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翌日の土曜日、雪沢は一時間前の18時に部室に来ていた。端においてあるバケツを見て、以前ここでホムンクルスを作ろうとしていたのを思い出した。

「あれからまだ二週間も経っていないんだよな。」

あの時失敗から信じられないほど、雪沢の周りでは魔術絡みの事が起こっていた。そしてもしかすれば今日は、そのホムンクルスも出現させる事ができるかもしれないのだった。雪沢は亜崎にメールをしてみた。すぐに返事が来て、亜崎もすでに学校に来ているらしかった。まだ他の部員が来るまでは時間があると思った雪沢は、事前にあって打ち合わせをしようかとメールしたが、亜崎からは条件をなるべく揃えるためにもやめたほうがいいという返事がきた。

10分前になると斉藤がやって来た。今日も先週と同じくジャージ姿だった。

「こんばんわっす。雪沢先輩さすが早いですね。」

「おう、サトシ!急に呼び出しかけてすまなかったな。」

「それは大丈夫ですよ。今日やる実験てのはどんなやつんですか?」

「それはもうちょっと秘密にさせといてくれ。うまくいかないかもしれないんでね。」

「わかりました。」

5分前には成嶋がやって来た。服は違うようだか、やはり先週と同じくショートパンツにレギンスだった。

「雪沢、今日はまたなにをやるつもり?」

「まあちょっと待ってくれよ。準備が整ったら話すから。」

「いいけど画期的って言って、また失敗しても落ち込まないでよ。」

成嶋は一息つくと

「そういえば、昨日は女の子と帰ったんだって?」

と聞いてきた。

「えっ、なんで知ってるんだ?」

「斎藤くんが見たのよ。」

それを聞いた雪沢は斉藤をふざけて恨めしそうな表情で見つめた。

「すいません、つい。」

斉藤はすまなそうに言った。

「こんばんわ。」

その時、ドアが開いて瀬野がやってきた。彼女は先週とは違い、制服を着ていた。時計をみるとちょうど19時になったところだった。

「みんな揃ったね。じゃあグラウンドに移動するから。」

「ここでやるんじゃないのね?」

「ああ、土の上のほうがいいんでね。」

雪沢たちは部室を出てグラウンドに移動した。部室を出る時に雪沢はあらかじめ用意していた亜崎へのメールを送信した。グラウンドに出るとすでに陽は落ちており、空は夕焼けから夜空へと変わりはじめていた。昼間は部活で使っていたようだが、今は誰もいなかった。雪沢はあたりを見て亜崎がいるかどうかを探してみたが、見つからなかった。

「そろそろどんな事をやるのか教えてくれない?」

成嶋が聞いてきた。

「ああ。」

雪沢は最後にもう一度あたりを確認した。亜崎の姿を見つける事はできなったが、そろそろみんなを待たせている事も難しくなったので説明をする事にした。

「これからちょっとした魔術の実験をしたい。実験と言うよりは検証かもしれないな。まだどういう状態でその現象が発生するのか、はっきりしたことはわらないんだ。」

「なんだか言ってることがよくわからないんだけど?」

成嶋が問い詰めるような口調で聞いてきた。

「すまない、これが上手く言ったら説明するよ。」

「ちょっと雪沢!あたしたち、あなたの実験に付き合ってるのよ!そんな秘密にしないで教えてくれてもいいじゃない?」

「え、いや、失敗したらその、あれだしな。がっかりさせるし。」

「あたしどれだけあなたの失敗を見てきたと思っているの?今更一つ二つ増えてたところで気にしないわよ。」

成嶋はなだめるように言ってきた。雪沢はおもわず『もう成功している!』と言いそうになったが、慌てて口をつぐんだ。タリスマンのことは成嶋にはあまり言いたくはなかった。

