鮮明なイメージをすればよい。

水を生み出したいのなら水を想像すれば良い。それだけである。

なので、応用も簡単だ。

当然、そういった魔術を行使するためにはそれ相応の魔力が必要になるのだが。

今の俺の魔術は至極簡単な物だ。

簡単に言えば、「肉体強化・損傷保護魔術」である。

肉体の全身を鎧の様に魔力の鎧で見えない全身武装かつ治癒力を上昇させる「肉体強化」。

騎士の剣は「攻撃」を指し、その鎧は「肉体を守る」という意味を持っているからだ。

そして、直に妹と間合いを取り、叫ぶ。

「よし、こいっ!!」「それじゃあ、遠慮なくっ!!」

紅葉は勢い良く俺の腹に遠慮なく拳を叩き込む為に地面を駆ける。

が、どういう魔術を使っているのか速度の若干の上昇を感じた。

しかし、気付いた時にはもう遅い。

手加減無しの空手の技みたいなパンチが思いっきり殴り込まれる。

「・・・・ぐ、っ・・・・」

しかし、多少の痛みは感じても動じない。

本来なら痛みは感じないのだが、不完全にしても一応魔術は成功している様だ。

「わあ!おめでとうお兄ちゃん!」「ああ、お前のおかげだ。ありがとう」

えへへ~~とあからさまに嬉しがる妹なのだが、それがまた可愛らしい。

実を言えば、紅葉は現在俺が見てもかなり可愛い部類に当然入るような容姿の子だ。

面と向かって二十秒しない内に此方が根を上げてしまいそうになる。

しかし、驚くべきはその才能と資質であろう。

魔術師の見習いからたった一週間の期間の間にその資質を見出され、

ついにはたった一年で「魔導師」の称号を授けられたのだった。

稀代の才能ある魔導師が妹で俺もとても嬉しい限りだ。なのだが・・・・

「これで学校の実技も何とか合格できるなぁ」

「当然だよ、あたしの試験でお兄ちゃんが落ちるのなんてみたくないもん」

そう、一番の問題は妹が魔導師であるが為に、俺のクラスの担任なのだ。

魔術師と魔導師の違い。

魔術師が自らの魔道を極めようとする者をさすのに対し、

魔導師とはその進む道を提示し、導く者の事を指す。

簡単に表現するなら生徒指導部兼担任と学生の様な関係性が有るのだ。

故に、必然的に魔道師は人の上に立つ者や先生に政府から任命されたりする。

(しかし、先程の魔術・・・・・・・・・)

「紅葉。」「何?」

「一生徒に対して「イカロスの翼」を使うのはやめろって言っただろ?」

「!?うう、やっぱりばれちゃったかぁ・・」

イカロスの神話を利用した擬似的に飛行兼速度上昇魔術の事だ。

妹の扱う神話系魔術の一つで相当の技術が要るのだが、それを難なくこなしている。

それよりも教師としてそういう風に振舞うのは兄として見過ごせないのだ。

しかし、いくら天才と言えども相手がまだ幼い義妹である事は重々承知しているが、

この時の発言は一生の不覚であった。無念なり。

「可愛い子ぶっても許さん、お昼抜き!」言ったらもうリアクションどころではなかった。

「______う、うう、うぇ・・・・・・・・」

ちょっと涙ぐんでいる?いや、嘘だろ泣くのか!?

「ううう・・・・・」マジだ。時折こういう態度を取るから気を付けていたのに・・・!

