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六時間目が終わると、成嶋が話しかけてきた。
「雪沢、これから部活でしょ?荷物まとめるからちょっと待ってて。」
「ああ、分かった。」
そう答えると、雪沢は教室のすぐ外の廊下に出て成嶋を待った。
「お待たせ。」
ちょっとして成嶋が出てきた。二人で部室に向かう。
「雪沢はトップ記事に何を提案するつもり?」
「あるものの作成についてさ。」
「へー、であるものって何?」
タリスマン、と答えかけたが、すんでのところで言うのをやめた。タリスマン作成に成功した事を記事にするならば、当然ながら作成方法について詳しく記述しないとならない。そうすると「処女の血」の入手方法が問題となる。記事では入手方法を曖昧にする事も出来るが、タリスマンが存在する以上、誰かの血を使ったことは間違いない。そして雪沢が入手出来る範囲の人物の血を使ったということに生徒が気づいて、色々聞いてくるに違いない。なによりそれを読んだ成嶋は自分の血が使われた事に気がつくだろう。その後の事はあまり想像したくなかったし、雪沢自身その事を皆に知られたくないと思っていた。
処女の血を使うという事自体を書かなかればいいのだろうけれども、それだとこれまで手に入れた役に立たなかった魔術書と同じことをやることになる。それは絶対にやりたくなかった。
「雪沢?」
考えていたためしばらく無言になった雪沢を不信がって、成嶋が顔を覗き込む。
「あ、あの、あれだよ、ホムンクルス。」
雪沢はとっさに別のものを言おうとしたが、結局このぐらいしか思いつかなかった。
「ホムンクルスは駄目って言わなかった?もうあんな臭いのはゴメンだわ。」
「そうだった?」
「ちょっとしっかりしてよ。でも雪沢からの提案がないって珍しいわね。今回は結構まともな一面になるかもね。」
「そうだな、ってどういう意味だよ?」
「言葉通りの意味よ。」
話しているうちに部室についた。二人は扉を開けて中に入った。少ししたら一年生二人もやって来た。
「みんな揃ったようだな。それではさっそく今度の新聞の一面の記事について、何かやりたいものがある人はいるかな?」
雪沢は三人に向かって聞いた。だが誰も反応しない。雪沢はしばらく三人の顔を見ながら待ってみたが、誰も何も言わなかった。オーラの変化がないかも観察していたが、特に見当たらない。
「成嶋は何か考えて来たんじゃないの?」
「えっ?うーん、一応考えては来たんだけど…」」
成嶋は何やら言い淀んでいる。オーラに特に変化はない。
「なんだよ?気になるじゃんか。」
「…ルージナのケーキセットのレポートなんてどうかなって。」
「却下。」
成嶋がいい終わるのを待たずに、雪沢が答えた。
「成嶋!人にはしっかりしろとか言っておきながら、それはないんじゃないか?」
「でもホムンクルスよりはましでしょ?昨日遥と加藤さんとケーキセット食べてたら何ともしあわせな気分になって、この気持ちをみんなに伝えたいなって。」
「でもこれまでのテーマと違いすぎるだろ。」
「まぁ、そう言われるとそうなんだけど…」
雪沢は他にも聞いてみることにした。
「サトシはなにかあるかな?」
「すいません、雪沢先輩。」
斉藤はいきなり椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がると、そのまま深々と頭を下げた。オーラを見てると頭付近の色が濃くなっていた。
「ずっと考えたんですが、なにも思い浮かびませんでした。それに仮に思いついたとしても、俺なんかの提案を、雪沢先輩の提案の対抗案として使うなど畏れ多くて…」
頭を下げたままそう答えた。
「いや、そこまでかしこまらなくてもいいからさ…、今回は始めてのことだし。」
「いえ、すいませんでしたっ。」
斉藤はもう一度謝ると、席に座った。
雪沢は視線を瀬野に向けた。彼女はうつむいていた、この様子だと彼女も特にアイデアを思いつかなかったのだろう。
