ある男の独り言
……ああ、俺を地獄に誘う鐘の音がする……
純白の衣装に身を包んだお前はさながら花のようだった。
「とってもきれいだ」
思わずそう言ってしまった俺にお前は、
「そんなことないよ、私の顔なんて平凡だし、お肌も若い頃みたいにプリプリじゃないもん」
と首を振る。お前の顔が平凡だって? 肌がどうだって? お前は何もわかっちゃいない。本当にそうなら、俺はこの日までどんなに楽だったろうよ。
次から次へと現れる狼を一人ずつ確実につぶしていくのは、どんなに大変だったか。無防備すぎるお前にはよもや解るまい。
「一応、お前のツレには知らせたからな。もうそろそろ来るだろうよ」
と言った俺に照れながら一言、
「うん、ありがとう」
と言ったお前は、俺が今まで見てきた中での最高の笑顔だった。その笑顔の理由がアイツだというのが腹立たしい。俺はお前から目を逸らした。そして、
「俺もアイツのことで使われるのは癪に障るが、今日のお前の顔に免じておとなしく使われてやる。全く、愛されている顔しやがって」
そう言った俺に、お前は口を尖らせるが、まだたったの一月だ。一月でお前はすっかり女の顔になった。それを愛されてないとどうして言える。
ああ、くれてやる、くれてやるともさ。そして、俺がぐぅの音もでないほどアイツに幸せにしてもらえ!
ま、俺の横にはもう、お前と同じくらい危なっかしい奴がいるからな。こいつにかまけてなきゃ、お前をアイツに取られるようなドジは踏まなかったかもしれないが。
それも良かったんだよな。お前がこんなに幸せそうに笑っているんだから。
とにかく、おめでとう更紗。俺の大切な姉さん。
えー、結婚式の前、正巳の独白。かなりアブナイシスコン脳内をお届けしました。