「そうですよ、雪沢先輩。俺たちを信じてください。失敗しようが俺はずっと雪沢先輩を信じますから。」

斉藤も雪沢に頼んできた。瀬野は何も言わなかったが、斉藤の発言に合わせてうなずいていた。

「わかったよ。そうだな、みんなに隠しているのは悪かったよ。」

雪沢は観念してみんなに何を行うかを話し始めた。ただタリスマンと亜崎の写真については省いて説明を行った。


「じゃあしおりに向かってきた人が転んだのは、ホムンクルスさんが出てきてくれたから、ということなんですか?」

説明を聞き終わった瀬野が聞いてきた。

「それは確実だと思う。なぜ出たかを考えたんだけど、あの時オレたちは必死にあの男を何とかしようと思っていただろ?みんなの思いがひとつになったからだと思ったのさ。」

「俺たちの思いでそんなものが出るかもしれないんですね。早速やってみましょうよ。」

「じゃああの時みたいに、成嶋と瀬野、オレとサトシの組で五メートルほど離れてみようか。」

雪沢の指示によって二組にわかれ、間をおいて離れた。雪沢は全員のオーラを見ていたが、斉藤と瀬野はやや色が濃くなっていてこの実験に興味を持っているようだったが、成嶋のオーラはいつもと変わっていなかった。やはりこの手の実験に興味を持たないのだろうと雪沢は考えていた。

「次はどうすればいいですか?」

斉藤が聞いてきた。

「そうだなぁ。じゃあみんな、合図をするからあの時の気持ちを思い出してみようか。」

雪沢は成嶋と瀬野にも聞こえるよう、大きめな声で話した。雪沢はタリスマンがホムンクルス出現の重要な要素であると信じていたので、それが関係するとはあまり思っていなかった。だが亜崎が指摘した『当時の状況に近いほうがいい』という条件を考えると、そうは思ってみてもやってみて損ではないぐらいには考えていた。

「じゃあ、いいかな。五、四、三、二、一……。」

雪沢のカウントダウンが終わると、みな当時の気持ちを思い出そうとしているのか、目をつぶって集中していた。雪沢は瀬野の手前の、男がいたあたりを睨み、『止まれ』という気持ちで意識を集中させていた。

「なにかおこりましたか?」

30秒ほど経って、瀬野が雪沢にたずねてきた。

「残念だけど、なにも……。」

雪沢がそう答えようとした時だった。雪沢達と成嶋達の間あたりに、50cmほどの人型の灰色のオーラが現れた。人型のオーラは雪沢たちからゆっくりとどこかへと動き出した。「出た、成功だ!」

雪沢はそう叫ぶと動いていく人影を視線で追った。人影はグランドの中央にむかってゆっくりと移動していっていた。

「あっ?」

成嶋がグラウンドの中央を見て軽く声を上げた。雪沢がそこに視線を向けると、黒いロングドレスをまとった亜崎がそこにいた。オーラの人影は亜崎の横まで移動すると消失した。

「正一くん、ちゃんと全員集めてくれたのね。」

亜崎は雪沢にこう語りかけてきた。

「亜崎さんの言った通りだったよ。出来たよ。ホムンクルスが出現したよ。まだどういう条件なのかわからないけど。」

「残念だけど、それは違うのよ。」

亜崎は興奮気味の雪沢に落ち着いて返事をした。

「さっきのはちょっとした事を確認するためにやらせてもらったの。」

そう言うと手のひらを地面に向けて広げ、そのまま引き上げるような動作をした。すると地面から灰色のオーラの人影が、まるで手に引っ張られたかのようにせり出してきた。彼女が手を閉じると人影は霧散した。

「わかったかしら?」

「亜崎さん、一体なにを?」

亜崎はその言葉に答える事は無かった。雪沢は彼女の全身のオーラが赤く変色していくのに気がついた。オーラは人型のまま亜崎の身体から前面に分離すると、高速で成嶋と瀬野のほうに移動しはじめた。

「危ないっ!」

オーラの色から危険を感じた雪沢は叫びながら成嶋達へ駆け寄った。成嶋はとっさに瀬野を押し倒すようにして地面に伏せ、その上を赤い人型が通り過ぎた。

「大丈夫か?」

「ええ。」

雪沢は成嶋のそばにくると二人の様子を確認した。どうやら二人とも平気のようだ。

「雪沢先輩!」

斉藤が雪沢達の方へ駆け寄ってきた。だが通りすぎた人型も再度雪沢達の方へ向ってきていた。

「サトシっ、危ない!」

雪沢達のところにやってきた斉藤に、人型が高速で突進してきた。雪沢の声で斉藤はとっさにまわりを見渡したが、人型は見えないようだった。人型は斉藤とぶつかって炸裂し、斉藤を押し飛ばした。彼は雪沢達の上を飛び越えて反対側の地面に打ち付けられた。