やっぱりタリスマンを記事にすべきなんだろうかと、雪沢は考え始めていた。だがタリスマン作成に成功した事を知らせて自慢したいという思いの一方で、誰にも知らせずにタリスマンの能力を独占したい思いも強くなってきていた。他人にない能力を持っている優越感は、一度味わうと手放すのは難しかった。
そんな事を考えていたら、視界の隅で瀬野の頭付近のオーラに変化しているのを捉えた。なにか考えていることがあるのだと思った雪沢は瀬野に聞いてみることにした。
「しおりちゃんは、なにかやりたいことあるかな?」
瀬野はコクリとうなずいた。
「しおりは、廃病院の探検をしたいです。」
そう言うとカバンの中からなにか紙を取り出して三人に渡した。それは雑誌記事のコピーで、十年前につぶれた病院への潜入レポートだった。
「ああ、ここ聞いたことがあります。幽霊を目撃した人が何人もいるって。」
病院の名前を見て斉藤が言った。記事の見出しにもそんな事が書いてあるのが見受けられた。
「へぇ、それは面白そうだな。黒巣病院か。場所はどこにあるんだ?」
雪沢は記事に目を走らせながらそう言った。
「七王子市です。七王子駅からバスで10分ぐらいのところにあるそうです。」
瀬野が答えた。七王子市は山水学園のある国松市の西に位置する、山林が多くを占める市だ。電車で15分ほどの距離にある。
「瀬野さんはここで何かしたい事があるの?」
成嶋が瀬野に質問した。瀬野はまたゆっくりとうなずくと答えた。
「写真です。ここの写真がとってみたいです。」
「ここで写真ってことは心霊写真を撮ってみたいの?」
「それも撮れれば嬉しいですけど、しおり、廃墟の写真が好きなんです。」
「廃墟の写真かぁ。あたしはよく分からないけど、この記事の写真をみると確かに惹かれるところもあるわね。」
「成嶋がこの手のものに興味をしめすのは珍しいな。」
「オカルトって意味では興味ないけどね。この寂れた感じは好きかな。」
「しおりちゃんは他にも廃墟に行ったことあるの?」
そう尋ねられた瀬野はまたコクリとうなずいた。
「今までに20箇所ぐらい行きました。」
「すごく行ってるのね!あれ、でもここ近くだから行ったことあるんじゃないの?」
「しおり、中学までは別のところに住んでたんです。高校からこっちに来たのでこの近くの廃墟はあまりまわれていないんです。」
「そうか、瀬野さんは高校からこっちにきたんだっけね。」
「ええ、だからこの部活でこっちの廃墟もいろいろ行けたらいいなと思ってます。」
「それじゃあ」
二人の話が長くなりそうなので、雪沢が割って入った。
「他に提案がないならこれで行ってみようかと思うんだが?」
「別に構わないわよ。雪沢の魔術ネタと違って、みんな興味持ちそうだし。」
「一言余計だ。サトシもそれでいいかな?」
廃墟の話題では発言しなかった斉藤に雪沢が聞いてみた。
「あ、はい、瀬野さんのはとてもいいと思うんですが…」
斉藤は歯切れ悪く答えた。
「が?」
「あの、俺どうも幽霊とかつかめなそうなものはちょっと苦手で…」
「おいおい、第二新聞部でそれは困るな。」
「ええ、雪沢先輩のおっしゃるとおりなんですが、どうも…」
「大丈夫よ、斉藤くん。」
成嶋が言った。
「幽霊はいないって事を確かめにいくと思えばいいのよ。」
「ええっ?」
「幽霊を見たってのは見間違い、そういう証拠を見つければ安心出来るでしょ?」
「ええ、まあ、そうですが。」
斉藤は納得したようなしないような顔をしている。
「やっぱり成嶋は幽霊否定派なのか。」
「まあね。あたしがオカルトを信じないってのは雪沢がよく知ってるでしょ?」
「まあな。で、サトシ。大丈夫そうか?」
「あ、はい。雪沢先輩は、幽霊を信じてらっしゃるんですか?」
「肯定はしているな。ま、成嶋みたいなのに信じさせるには、見間違いじゃない、という証拠がいりそうだが。」
「わかりました。」
しばらく考えた後、斉藤が答えた。