「ああ、もう!わかったから泣くな!ちゃんと弁当は持っていくから、な?」

「え!?じゃあ、お昼に屋上に集合ね~!来なかったら泣くぞ~?」

そういうが早いか妹は飛び去ってしまった。ホント、流石です紅葉先生。

あの渾身の涙は跡形も無く空へと消えていったのだった。もう二度と来るな。

内心で感心しつつ俺も支度を終えたので学校へ向かう。

泣かれるのは嫌なので義妹用に昨日の残りおかずの詰め合わせを持っていく事にした。

俺達が在籍(就職)している学校は「新生高明魔道学園」である。看板に書いてあった。

通勤手段にバスを使用している生徒達はそれを見る機会など滅多に無いのだが。

かく言う俺もバス通学なのであまり見た事は無い。

と言うのも、この学校では最上級に管理の行き届いた巨大建造物の内二部屋を借り切っている我が兄弟の現状は甚だ快眠出来るほど優雅なものでも幸せ万歳でも無かったのだ。

妹が教職員の立場上、隣の部屋には殆ど荷物らしきものは無いのだ。

色々と積み重ねられたダンボール箱の中が蛙やら魚やら薬草やら、古今東西全て魔術の研究材料で無ければの話だが。

つまりは深夜まで特訓+勉強+研究のお手伝いの三重苦なので、睡眠時間も少なく体力も消費しているので徒歩等無駄な消費を抑える為、いかにもヒキニートに絶賛の方法を取るより他無かったのだ。

充実していると言えば充実しているので、あまり大きな声では言えないが。

この学校はそれなりに世に名の知れた有名校らしい。

施設の詳しい敷地面積を把握しては居ないのだが、少なくとも旧東京ドーム二つ分はある。

それが三つあるなんて言ったら、当然有名に成るだろう事請け合いだろう。

一つは「宿泊連」名前は・・・・・・・・・・知らない。

以前他の奴に聞いた事があるのだが、大方の生徒がその名前を知らない様だ。

新任の紅葉も知らないらしい。ここからバスに乗って移動する。

移動用のバスなんて普通学生寮に住んでいては使えないor使わないのが通例であるが、

この高校に関して言えば例外的に広いので徒歩で通学は無理があるからだろう。

しかし、毎朝の事ながらこういうのは聞くに堪えがたい。

「な、何だありゃあ!?バスの上に人が乗っているぞ!」


「ええ!!あれ、先生!?」


「やーやー生徒諸君!遅刻者は減点だぞー♪」

「・・・・・・・・・・・・」

これは語る必要すらも無い気がするのだが、訂正はしておこう。

その声の主こそ、紛れも無く先程飛び去った筈の我が義妹に他ならないのだ。

高らかに大型乗用車の上にて、帝督の如く我が物顔で居座っている。

これでは毎日道路標識に激突しないか心配でたまらないではないか・・・・・・・・

俺の義妹は馬鹿より天然に近いので平気で色々不思議な事をやってのけるのだが、

毎日の様にバスの上に乗るのだ。しかも正座で、俺がこの学園に来てからずっと。

それも俺の乗るバスの上に限って、だ。

おかげで学校では最早「不思議ちゃんスパルタ魔法先生」という地位を確立している。

俺が気付いたのは同学年の女子生徒に言われてからであるから、俺の失態でもあるのだが。

妹と俺が一緒に登校するのが通例だったのであまり気にしていなかった事が失敗だった。

理由は「え、いや、その、・・・・・・・・・か、風が気持ち良いからかなぁ??」

どうやら最近の義妹は詩人の様だ。

一体誰だ、変な事を吹き込んだ奴は!名乗り出て其処に直れ!即刻成敗してくれん!