「斉藤くん!」

成嶋が斉藤のそばに駆け寄って様子をみた。気を失っているようだが、軽い擦り傷がある程度で命に別条はないようだった。

「雪沢さん、一体何が起こったんです?いきなり斉藤君が吹き飛ばされましたよね?」

瀬野が聞いてきた。雪沢はその言葉を聞いて気がついた。オーラが見えなければ、ホムンクルスらしきものも、亜崎から分離した人型もわからないのだ。

「なかなかしぶといわね。」

亜崎はそう言い、両手を頭の左右にそえると後ろに動かした。手の動きに会わせて髪全体が後ろに動き、そのまま頭から離れ後ろに落ちた。

「あの人かつらだったんですね。しおり、スキンヘッドの女の人初めて見ました。」

瀬野がこの場には似つかわしくない素直な感想をつぶやいた。その言葉通りグラウンドに立つ亜崎はスキンヘッドだった。だが雪沢には亜崎の頭から出ている無数の細いオーラが見えた。そのオーラはまるでそれが本当の髪の毛のように頭皮を覆っていた。

「本気出さないと駄目みたいだから。」

亜崎がそう喋ると、再度彼女のオーラが赤く変色した。そして今度は二つの人型に分離しようとしていた。

「成嶋、しおりちゃん。」

雪沢は意を決して話しはじめた。

「信じられないかもしれないけれど,オレ、人のオーラが見えるんだ。そしてあそこにいる女子は何故だかわからないけれど、オレたちを攻撃してきている。自分のオーラを飛ばしてきてるみたいなんだ。斉藤はそれにやられた。」

成嶋と瀬野は雪沢をまっすぐ見つめて話を聞いていた。

「ホムンクルス、さっき話した先週あの男を転ばしてくれたものだけど、それはオレのその力が発展して出来たものじゃないかと思ってる。でもどうやったらまた出てくるのかわからなかったんだ。今日集まってもらったのも、本当はその条件を探るものだったんだ。実際起こった時と同じ方がいいだろうって。」

「その考えはあの子が思いついたのね?」

成嶋が聞いてきた。

「なんでそれを?」

「さっきあの子に話しかけていたじゃない、『言った通りだった』って。その時は何を言っているのか分からなかったけれど,今の話を聞いてわかったわ。昨日一緒に帰ったのはあの子で、あの子と魔術の話をしたんじゃない?そのときに今の考えを聞いたのね。」

「……ああ、その通りだよ。そのときにあの子、亜崎さんも特殊な力をもっているといっていたけど、こんな力を持っているとはいっていなかった。」

雪沢は亜崎を見た。すでに左右に赤いオーラの人型が分離していた。あれが突進してきたら,オーラが見える雪沢は避ける事が出来るかもしれないが、成嶋と瀬野が避けられる保証はなかった。

(昨日話したときの印象とは全く違う。なぜ彼女はこんなことを?)

雪沢は亜崎の行動が理解出来なかった。なぜこんな事をするのかを考えて、昨日の会話を思い出していた。そしてふとある事を思いついた

「亜崎さん!」

雪沢は二つのオーラの人型を従え、オーラの髪をまとった亜崎に叫んだ。

「もしかして、あの時の状況を再現するために、わざとオレたちを襲っているの?だとしたらやり過ぎだよ。サトシにけがさせる事はないだろ?そのやり方はやめてくれよ。」

「正一くんは、純粋なのね。それとも現実が受け入れられないタイプかしらね?」

亜崎のオーラの髪が振動すると、左右にいた赤いオーラの人型が雪沢達に突進してきた。とっさの事に成嶋たちに声をかけることは出来なかった。『危機を回避するためになにかしらの新しい能力が発揮される』、雪沢はそんな奇跡が起こることにわずかな期待をして、タリスマンに意識を集中した。すると突進してきた人型オーラは雪沢の目前で止まった。