「幽霊がいる証拠を探すために、ここに行きましょう。」
「えっ?ちょっと?」
成嶋が驚きの声を上げた。
「幽霊怖いんじゃないの?」
「成嶋先輩には悪いんですけど、俺は雪沢先輩の役に立つように行動したいんです。」
「いや、それはいいけど。」
そして雪沢の方を向くと
「すごい信頼のされかたね。」
と呆れ顔で言った。
「部長として、当然のことだよ。」
雪沢はそう答えた。
「じゃあ、今度の特集記事は黒巣病院の廃墟探索レポートで行くことにする。実施する日だけど、なるべくはやいほうがいいな。みんなの都合がつくなら明日が土曜だし、夕方あたりに行ってみたいんだが。」
「また急ね。あたしは大丈夫よ。」
「しおりも大丈夫です。」
「俺も行けます。」
「よし、じゃあ明日の夕方五時に七王子駅の改札集合で。」
「でも雪沢、行ってなにするか考えてる?」
「現地で適当に面白そうなものを調べようかと思ってる。」
その答を聞いて、成嶋があきれた顔をした。
「それ、何も考えてないのと同じよ。」
「そうか?なんとかなると思うんだけど。」
「ならないわよ。段取り決めとかないと。」
「あの…」
言い合っている雪沢と成嶋に瀬野が声をかけた。
「しおり、いちおう予定表も作ってきました。」
そう言うと、カバンの中からまた紙を取り出して二人に渡した。雪沢と成嶋は予定表を受け取ると内容を確認した。それには駅から現地までの道順や病院建物の見取り図、現地で行う事の一覧、注意しないといけないポイントなどが書かれていた。
「瀬野さん、この予定表すごいわ。やる事がわかりやすくまとまっていて便利だし、注意する事もわかりやすいし。」
「廃墟に行くときに使っているものなんです。役に立ちそうですか?」
「しおりちゃん、すごく役に立つよ。」
雪沢はこう答えると、成嶋に
「明日はこれに従って進めて行くのでいいか?」
と聞いた。
「ええ、これなら問題ないわ。瀬野さん、ありがとうね。」
「役に立てたのなら、しおり、嬉しいです。」
そう言うと瀬野は笑顔を見せた。
「それじゃ、今日は明日に備えてこれで終わりにしようか。」
「わかったわ。」
そして雪沢達は部室の戸締りをすると、駅へと向かった。
「雪沢先輩、成嶋先輩、俺はこっちなんで、ここで失礼します。」
「しおりもこっちです。さようなら、明日が楽しみです。」
そう言うと一年生二人は上りホームへと向かっていった。
「ああ、また明日な。」
雪沢はそう返事をすると、成嶋と一緒に下りホームへと向かった。すぐに電車が来たのでそれに乗り込んだ。
「瀬野さんのおかげで、今度のは面白くなりそうじゃない?」
「ああ、助かったよ。しおりちゃんに廃墟めぐりの趣味があるとは思わなかったけど。」
「変わってる子だなとは思っていたけれど、ほんと意外な趣味だったわ。」
「サトシが幽霊苦手なのも意外だった。」
それを聞いて成嶋はふと思い出した事があった。
「そういえば斎藤くんはやけに雪沢を信用してるよね?なんであんなに信用してるの?」
「連休前ぐらいだったか、サトシと友達が口論してたんだよ。魔術の事についてな。友達は魔術なんてあるわけないって言っていて、信じてるサトシの事をバカにしてたんだ。見かねたオレはその口論に参加して、軽くその友達を論破してやったんだよ。サトシはとても感動して、即入部してくれた訳だ。」
「五月になってから入部してきたのはそういう理由があったのね。しかし雪沢もよくやるわね。」
「魔術をバカにされているのを見過ごせなかったしな。」
「…いや、そういう意味で言ったわけじゃないけど。」
成嶋は小声でそう答えたが、雪沢には聞こえなかったようだ。
そうしているうちに、電車は二人の家の最寄り駅に到着した。
「あたしちょっと買い物してくね。また明日ね。」
成嶋はそう言うと駅前の商店街のほうへ走っていった。雪沢はその背中を見送ると、家へと帰っていった。
「懐中電灯にノートとペン、カメラ。持っていくのはこのくらいか。カメラは多分しおりちゃんも持ってくるだろうけれど。」