まぁ、こんな風に可愛い妹だからこそ皆に人気が出るのだろうな。

____________________________少し、イライラするが。

ちなみにスパルタキャラは何に対しても真面目な気質の為である。

そのテストを一度受けた者は口々に「もう・・・・嫌だ」「二度と・・・・受けない・・ぞ。」

等と口にしていたそうな。全くご愁傷様ですとしか言い様が無い。

まぁ、クラス編成の際に要らぬ口出しがあった所為で担任になってしまったのは予想外。

故に今はもう人の事を言えた身では無いのだった。

とにかく此処は科学が満載の施設だ、とでも形容しても差し支えないだろう。

外見から内装まで最新の設備や技術工夫を凝らしてある。

最新式の自動ドア、高速エレベーターにエスカレーターを見た時は流石に驚いた。

宿泊連が全長40Mなんて、そこいらの学校では滅多にお目にかかれない物だろう。

この学校は小学生から高校生まで生活している皆の家みたいな所だ。

此処は定時制から全日制まで其々の階に分けられているので、無闇な衝突も起きない。

購買では膨大な人数のニーズに対応できないので其々の年齢に合わせた学食もある。

小学生なら女性の栄養士さんが面倒を見、中高生ならオシャレな空間がある学食等がある。

一部の男子生徒が「いいなぁ小学生、羨ましい・・・」とか口走っていたのが聞こえた。

小学生担当の女教師が超美人だとか抜かしているが、俺には関係の無い話なので流した。

しかし、当然学食を使用しない俺達兄妹の様な例外も有る。

しかもこういうニーズにも対応しているのがこの学校の怖い所だった。

第二に今から向かう「学習塔」がある。

基本的に科学や魔術関連を学習するのだが、それ以外の教科の学習も可能である。

最近の学校の制度を採用しているのだそうで教師ではなく生徒が移動する。

只でさえ広いこの施設でその制度は苛めているのか!?最初はそう思っていたな。

大体の生徒が基本的に魔術を使えるようになるので道案内も魔術でやるそうだ。

しかし、驚くべきはその屋上の使用条件だ。

この学習塔の屋上は学生なら使用しても良いのだそうで、鍵はかかっていない。

「何というアニメキャラの会話が聞こえてきそうな条件だろうか!」妹はそう言っていた。

そこまで考えているとも思えないので、思考は其処で止めておいた。

バスのエンジンが止まり、アナウンスが目的地に着いた事を知らせる。

ちなみにもう一つの「魔道塔」は教員が度々集う職員室が有る。

あちらに一旦教師は学習用兼実験器具を保管しているようだ。(義妹情報)

「今日のテストは絶対合格してよ、兄さん」

「当然、そのつもりだよ。」

魔道塔と学習塔の回廊は連結されていて学習塔から魔道塔に入る事が可能なのだ。

それは先生の負担を軽減する為なのだが、それを悪用している人物が一人。

何を隠そう我が誇り高い義妹本人に他ならない。

これによって義妹と登校するという図が完成してしまった訳である。

しかも「新任の紅葉先生はブラコン」とか、

「いや、兄貴がシスコンなのでは・・!?」等等、

「おのれぇ!紅葉ファンクラブ代表として捨て置けんぞ!!」面倒くさくなるが、

色々と噂の一つや二つ立ってしまうものなのだった。

いやいやいやいや。誤解にも程があるだろう。

(紅葉ファンクラブは盗撮疑惑が浮上したので塵の一粒も残らない様に壊滅させたが)

そして教室にて隣の席の奴に一連の事情を話し、聞いてみた。

「一部男子がこういう事を言っているのだが、どう思う、服部半蔵!」

「あたしには関係ないだろ。ってか、半蔵って呼ぶな、シスコン野朗!!」

「ごあはぁ!?」

鉄かと疑う重い拳はストレートで俺の顔面に突き刺さった。

かの隣人はツッコミ師匠こと朝のHRで隣の生徒にして俺の親友でもある服部京子である。

容姿は日本人の顔立ちと赤毛が上手いこと合体した日系人。

肩まで届く程度のショートヘアが活発なイメージを連想させる。

クラス内に置いて、一番の美人にして、怖じしない性格の先導者(リーダー)である。

気だるい朝にも関わらずこのツッコミの精度、感服せざるを得ない志を感じる所がある。

出会った当初もこんな感じだったような気がする。多い時は一言に十回かえって来た。

半蔵と彼女を呼ぶ理由は単純だ。その反応がすこぶる面白いからだ。

基本的に可愛らしい少女だがその困っている時の表情が面白いし、より可愛らしい。

「人の性癖は人それぞれだし、否定はしないよ、否定は。」

「批判はするのか。」

「当然」だが、意外に冷静だったりする時の彼女は要注意である。

と、不覚を取った事に気付かない俺は一言で逆境に立たされる事になった。

「はーい、其処の女子と男子?後で廊下に来なさい。」

「「あ」」

油断した!妹が既に学校の教団に立っている!一体何時の間に来たのだ!?

しかも、にっこりと微笑んでいる!?

「こ、これは本格的に命の危機だ・・・・!」

細々と呟くと呟き返してきた。

「ええ!?でも、先生は笑っているじゃないか!」

「眼だ。眼をよく見るんだ!!」

「え?」

注視すれば分かっただろう。実はあの娘、よく見ると眼が笑ってない。

体中から殺気を感じる。長年一緒に生活しているからこそ、瞬時に見抜くことが出来た。

ああ、殺す気満々だアイツ!何でだ!?俺、俺達が一体何をしたと言うのだ!

