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『保坂先輩のことが好きッス。付き合ってください』
後輩は昨日、あたしにそう言った。
保坂先輩のことが好きッス。
付き合ってください。
……。
窓の外をぼーっと眺めた。夏を演出した入道雲が浮かんでる。
ああ、いい天気。
誰もいないグラウンドが見えた。強過ぎる日差しが地面を焼いている。いかにも近寄りがたい雰囲気だ。
それでも放課後はグラウンドで部活がある。暑くて大変だろうけど、今日もがんばろうっと。
手元に目を向ける。真っ白なノートに映えたあたしのお肌は、見事なまでに褐色だ。部活が部活だし、男みたいな顔だから別に構わないけど。むしろいい男になったって感じ? 嬉しくねー。
今座ってる場所は、一番後ろで窓際の席だ。冬はあったかくていいんだけど、夏はとにかく暑い。
それにしても暑いなー……。うん、暑い。
黒板に目を戻す。四限目、数学の時間。先生は黒板にL形を描いて、右上がりの線を書く。
「このグラフで、変化の割合は三分の二であり――」
先生の声が頭に入らない。あれは確か、ヒレイという問題だ。
ええと、ぐらふってなんだっけ。ヤバい……かなり混乱してるみたいだ。
とりあえず、現実から目をそらすのはやめよう。
あたしは後輩から告白された。昨日部活が終わって、その帰りに。
……。
――はいっ、先生(心内で挙手)!
ヒレイとかぐらふとかは、もうどーでもいいです!
そんなことより恋の方程式について教えてください!
数学っぽく証明してもらえると嬉しいです!
ノートはばっちりとりますから!
あたしは心の中で叫んでみた。
「というように、この問題は解きます。では、教科書三十八頁の演習問題を解いてください」
が、先生はそんなことを知るよしもなく、淡々と授業を進めていった。
「なんで、あたしなんか」
ぽつり、と言葉が漏れた。
告白された直後。
あたしは、オッケーの返事をしてしまったのだ。