翌日の夕方、雪沢は廃墟調査のための準備をしていた。
「もちろんこれもだな。」
そういうと机の上に置いてあるタリスマンを手にとった。不意に自分のまわりにオーラが見えるようになる。タリスマンは首にかけられるよう、チェーンがつけてあった。雪沢はタリスマンを首にかけ、本体はシャツの中に入れ外からは見えないようにした。
「ちょっと早いけど、出かけるかな。」
そうして雪沢は七王子へと向かった。
七王子駅には四時四十五分に着いた。まだ誰も来ていないと雪沢思っていたが、改札にはすでに斉藤がいた。身体のまわりに見えるオーラは、まわりと比べるとやや濃い。
「こんばんわ、雪沢先輩!」
上下ジャージ姿の斉藤は、改札を出てくる雪沢を見つけると挨拶をしてきた。
「よう、サトシ。早いな。」
「初めての学外の活動ですからね。興奮して待ちきれなくて。」
「いや、いい心がけだよ。」
オーラの濃さはこれによるものかと雪沢は思った。
しばらくすると成嶋がやってきた。淡い色のシャツに、デニムのショートパンツ、黒レギンスという動きやすそうな格好だった。ただオーラは普通と変わらないようだった。
「二人とも早いわね。」
成嶋は二人のところにやってくるなりそう言った。
「まあな。」
「はい、成嶋先輩!興奮でいてもたってもいられなくなって。」
雪沢と斉藤は口々に答えた。
「いい心掛けだわ。」
成嶋は微笑みながらそう言うと、あたりを見回した。
「瀬野さんはまだ来てないのね?」
「うん、見てないな。でも時間までにはくるだろう。」
「そうね。」
そして三人で瀬野がやって来るのを待った。
ちょうど五時になるころに瀬野が改札を出て来た。だがその姿は三人にとって予想外だった。瀬野は黒と紫のフリルで過剰に装飾されたドレス - いわゆるゴシックロリータというものであろうか - を着てやってきた。上着は長袖でまとわりつくようにフリルがあった。スカートは膝上十センチほど。それに合わせて膝上までの黒のハイニーソックスを履いており、髪型もツーテールにしていた。また首からは一眼レフカメラをかけて、大きなバッグを背中に背負っていた。これらは衣装とは吊り合っておらず、奇妙な印象を強めていた。「すいません。しおり、遅れちゃいました?」
呆気に取られている三人に近づいて来た瀬野は、そう声をかけた。雪沢がオーラを見るとかなり濃かった。これからの廃墟見学を心待ちにしているのだろうか。
「い、いや。時間通りだよ、しおりちゃん。みんな早めについていたから。」
なんとか雪沢はそう答えた。そして答えながら瀬野の頭の位置がいつもより高いことに気がついた。靴を見てみるとかなりの厚底で、さらにヒールも高いようだ。
「あの、瀬野さん、私服はいつもそんな感じなの?」
成嶋が尋ねた。
「いつもは違いますよ。でも廃墟に行くときはこんな感じです。」
「ヒールも高いみたいだけど、大丈夫なの?今日行くところは地面荒れてたりしないの?」
「はい、平気です。しおり慣れてますから。」
「そうなの、ならいいけれど。」
成嶋はまだ納得出来ないような表情だったが、それ以上はなにも聞かなかった。
「みんな揃ったし、その病院に行くとするか。しおりちゃん、ここからバスに乗るんだっけ?」
雪沢も服装の事は気になっていたが、それは置いておいてひとまず目的地に行くことに決めた。
「はい、こっちです。たしか十分に出発のはずです。」
瀬野はそういうとバス乗り場の方へと歩き出した。残りのメンバーもそれに着いてバス乗り場に向かった。
駅から出てすぐに周りの景色が寂しくなってきた。バスは山に向かって進んでおり、進むに連れて街道の緑の比率が上がっていった。バスに乗って三十分ほどすると、目的の病院の最寄りの停留所に着いた。山の中腹らしく、道の両側には林が広がり、建物は見当たらない。この停留所で降りたのは雪沢たちだけだった。駅をでるときは明るかったが、もう日が落ちかけているのか辺りは薄暗くなってきていた。
「ここでいいのかな?」