「そ、そんな・・・俺はどうしたら良いんだよぉ、お前兄貴だろ!?なんとかしろぉ!」

「な!?む、無茶言うなよ!」

これは秘密事項だがキレた時の義妹の恐ろしさはこの学園最強なのだ。

それを止める方法は自制以外は存在しないのだ。

「命賭けろよ!!」

「サットの掛け声!?しかも命令形じゃな・・・・い・・・か?」

このまま漫才的な流れで逃げようと思っていた矢先、それを見てしまったのだ。

見ればうるうると涙ぐむ眼。赤らむ頬。不安そうに此方を見る子犬の様な表情。

こんな顔をされては断れないよ、自分と言う奴は。

それに只でさえ綺麗な少女なのだ。この懇願を断れる奴は朴念仁であると証明出来よう。

「わ、分かった、分かった。分かったから落ち着けぇぇ!!」

必死だったのか無自覚に胸倉を捕まれて顔の距離がもの凄く近くなってしまっている。

その事実に気付いたのか、顔が赤くなる赤くなる。デジカメに収めておきたいくらいだ。

しかし、暢気には出来ない。ああ、可愛らしいデスマシーンの陰がより深くなっていく・・・・

「・・・・・・・そこの二人。今、此処で再教育されようか。」当然、死刑宣告だった。

「「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」


無事に平和的解決を図ったのは一重に閃きと偶然の恩恵と言っていいだろう。

説教中に学校一融通の効かない偏屈教頭こと「メガネパンダ」を呼び止める事に成功した。

この先生は清楚かつ誠実をモットーとしている為、生徒にも先生にも厳しい事は有名だ。

その逸話としてこんな話がある。

まだ魔術師がいかに危険な存在か知らしめる要因となった大事件である。

魔術師とて一端の人間であり、様々に考え様々に行動する権利がある。

不良とはその可能性の範囲内で生まれた産物であり、社会的に見れば悪影響のみをばら撒く存在として一部の情の無い人々に差別されている存在である。

それは魔術業界の人間であっても例外ではない。

度々世界では組織に入らず単独で世界を渡り歩くはぐれ魔術師も確認されている程である。

その困ったところは普通の旅人では通常ありえない事をのうのうとしでかす事だ。

それが善行ならまだ良いが、悪行なら困り者である。

その紛い物の行為を一度でもした過去の生徒を一人残らずたった一人で殲滅した経歴を持つらしい。

それ故に生徒からは尊敬と畏怖の両方の念を抱かれる微妙で扱いにくい立場にいるのだった。

一旦戦闘不能にされてしまって連行された俺達は、授業を自習にして抜け出してきた妹と共に清楚な男性の教員に紳士的に説教された。

俺達は早々に解放された。(後で聞いた話しだと、反省文を提出する羽目になった様だ。)

「はぁ・・・・、紅葉のやつ。何であんなに怒ってたんだろうな?」

「日頃の行いが悪かったからじゃないのか?」微笑んで言われてしまった。

「別にしてないさ。あの時も、只お前と仲良く楽しく会話してただけじゃないか。」

「全く女心が解っていないな、お前。そんなんじゃ嫌われるぞ?」

「そうか・・・?俺は服部との話は楽しいし、お前の事も好きなんだけどな。」

「え・・・・・?」

突然顔が真っ赤になってしまった服部。理由が検討付かない。

朝御飯のキムチの辛味が今になって効いて来たなんて事はあるまいし、どうしたのだろう。

「どうした、そんな顔真っ赤にして。体調が悪いのか?」

「い、いやいや。なんでもない、一旦忘れろ!直に忘れろォ!!」

「そうか、じゃあ一枚。」パシャ、と鳴るシャッター音。

「なっ・・・・!?」我に返ったのか驚いた表情で此方を見ている。

「いやぁ、いい表情だったんで、つい。」ニヤリ。これは弄るチャンス到来ッ!!

