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道の先には……  作者: 神山 備
経験値ゼロ
61/80

マイケルさんの生い立ち(後編)

生い立ちというより、青春時代かな。

「大体、そういうのは本当に親父の外見だとか地位だとかに惹かれている者が大半でしたから、親父も適当にあしらっていたのですが、一人だけ、華子さんという女性だけは違っていました。

ちょうど生みの母を失ったばかりの親父の心をしっかり支えてくれる優しい女性で、親父は真剣に結婚を考えていたようです。

しかし、妻の死をきっかけに一層仕事人間と化してしまった祖父は次々に事業を拡げ、二人は会うこともままならぬようになっていきました」

やっぱり、そんな人いたんだ。そうよね、外見だけを見る人ばかりじゃないもの。そうは思っても、私は胸の奥の方がちょっぴり痛かった。

「そして、ある日突然、華子さんは別れを切り出しました。

『もう待つだけの日々はいやだ。自分だけを見てくれる人の所にいく』

と。もちろん、親父だって止めました。

『もう少し待ってほしい。今の仕事が片づいたら父親に話すから』

と。でも、華子さんから返ってきたのは、

『あんたその年で「ビューティー戦士ムーンレディ」だって? キモいよ。あんたがお金持ちだと思って私、今まで何とか合わせてたけど、もう限界。オタクのお守りなんてもうコリゴリだわ』

という、今までの優しい彼女からは考えられない手のひらを返したような言葉でした」

「ひどいっ、その人マイケルさんのこと騙してたの!」

あきれた、お金目当てだなんて最低っ!

「その言葉に傷ついた親父は華子さんと別れ、祖父と共に仕事三昧の日々を送るようになったのです。

実はその頃、さる代議士のお嬢さんが親父を気に入り、華子さんに身を引くように強要していたこと。華子さんもその方が親父のためになると自分から身を引いたことが判るのはずっと後の話です。

結局、親父はその代議士の娘との縁談もゲイだと偽のカミングアウトをして自分の殻に閉じこもってしまいますが」

なんて、寂しい話なのかしら。それじゃぁ、結婚もできないよね。ん? で、でもちょっと待って? その話って……

「映画化された『コーラルブルー』じゃないですか」

確かに原作はマイケルさんだけど、それ小説じゃないですか。

「ええ、親父(主人公の圭のように)は死んでないし、本当はゲイではなく、自分のオタク趣味を誇張して相手を引かせて破談に持ち込んだり、代議士ではなく、銀行の頭取のお孫さんだったり。人物が特定されないように巧く脚色されてますが、これ親父の実話から生まれた作品です。親父は華子さんに謝罪の意味も込めて、あの時彼女がどんな気持ちでいたのかを、彼女の気持ちになりきって書いたものなんですよ」

「華子さん、文句言ってこなかったですか」

自分がネタにされて。

「同じように、相手方の報復を心配してくれて、『ありがとうと』言ってくれたそうですよ」

ホントに優しいいい人だったのね。

「それで元の鞘には収まらなかったんですか」

「事の真相を聞いたのが、華子さんの(もちろん別の男性との)結婚式ですからね。親父が『コーラルブルー』を発売したのがその18年後です」

そ、それじゃムリだね。

「その……それじゃ華子さんはともかく、頭取さんがなんか言ってこないんですか?」

「あれから25年以上経つんです。頭取はもうとうに引退されておられるし、当のお嬢さんも別の方と結婚して久しいですし、自分だと特定される要素がなければ敢えて『藪から蛇』を突っつき出したりしませんよ」

そんなものかしら。あれは自分のことなのよなんて、ミーハーにいえる種のエピソードじゃないけどね。


「着きましたよ」

 そうして、マイケルさんの昔話をしている間に、私たちはマイケルさんが運ばれたという病院に着いた。無事でいてほしいな。私は玄関の前でゴクリと唾を飲み込んだ。私の表情をまじまじと見た幸太郎さんは、

「ああ、お連れして良かった。

すいません、怒らないでくださいね。

シャイで不器用な親父がああまでしてきっかけをつかもうとしたんです。息子としては是が非でも今度は成就してやりたいと思うじゃないですか。

過去のことは気になるかもしれませんが、生理的にいやじゃなければ、改めて月島さん、親父をお願いします」

と、さわやかな笑顔で意味不明なことを言って、病院の中に入っていったので、私は首を傾げながら後に続いた。


韓流ドラマも真っ青な純愛エピソード? しかも実話ベースかよっ!


「実話をそれと見せずに書く」作家の皆様、そういう経験ありませんか?

『コレ、時効だよね』とか言いながら……


そうじゃなくても、この浅慮なたすくのこと、そこら中にたすくキャラ充満してますが。

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