周辺を見回しながら雪沢が瀬野に尋ねた。
「はい、ちょっと歩いたところにあるようです。」
瀬野はそう答えると、地図を取り出して道を登る方向に歩き出した。雪沢たちもそれに着いていった。しばらく歩くと瀬野が上の林を指さして言った。
「ありました、あれです。」
みんながそちらを見ると林の間から薄汚れたコンクリートの壁が見えた。
「なんかいかにもって感じの見た目ですね。」
斉藤が緊張しながら言った。
さらに道に沿って進んで行くと、横へと曲がる道があるT字路があった。角にはボロボロになった「黒巣病院正面入口」という標識が立っていた。
「こっちか。」
その標識を見た雪沢は角を曲がって正面入口へと走り出した。斉藤もそれに続いていった。
「あっ、待ってください。正面入口はそうですけど…」
瀬野は走って行く雪沢達にそう声をかけるが、届かないのか二人はそのまま行ってしまった。慌てて追いかけようとするが、厚底のため速く走れない。
「あっちは違うの?」
「はい。正面入口は閉鎖されていて、そこから中に入るのは難しいようです。」
「二人ともそそっかしいなぁ。」
成嶋と瀬野はできる限り急いで雪沢達の後をおった。
正面入口は幅十メートル、高さ五メートルはある鉄柵の門だった。左右には同じく五メートルほどの高さの塀が続いていた。二人が正面入口に着くと、斎藤が門を登ろうとしていたが、鉄柵の垂直の棒は太くて掴みにくく、悪戦苦闘していた。
「こっちは違うみたいよ。」
成嶋が雪沢達に告げた。
「えっ?」
「もう少し行くと通用口があって、そこからは比較的楽に入れるみたいです。」
「そうなんだ、早まっちゃったのか。」
雪沢はバツの悪そうな表情をしてそう答えると門のほうを向き
「サトシー、聞こえたか?こっちは違うらしい。」
と声をかけた。斉藤はそれを聞いて登りかけていた門をおりて来た。
「女の子が越えるにはきついので、心配してたんですけど、違ったんですね。」
「二人ともよくわからないのに、勝手に先走らないでね。」
「ごめんごめん。気をつけるよ。」
「すいません。」
「でもしおりはこの門も見たかったんで、ちょうどよかったです。そうだ、せっかくなのでここで集合写真撮りませんか?」
「そうね。この門は迫力あるから、写真とるにはいい場所ね。」
成嶋が雪沢に同意を求めるような口調で言った。
「おう。じゃあ門の真ん中あたりに集まればいいかな?」
「はい、お願いします。」
そういうと瀬野は背負っていたバッグから三脚を取り出すと、首にかけていたカメラを固定して準備をはじめた。
「あの、変なものとか写らないですよね?」
斉藤が恐る恐る聞いてきた。
「おいおい、ここには幽霊の証拠を見つけにきたんだろ?部活としては写っていたほうがいいんだけどな。」
「もう。これまで部活であつかった心霊写真のトリックは、あたしが全部解明したじゃない。変なものは写らないから安心して。」
雪沢の答えに反応して、成嶋がそう応じた。
「皆さん、もう少し中央によって下さい。」
ファインダーを覗きながら瀬野が言ったので、三人は場所を調整した。
「じゃあ撮ります。」
そう言うと瀬野はシャッターを押して、門の前に早足で移動してきてみんなと並び
「ここでは写らないから大丈夫です。写るとしたら、病院の中だそうです。」
とつぶやいた。
「えっ?」
斉藤が驚いて口を開けた瞬間、パシャっと音がしてフラッシュが光った。
「え、えー?」
あっけに取られている斉藤をよそに、瀬野がカメラを持ってきて撮れたデータを皆に見せた。そこには澄まし顔の三人と、大きく口を開けて驚いた表情の斉藤が写っていた。
「いいタイミングで撮れたわね。」
「ちょっと待って下さいよ、ものすごく間抜けな表情で写ってないですか?もっかい撮りましょうよ」
「時間がないから却下。じゃあ先に行こうか。しおりちゃん、案内をお願いね。」
そう言って雪沢は三脚をたたみはじめたので、斉藤も仕方なくそれを手伝った。片付け終わると全員で元のT字路まで戻って行った。