「やった?」

雪沢が喜んだのもつかの間,二つの人型オーラは左右に猛スピードで分かれ、両側から雪沢たちを挟み込むように突進してきた。ぶつかると思った瞬間、雪沢は思わず目を閉じた。


だがなにも起こらなかった。予想した衝撃もなく、何の物音もしなかった。ゆっくりと雪沢が目を開けると、そこに両手を広げて仁王立ちしている成嶋の背中が目に飛び込んできた。彼女の身体の周りのオーラは、亜崎と同様に他の人よりも厚くなっており、今まで見た事のないほど明るく光り輝いていた。

「なる……しま?」

雪沢は顔を上げ、成嶋の頭に視線を移した。そこでは成嶋のショートカットの頭髪が青い炎に包まれて燃え消えていった。その変わりに、成嶋の頭からも細い髪状のオーラが無数に生えてきていた。

「成嶋さんもスキンヘッドだったんですね。しおり、まったく気がつかなかったです。」

瀬野はまた場違いな事を言っていた。

「ようやっと本気だしてくれたのね。<螺旋の閃光>の魔術師さん。」

亜崎はこういうと、また赤い人型のオーラを突進させてきた。成嶋が手を広げて前に突き出すと、手の周りから輪郭を拡大するように黄色いオーラが広がっていき、突進してきた人型に覆い被さって両方とも消失した。

「成嶋がこんな力を?どういうことだよ?」

雪沢は驚き混乱して成嶋に詰め寄った。

「あぶないから下がっていて。斉藤くんを頼むわね。」

成嶋は視線を亜崎からそらさずこう答えた。雪沢は今度は亜崎に質問をした。

「亜崎さん、いったいどういうことなんだ?なんでオレ達を攻撃するんだよ!オレと亜崎さんは力を持っている秘密を共有した仲間だったんじゃないのか?」

「正一くん、ごめんなさい。わたしあなたにいろいろと嘘をついていたわ。」

「雪沢!あいつの話聞いちゃダメよ。」

成嶋が叫んだが、亜崎は続けた。

「わたしの力、写真の魔力を感じるって言ったでしょ。でもあなたも今見てわかるように、もっといろいろな事が出来るのよ。」

こう言いながらまた人型のオーラを飛ばしてきた。成嶋はそれをオーラで包んで消滅させた。

「あなたに仲間を集めて欲しいと言ったけど、それは再現のためじゃないのよ。そこにいる魔術師を呼び出してもらいたかったの。」

そう言って視線を成嶋に向けた。

「魔術師……。」

雪沢は亜崎が言った単語を繰り返した。それは雪沢が目標としていたものだった。魔術を探していけば、いつかはそこに続く道があるに違いないと思っていた。だがまさかこんなに近くに存在していたとは思いもよらなかった。

「あなたの新聞にホムンクルスが写っていたのは本当よ。<螺旋の閃光>って連中がよくつかっている型。あいつらは害悪だから排除するために協力してもらったの。あなたには魔力がないので、仲間の誰かが<螺旋の閃光>でしょうから、ここに呼んでもらったのよ。」

「おしゃべりはそのぐらいにして、アザキさん。害悪とは言ってくれるわね。あなたたちみたいな邪悪な集団こそ、社会にとっての害悪よ。」

成嶋の右手に赤い球状のオーラが形成されたかと思ったら、亜崎に向かって飛んでいった。亜崎が手を振ると、そばに黒い人型のオーラが出現してオーラ球を受け止めた。

「意外にやるわね、ナルシマさん?」

予想より強い攻撃に亜崎は驚いたようだ。亜崎は赤い人型のオーラを突進させてきた。成嶋は手を前に出して、その手首まわりと手首を横切る平面上の上下左右二メートル四方に赤いオーラの球体を無数に形成した。球体は高速で赤い人型とすれ違うと亜崎を包囲した。

「まさか、こんな数を?」

亜崎はとっさに黒い人型のオーラを複数出し防御しようとした。だが襲いかかる球体をすべて受け止めることは出来ずに、大多数は亜崎に命中した。悲鳴をあげて亜崎は倒れた。同時に突進してくる赤い人型も消滅した。倒れた亜崎はオーラの色が薄くなっており、おそらく気を失ったのだろう。成嶋は息があがっていて、呼吸を整えようとしていた。


