ご挨拶
その週末、私はマイケルさんの家族を紹介された。優しそうなお義父様と綺麗なクラウディアさん。2人は31歳の年の差を感じさせないラブラブっぷりで、一応新婚のはずの私の方が当てられっぱなしだった。
それと、私は絵梨紗ちゃんや英雄くんがマイケルさんにすごく似ているのにびっくりした。それもそのはず、お義父様がクラウディアさんを見初めたのは、マイケルさんの亡くなったお母様セシルさんにそっくりだったからだそうだ。
だけど、おとなしいセシルさんとは違い、クラウディアさんはどっちかというと豪快な男前タイプ。お義父様の愛を受けたクラウディアさんは、親も貴族の爵位もかっ飛ばしてさっさとお義父様を追っかけて日本にきちゃったらしい。今ではすっかりお義父様を尻に敷いて、すっかりマイホームパパに変えてしまった。
ただ、いきなり家出同然で結婚したクラウディアさんたちを彼女の両親は今でも大反対。大体、クラウディアさんのお母様のほうが、お義父様より若いし、マイケルさんは8歳、お姉さんの絵美奈さんに至っては、10歳も年上なんだもんね。
結局、4年後絵梨紗ちゃんと結婚報告に行った美久くんがその巧みな語学力とベビーフェイスで? すっかり気に入られてしまい、クラウディアさんの実家の方を継ぐ羽目になっちゃうんだけれど、それはまだまだ先の話。
この日は2週間後に迫った幸太郎さんと薫さんの結婚式の打ち合わせ。
「ごめんね、サラサいきなりママ可哀想。だけどデビ、ちっともじっとしてないよ」
と、頭を下げるクラウディアさんに、
「良いですよ、自分の息子になる人の結婚式ですもん。私も横にいるべきだと思いますよ」
と返す。幸太郎さんたちの結婚式はずいぶんと前から決まっていたことだし、会社のトップの結婚式は営業の側面もあるから。義理仲とは言え、両親がそろっている方が体裁も良いと思うし。
「大丈夫、コータとフロリーのマリアージフィーネしたら、今度はミシェルとサラサの番ね」
クラウディアさんがそう言ってウインクする。
「ムッター!」
そしたら何故か、その言葉に絵梨紗ちゃんが焦った。そして、
「そうだね、何なら今日式場の下見してこようか」
というマイケルさんに絵梨紗ちゃんは、
「そんなの、お姉ちゃまたちの結婚式が終わってからで良いじゃん。サーラさん、足良くなったばかりなんでしょ」
と、遠巻きに日延べを囁く。アメリカンスクールに通っていて、日常会話が英語・日本語・フランス語・ドイツ語のちゃんぽんらしい絵梨紗ちゃんにも更紗さんはハードルが高いらしい。いつの間にかサーラさんと呼ばれている。
まぁ、結婚式場はいろいろ見て回って決めろって正巳も言ってたしな。幸太郎さんの結婚式の前々日に退社するし、結婚式が終わってからじっくり二人で決めるのが良いかもしれない。そう思った私たちは、その日そのままマンションに帰った。
それから、しばらくして薫さんから連絡があった。一緒にエステに行かないかという誘いだった。一旦は仕事があるからと断ったのだけど、その仕事も金曜日までだと知ると、前日の土曜に予約を取るからと薫さんが言う。
「そこまでしてもらわなくても……」
と渋る私に、
「お母さんも綺麗になった方が良いでしょ。ミシェル惚れ直すよ、絶対!」
と半ば強引に押し切られて、結婚式の前日、全身を磨かれる羽目になってしまった。
母親が綺麗になっても意味ないでしょ……?
すいません、やっぱり結婚式当日には辿り着きませんでした。
でも、次は本当に結婚式当日です。綺麗な「お母さん」はどうなるのでしょうか。