「ついじゃないだろう!明らかな盗撮だぞ、これは!って、取るなァァァァァァ!!」

意外なカメラマンの登場に恥ずかしがる顔、仕草も表情も一級品であった事は言わない。

ああ、自分の撮影技術の低さが恨めしい。

この写真を溜めて写真集にしたら億万長者間違い無しの大ヒットだろうに。

学園生活が楽しい事に事欠かないと言う噂は本当だったか!と実感したのも束の間、

「1年G組の服部京子、神崎拓夢は至急職員室へ来る事。」

これは、校内放送であった。

御指名です、二名様校長室へご案内しまーす。と青少年・少女が絶対行ってはいけない店の呼び出しが入るのだった。

学生生活謳歌中限定説教宣告こと呼び出しが掛かった事で、俺達は相当の覚悟をする羽目になった。


今居る場所は学校の最重要区域、教員の頂点にして最強の存在の居る部屋、理事長室だ。

神崎拓夢は絶句した。

てっきりとんでもない皺の寄ったお婆さんが居るかと思っていたが、そこに佇むのは一人の年の若く、幼いが強烈に存在感のある子供だったのだ。

長い金髪ストレートの小学校後半の少女のような幼い外見の美しい子供が其処にいた。

立姿にもかかわらず、その隻眼からは目が離せない程の魅力を感じた。

同年代や少し上の人間の中で選別しても一番の美人は言うまでも無く最初から彼女だ。

線は全体的に細く見えるが、それが彼女の透き通る白い肌と相まって最早芸術の域に至る。

その幼い美貌は熟成された艶かしい物では無く、青く初々しい林檎の果実を思わせる。

しかし、その表情は達観した目線から物事を眺める鷹やコンドルそのものであった。

また、年齢と不釣合いな「少女」ではなく「女」としての雰囲気を纏っていた。

最初、その子の正体が分からなかった俺は歩み寄ると、こう言った。

「ねぇ君。此処はこの学校の一番偉い人が座る所なんだ。だから、次からは乗っちゃ駄目だよ?」何事も最初の第一印象が大切である。出来るだけ優しく尋ねてみた。

「ちょっ!?お、お兄ちゃん!その人は・・・・・!」

やけに紅葉が焦っている。

何かに動揺していつものマイペースも吹っ飛んでしまっているみたいだ。

「ん?この子がどうかしたのか。何かの間違いで此処の部屋に入っちゃったんだろう、ね?」

次の瞬間、衝撃的過ぎる事実が告げられた。



「その子、間違いなく学校の理事長その人だよ。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

あれ、聞いた事のある単語なのに理解できない。したくない。

聞いた事のある単語だと本能が純粋に警告しているが、無視して続けた。

「まさかぁ。こんな純粋で可憐な少女がそんな訳無いだろう。」

カタコトの棒読みの言い逃れは最後の抵抗だった。

しかし、まるで痺れを切らした様に少女は此方を睨み付けると、こう言ったのだ。


「小僧、さっきから言いたい事をいいおって!!」


「ごばぁぁぁぁああああ!?」


次の瞬間、俺に向かっていきなりアッパーカットが繰り出された。

幼い少女の腕から異常な力が伝わってくる。恐らく魔術の一種だっただろう。

不意打ちに反応出来ず直撃。そのままの勢いで元の位置にまで転がった。


「・・・こらぁ!!上級生や目上の人には敬意と礼儀を払いなさい!」


「今の所、お前が言ってもその台詞には重みも意味も何も無いぞ?」


「そうだね。うん、納得。」

当然だ、と言う顔で一蹴された。

「何故!?」

「いや、だって、なぁ・・・?」「まぁ、そうだね・・・・。」


すると、少女は誇らしげに無いに等しい胸を突き出し、こう名乗るのであった。

「小童、我の名は高明 亜野子と言う。ここまで言えば分かるであろう?」

余裕の表情。

高明の苗字。

外見の印象を崩さない割に高価そうな服。

手入れの行き届いた美しい金髪。

俺はこの判断材料から最終的な結論を出した。

それは_____

「分かった。君のあだ名はあーちゃん_ごふぅっ!?」

本日二回目の鉄拳制裁。学校の関係者の非暴力活動はこの子の心中には届かなかった。

それが何よりも悲しかった。しかし、それも吹き飛んでしまった。

「この小童めが!!軽々しく我の名など作るでない!」

明らかに殴り倒すぐらいは怒っているのかなと思ったが、しかし顔は笑っている様だ。

