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私はよく学校をサボっていたけど、あーやに会うため、積極的に学校へ行くことにした。授業を受けるかどうかはまた別である。私はたまに授業に出るが、目当てのあーやと教室で話すつもりはない。私といると、あーやに悪いイメージがついてしまう。迷惑はかけたくないから、話せるのはお昼の屋上でだけだ。昨日あーやと仲良くなった後、私はメールで、またお昼の約束をとりつけた。
首を長くして、一人屋上であーやとふたりっきりになれる昼休みを待った。今日も私は授業には出ず、屋上でフェンスに向かってミサンガを編んでいた。いつしか熱中して、五本目に突入しかけると、後ろから、
「さーっちん」
と声がしたと思ったら、腰に抱きつかれた。結った黒髪が、私の肩から胸にかけて垂れる。艶のある綺麗な黒髪だった。私はわっと驚いて手を止めた。
「会いたかったぁ。もう、何で教室こないの。ほとんどここでしか、さっちんに会えないじゃない」
と、あーやは文句を言ってきた。口ぶりらして、もしかして、こうして会えるときを待ち望んでいたのだろうか。自意識過剰かもしれないが、もしそうだとしたら嬉しいことだ。私は編みかけのミサンガをそのままに、フェンスを背にして、あーやと並んで座った。
「私、教室嫌いなの」
言いながら、私は学校指定の鞄からパンを取り出した。
「ちゃんと出ないと進級できないよ。一年生のときも、出席日数ぎりぎりだったんだよね」
私はもっともらしく首を振り、「大丈夫」と答えた。
「朝のホームルームで出席とってるから」
「おぉー、賢いね」
あーやは注意することなく言った。でしょー、と私は笑いながら言う。
「でもさっちん、いつもミサンガ編んでるね」
「これ以外することないから」
「ミサンガ職人め」
「これで稼げたらいいんだけどね」
ねー、とあーやが声をそろえる。
「さっちん、昨日は編み方教えてくれてありがとね。それから、これも」
あーやは右手につけた、ピンクと黒の、ハート柄のミサンガを指した。私はあーやにもらったもののお返しに、昨日一緒に編んでたやつをあげたのだ。
「教室にもミサンガ編む子いるんだけどさ。こんなハート柄の編み方、見たことないって言ってたよ。手作りなんだって、皆に自慢しちゃった」
「結構難しいからね、それ。あーやこそ、ミサンガありがと。でも初めて作ったんでしょ? 私なんかが、もらってよかったの?」
「うん。さっちんのために作ったんだもん。ごめんね、さっちんみたいに上手くなくて」
「そんなことないし。これはこれで、ユニークでいい感じ」
私は所々整っていない斜め線をなぞってみせると、あーやは嬉しそうに笑った。
「よかった。ちょっと失敗しちゃったから、さっちんは気に入らないかもって不安だったんだ。それにしても結構面白いね、ミサンガ編むのって」
「また編む?」
と私が訊くと、あーやは眼を輝かせた。
「うん、やろう! ご飯食べ終わったらすぐに。今度は違う色で、違う編み方で」
「すっかり気に入ったみたいじゃん。ねえ、よかったらさ……今度一緒に、フリマ行かない? 次の日曜日の朝十時からなんだけど、私とお母さん、そこで出店すんの」
「ほんと? どこで?」
「JR近くの公園」
「行きたい! 何出すの? ミサンガ?」
「それもあるし、着なくなった服とか、お母さんのブランド物とかも売るよ。店の場所とかは、携帯の画像で送るから」
「へぇ、楽しみ! じゃあ、またメールしてね!」
私も、今から日曜日が待ち遠しくなってきた。高校に入って以来、初めてクラスメイトとどこかへ出かける。私は当日何を着ていくか、うきうきしながら考えていた。




