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道の先には……  作者: 神山 備
経験値ゼロ
68/80

パパとマイケルさんの攻防戦(前編)

 そして、マイケルさんの退院の日が来た。

 さすがにアポなしでは特にママは出かけてしまうかもしれないので、とりあえずママには

「会わせたい人がいる」

と言った。

「あら、あのイケメン作家さん? 市原健いちはらたけるだっけ」

すると、ママはすぐにそう言った。

「う、うん。ま、まぁね」

「更紗ちゃん、恋人がいるんだったらもっと早くにママに言ってくれなきゃ。だったらあんなお見合いなんか進めないのに。

そしたら更紗ちゃん慌てて逃げ出して、痛い思いもしなかったでしょ」

口ごもりながらそう言う私に、ママは顔をしかめてそう返したけど、私が答えられずにいると、

「あ、このお見合いで? それだったらママに感謝しなさいよ。

それにしても、いきなり更紗ちゃんのお着物を着替えさせるなんて、余裕ないわよねぇ」

と、勝手な想像を始めてひとり盛り上がっている。でも、あのお見合いがなかったらこうはならなかったのは事実だし、誤解されたままの方がいいのかな。

 

 退院の日、朝10時きっかりにマイケルさんは来た。後で聞くと、朝8時までに退院の準備をすべて終えて、会計が開くと同時に支払いをして病院をでてきたらしい。

 ママにリビングに通された彼をちらりと見たパパは、こっそりと逃亡しかけたけど、パパの行動なんて全部お見通しのママにガードされて、超不機嫌な顔でリビングに入って来た。

「はじめまして、櫟原武いちはらたけると申します」

マイケルさんはパパが入ってくるのを見ると、飛び上がるように立ち上がり、そう言って緊張マックスで、ウチのロボちゃんたちの方がまだなめらかなんじゃないってくらい、カクカクのお辞儀をした。パパは

「ああ」

とだけ言って、マイケルさんが座っている反対側にある座椅子にどっかと座る。

 かくしてパパとマイケルさんの攻防線が始まった。とは言っても、マイケルさんは緊張で、パパは不機嫌でおし黙ったまま膠着状態。

 そんな男共を横目で見ながら、ママは手招きで私をキッチンに呼ぶと、、

「マイケルさん、お酒は?」

と、聞いた。確かにパパはお酒好きだけど弱いから、巧くすれば丸め込めるかもしれないとママは考えたんだろう。でも今、マイケルさんは病み上がり。まだ抗生剤は完全に手を離れていないはずだ。たとえ強くてもお酒は飲ませたくない。

「たぶん大丈夫だけど、風邪気味だから」

私は胸の前でバツを作りながらそう言って、棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出すと、コーヒーを淹れ始めた。お酒ほど効果はないかもしれないけど、それでも少しは緊張が解けるはず。私はキッチンの棚を開けて、

「ママ、コレもらうね」

と、塩キャラメルを取り出した。ママはこのキャラメルが大好き。でもコレ、この辺ではちょっと離れたホームセンターでしか売ってなくって、ママは行ったときにまとめ買いするから、かなりの高確率でストックがあるのだ。それをフレッシュと一緒にカップに入れて1分30秒チンしたら、そこにコーヒーとお湯を入れ、砂糖も入れてかき混ぜる。頑張って、私はここにいるからという思いを込めて。

 それをママに運んでもらう。ずいぶん治ったとはいえ、まだコーヒーを運べるほどまっすぐは歩けないのよね。

 そして自分の前に置かれた明らかにパパとは色の違うコーヒーを見て、マイケルさんは私を見た。私は、黙って頷く。一口飲んだマイケルさんは、

「キャラメルラテ……」

とつぶやいて、もう一度私を見ると今度はマイケルさんが力強く頷いた。でも、

「突然お伺いして失礼しました。今日は折り入ってお話があって伺いました」

と、やっと今日の本題を切り出しそうとしたマイケルさんに、

「断る」

と、パパは内容も聞かない内にダメ出し。

「パパ、まだマイケルさん何にもいってないじゃない」

と、私が言うと、

「言わんでも判る。だから、ダメだ。ダメ、ダメ、ダメだ」

とパパはまるでだだっ子みたくダメを連発し始めた。




ああもう、なかなか本題にいけません。


今年中に終わりたいのに……

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