「成嶋、お前は一体?まさか魔術が使えるのか?」

しばらくの沈黙の後,雪沢が成嶋に質問した。

「そうよ。」

成嶋は小さくそう答えた。

「あたしは<螺旋の閃光>という魔術結社に所属する魔術師。あの子はあたしのところと対立している別の魔術結社の魔術師。」

「まさかこんなに近くに魔術師がいるなんてな。成嶋、なんで教えてくれなかったんだよ、オレが魔術に興味あるの知っていただろ?あ、そうか魔術結社の決まりで教えちゃいけないとかあるんだっけ。」

「雪沢、あなたが魔術に憧れているのはもちろん知っているわ。でも無理なの。あなたには魔力がないもの。」

成嶋は雪沢にそう告げた。

「魔力がないって……。」

「よくわかってはいないけれど,魔力は皮膚から毛穴を通って出てくるようなの。だから魔術師は、魔術師の素質を持っている人は、毛髪が極端に少ないのよ。」

「まだわかってないんだったら、突然変異の可能性は?だってオレはタリスマンの作成にも成功して,実際にオーラが見えてるんだぜ?」

そういうとタリスマンを取り出して成嶋に見せた。成嶋はタリスマンを見て、何かに納得がいった顔をした。

「これにはあたしの体液を使っているんじゃないかしら?思い出したわ、体育で雪沢にぶつかったとき怪我したっけ。そのときの血液を使ったのね。」

「そうだよ。魔術書に、その、処女の血が必要だってあったから。」

雪沢は勢いで言ってしまって少し後悔した。

「残念だけど,成功したのはこれが『処女の血』だったからではないわ。これが『魔術師の血』だったからよ。あたしはあの時、ボールが誰かに当たらないかを調べるため、オーラを見る魔術を使用していたの。そうしたらあなたがボールに当たる可能性がかなり高くて、ぶつかるしか回避が出来そうになかった。その時の活性化している『魔術師の血』の影響で、あなたにもオーラを見る力が与えられたの。」

「じゃあオレは…。」

雪沢はその説明をなんどか繰り返し考えて、ようやっと自分がなにも成し遂げていなかった事を理解した。タリスマンの作成も、オーラを見る力も、すべて成嶋の血のおかげだった事を。

「ずっと、ずっと見てて楽しかったか?僕が、魔術に憧れてるのを知ってるのに。何度も何度も、沢山失敗するのを見て、さぞかし優越感に浸っていたんだろうな。お前は僕に魔術師の素質がないって分かってたんだからっ!」

雪沢は喪失感から成嶋に感情のまま怒鳴りちらした。

「違うわ,雪沢。そんなことはないわ。あたしはあなたを……。」

だが雪沢はその言葉を聞かず、校舎の方へと走っていった。

「……うーん!?」

騒ぎを聞いてか斉藤が目を覚ました。成嶋は雪沢を追いかけようとしたが、斉藤に気を取られている間に見失ってしまった。

「斉藤くん、気がついたのね。大丈夫?」

「ああ、成嶋先輩。俺どうしちゃったんですか?雪沢先輩を追いかけてたら、いきなりなにかに吹き飛ばされたとこまでは覚えてるんですが。それに頭どうしたんです?」

「あなたは魔術の攻撃によって気絶させられたの。やったのはさっきグラウンドにいた黒い服の女の子。今は気を失っているから大丈夫だけれど……。」

「成嶋さん、あの人、いなくなっています。」

成嶋は瀬野にそう告げられたので、急いでグラウンドを見た。先ほど倒したはずの亜崎はどこにもいなくなっていた。オーラの痕跡を見ると、校舎の方に移動しているのがわかった。

「倒したと思ったのに。まずいわ。二人ともあたしと一緒に来て。雪沢を探さないと。」

「え、雪沢先輩がどうかしたんですか?」

「どこかにいってしまったのよ。探さないとまずいわ。」

「探すなら手分けして探した方がよくないですか?」

「彼らも自分たちの存在を隠そうとしているから、魔術や自分たちの秘密を知ったものは消去するわ。分かれるのは危険なの。」

三人は校舎に向かって走り出した。


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