5
私はお母さんと車で公園へ向かった。学校から一キロも離れていないから、自転車で行けない距離ではないけれど、売り物があるため車を選択する羽目になった。あーやの家は公園の近くだから、歩いてくるらしい。
会場は開始の二時間前から、多くの人が集まっている。私はお母さんと設営の作業をしていたら、時間はあっという間に過ぎてしまって九時半を回った。借りた長机に並べられたミサンガを見て、お母さんは言った。
「すごい量ねぇ。いつの間に、こんなに作ったのかしら」
ざっと見て三百はあるだろう。屋上で編み続けるうち、いつしか数えるのはやめていた。売値は大体、二百円から五百円に設定してある。
「あ、いた。おはよ、さっちん!」
あーやの声がしたので、そっちを見た。
「あ、」
私の視線は釘付けになった。一瞬、誰だか分からなかったというのが正直な感想だった。
「あーや、眼鏡してないじゃん。髪の毛も下ろしてるし」
「うん、どっか行くときはいつもこんな感じなんだ。変かな?」
全然変じゃない。むしろ、やばい。これはとにかくやばいぞ……。私ん家のブースに表れたあーやは、恐ろしく綺麗だった。青のブラウスに花柄の黒いスカート、つやつやの黒髪。飾り気のなさが返ってあーやの顔や雰囲気によく合っていて、綺麗さが倍増している。同じ年の子を『かわいい』ではなく『綺麗』だと思ったのは初めてだった。びっくりさせてやろうと気合い入れてきたけれど、私は呆気なく返り討ちにされてしまった。
「あーや最高……。やっぱ清楚ってのは、こんなのを言うんだよねぇ……」
「そんなにじろじろ見ないでよ、恥ずかしいじゃない。それにさっちんもその服、すっごくかわいいよ。元が大人っぽいから、そういう格好してると際立つっていうか」
あーやは私を見ながら、傍に寄ってきた。
「ってうわっ! よく見ると、すごいミサンガの量。これもしかして、全部さっちんが編んだの?」
「うん」
「うっわぁー……」
あーやが長机の上を、ざっと見渡した。あーやに気付いたお母さんが、
「あら、もしかしてこの子が、祥子の言ってた綾乃ちゃん?」
「はい、羽柴綾乃です。今日はよろしくお願いします」
「嘘ぉ、すっごく真面目そうな子じゃない。本当にこんな子が、祥子の友達なの?」
私は軽く、お母さんに肘鉄した。
それから間もなくして、開催時間となった。最初はあーやと一緒に売って、途中からはお母さんに任せることにし、二人で回ることにした。お母さんは掘り出し物を発掘するため、私達を置いて行ってしまった。
客は老若男女様々で、うちの店は快調な売行きを見せた。女性に人気で、誰かは常に机の前にいて、特にミサンガを時間をかけて選んでいた。時には客にあーやが編んだのかと訊かれることもあったが、私が編んだと言うと非常に驚かれた。
「さっちんのミサンガ、大人気じゃん」
「売ってるあーやが綺麗だからだって」
「えー、さっちんがかわいいからだよ」
「いや、絶対あーやのおかげだって。私ってほら、若い子じゃなかったら近づきにくいイメージあるじゃん?」
「うーん、それじゃあ……」
あーやは私に手を伸ばしてきた。何をするのかと思ったら、いきなりベストのフードをかぶせてきた。
「さっちんかわいい! その羊さんで売ればいいじゃない!」
「これで?」
フードについた耳を軽く引っ張った。確かに、これだと少しはとっつきやすくなるかもしれない。小さい子とかにウケそうだし。それからお母さんが帰ってくるまで、私はあーやと店番をしていた。




