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百合短編  作者: 美幸
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5

 あたしはいつも通り、後輩と一緒に帰った。

 途中のカーブミラーのあるT字路まで、同じ帰り道だ。

「ねえ涼子」

「何スか?」

「何であたしのこと、好きって言ってくれたの?」

 ずっと疑問だったことをようやく()いた。

 しばらく無言のままの状態が続く。沈黙が気まずいものとなる前に、後輩は口を開いた。

「証が欲しかったんスよ」

「証?」

 あたしはまた訊いた。

「先輩、県外の高校に推薦(すいせん)決まったって言いましたよね。遠いから通いじゃなくて、(りょう)生活だってことも」

「まあ、そうだけど」

「卒業して別々の高校生に行ってしまったら、今を、あんな時代もあったねって思い出すだけになるんでしょうか。もしかしたら、時間が経つにつれて忘れてしまうかもしれません」

 どうだろう――現実味がない。

 確かにあたしの中学生時代は楽しいものだった。特に後輩と一緒にいる時間は楽しかった。出会ってすぐから、彼女とはものすごく気があって。あっという間に、誰よりも仲良くなった。

 でも、そんな日々も。

 あたしは忘れてしまうのだろうか。

「先輩とこうしてふたりでいますけど、卒業した後はどうなるか分からないッス。お互い、好きな男の人とかもできるかもしれませんし」

 あはは、好きな男ねえ。

 後輩はかわいいけど、あたしは男っぽいからな……。

「だから自分は『あかし』が欲しいんスよ。自分たちが一緒だったっていう証。どんなに時が()っても、離れ離れになっても。恋人のことは、ずっと忘れないじゃありませんか」

 なるほどね……だから恋人か。突飛してる気がするけど、理には(かな)ってる。

 と、前を見れば、後輩が足を止めていた。どこか悲しい背中だった。

 いきなりどうしたのだろう?

 話していたから気づかなかったけど、いつの間にかカーブミラーのあるT字路にさしかかっていた。昨日、後輩があたしに告白した場所だ。

「イヤでしたか? 自分なんかに好きって言われて」

「……全然イヤじゃないよ」

「……」

 後輩はこちらに背を向けたまま、言葉を発さなかった。

「…………涼子?」

 あたしが呼びかけた途端(とたん)、後輩は振り返った。

 そして、

「キス、してもらってもいいッスか?」

 と、突拍子もないことを言ってきた。

「え……」

 ちょっと待って。それは――。

「イヤッスか?」

「い、イヤじゃないイヤじゃないっ!」

 その場の空気に流された。

 まあ――イヤじゃなかったのは本当だ。あたしが後輩を『嫌いじゃない』のは事実なんだろう。

 ずっと仲良くしたいのは、あたしも同じ。恋人という関係が、あたしたちをつなぎ止めてくれるというのなら。

 そういうのも、悪くないかもしれない。

「先輩」

 じっと見つめてきた。うっわ、何かドキドキする。それは後輩も同じようで、

「……な、何か改めて面と向かうと、恥ずかしいものがあるッスね」

「そ、そだね……」

「先輩、目つむってくださいね? せーので行くッスよ」

「うん」

「せーのっ……!」


 思考が数秒間停止した。

 ついでに時間も止まったかと思った。

 あたしは後輩と唇を重ねた。

 甘いような、切ないような、不思議な感覚。


 ――キスってこんな感じなんだ。


 ゆっくり唇を離して目を開けると、目と鼻の先で目があった。

「ふふ」

「ふふふっ」

 くすくすと心地良い笑いがこみ上げてきた。こうしていると、ほんとに恋人みたい。

 ずっと一緒にいたい。この瞬間、あたしは確かにそう感じた。


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