あれ、意外に満更でもないのかな?あーちゃん呼びは承認された事項らしい。

照れ隠しで殴るとは。それこそ教育不行き届き極まりない。

「了解です、あーちゃん。」

「だからあーちゃん違う!!」


「ああもう、色々と分かんなくなって来たなぁ、これ。」


「お兄ちゃん・・・・・」


結果的に双方共々疲れきったので話を再開した。

「で?学校長・・・あーちゃんは俺達に何の用があるのかな?」


「用はあるのだが・・・とりあえず真剣なムードだからあーちゃんはやめろ。」


「いいと思うよ。可愛くて_「せい。」ごはあっ!?み、皆最近暴力的じゃないかい!?」


「誰の眼から見てもお前が悪いだろう。」一蹴されてしまった。何が駄目だったのだろう?


「と言うか、お前最初から分かった上でやってたのか・・・・・・」


「と、ところで用って何なんだい?」


「それはあたしも知りたい所さ。もうここらでおふざけはお終いにしよう。」

「何、其処の無礼な小童の事じゃよ。」


「俺が関係しているのか?」


「この学校に来てからというもの、何か視線を感じたりはしなかったかのぅ?」


いきなりな質問に俺は硬直した。視線?この学校に来てから?

突然という事もあるが質問の意図が理解できない。

ストーカー被害に会う事等全く無かったし、こんな男を付け狙う女の子等居るはずもない。

悪寒のする話を想像する前に首を横に振って思考を断ち切る。

記憶の中の一つ一つの出来事を思い返す。

「そういえば度々寝てる間に視線を感じて起きた事があったと思うけど・・・・」

偶然思い出したどうでも良い事を投げかけてみる。

すると、残念ハズレ☆と言いたげな何とも漫画雑誌で度々見るあのぶりっ子キャラクターのポーズをされた。

確かに可愛いのは嘘ではなく真実だが、この状況や流れでされると何だかムカつく。

(ぐあああああああ!!おおおおお、お、抑えろ、我慢だ我慢ッッ!!!!)

一瞬本気で爆発しそうになった。

首元まで迫りつつあったロリコン属性が一気に指定位置に戻っていくのを感じた。

さて気を取り直して、そう区切りを付けて話の路線を戻す学校長なのだった。


「ふむ。実を言えば我々「学習理事会」は常々お前を研究していた。」


「え?」


待て、理解速度が追いつかない。研究対象?俺が?視線?学習理事会って何だ?

この状況で真面目に「研究されていました、そうですか」と安易に容認は出来ない。

それに・・・・・、

「それは・・・、やっぱし、入試の件なのか・・・・?それとも、初日の事か?」


そう、実を言えば学園入学は俺の場合、普通では無かったのだ。

実はこの学校は先生の関係者なら入学手続きをするだけで合格できる制度がある。

しかし、俺はあえてその特権を使用せずに入学試験に臨んだのだ。

万を辞して気合も入れて準備は完璧だったのだが、試験を受ける事は無かったのだ。

受ける前に「此方にお入りください」と教室に行き、気が付いたら俺は合格していた。

何があったのか今の所不明だったので、気にしてはいなかったのだが。

それに初日の挨拶は何故か俺が担当したのだ。おかげで顔も知れ渡った。

正直な事を言えば、調べたかったのだが、あまりにも情報が少なくて出来なかった。

しかし、先入観と思い込みは人生のご法度なのを思い知る事になった俺だった。


「それは、我々がお前を招いたのさ、この学園に。」


「なっ・・・・!?」


それは、あまりにも衝撃的過ぎた情報だった。

突然だからこそだが、こういう事は本当に心臓に悪い事請け合いなのだ。

もう少し控えてくれると大助かりなのだがな、と溜息を付く。

本当に、何が起こるか解らないのがこの世界の醍醐味なのだろうが。


正直掲載する時は真面目に逃げ出したくなりました。

何と言っても秘匿性質所持者が公に趣味をさらすなんて事は腸をがん視されるのと同じくらい恥ずかしい訳でして、大変でした。

何はともあれ皆様に読んで頂いた事が何よりも嬉しいです。

これで真面な外見があったらと思わずにはいられません。

続編も出る予定ですが、読んでいただければ幸いです。

ではまた逢う日まで。

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