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道の先には……  作者: 神山 備
経験値ゼロ
60/80

マイケルさんの生い立ち(前編)

 危篤状態って、マイケルさんが死んじゃうかもしれないの? 私はキュッと胸が締め付けられたようになって、体から力が抜ける。ああ、立ってなくて良かった。

「すいません、少しお話をさせて頂くだけのつもりできましたが、月島さんをこのままお連れしてもよろしいでしょうか。もしかしたらしばらくかかるかもしれないですが」

幸太郎さんがそう言って社長に頭を下げる。でも、しばらくかかるって……そうよね、症状が落ち着くまでは時間がかかるはずだわ。決して幸太郎さんがお葬式まで想定しているわけじゃないよね。

「ああ、ウチの方は構いません」

それに対して社長はそう即答した。

「で、でもそれじゃミュートスの納期が」

「ミュートスのは月島がメイン張ってるだけであって、お前一人でやってる訳じゃない」

そりゃそうだけど……

「あ、あの、差し出がましいようですが、ミュートスというと、ミュートス工業のことですか?」

それを聞いた幸太郎さんが社長にそう聞く。

「ええ、ミュートス工業ですが、それが何か」

それに対して、社長がうなづきながらそう言うと、

「それでしたら、あちらの専務は私の舎弟(ゴホン)……いや、旧知の仲ですので、少しくらいなら納期の融通はつけさせます、もといお願いできます」

幸太郎さんは、そう言って、ミュートスに口添えする(というにはちょっと相応しくない単語が若干混じっていたような気もするけど)とまで言ってくれた。それを聞いた社長は、

「いや、そこまでお気遣い頂かなくても」

と、幸太郎さんに言った後、私に向かって、

「月島、行って来い。行かなければ、持ち直してもそうじゃなくてもきっと後悔するぞ。

それにな、上の空での仕事は事故の元だ。ウチみたいな小さな会社は、ムダな金も人も置いとける余裕はないんだからな」

と言った。確かにそうかもしれない。今の私の精神状態ではきっと今日は仕事にならないだろう。行って、その目でマイケルさんの無事を確認しなきゃ。

「は、はい……行ってきます」

私はそう言って、深々と頭を下げる幸太郎さんに続いて会社を出た。


 駐車場に着くと、幸太郎さんは黒のボックスタイプの車の助手席のドアを開けて、

「その足では乗りにくいかもしれませんが、後ろでもやはり同じだと思うので」

と言った。そう言われて後ろの座席を見ると、運転席の後ろにはチャイルドシートが装着されている。小さな布のおもちゃも置かれていた。幸太郎さんは私を支えて車に乗せると、自分も乗り込んで走り出した。

 途端に、カーオーディオから童謡が流れる。

「奏のCDが入れっぱなしだった」

幸太郎さんは慌ててボリュームをゼロにした。

「別に良いですよ」

「そうですか?」

「気分が和みます」

私がそう言うと、幸太郎さんはまたボリュームをさっきより少し落としたくらいにまで戻した。


「親父はね、小さい頃いじめられっこだったんですよ」

それから幸太郎さんは、ぽつぽつとマイケルさんのことを話し始めた。


「喘息持ちだった親父は小さくてひょろっひょろで、そばかすだらけね、目だけが光ってるような子供だったんですよ。

『お前の顔は日本人離れしてるんじゃなくて、人間離れしている』

よくそう言われていたそうです。

 気弱な親父は、3つ年上の姉、嫁の母親の絵美奈と、後に嫁の父親になる幼なじみの紀文のりふみ以外とは口も利けないようなそんな子だったそうです。

 そんな親父は現実ではない世界、本やアニメなどに逃げ場を求めました」

マイケルさんがいじめられっこだったなんて信じられないな。でも、昔はハーフということだけでいじめられることもあったみたいだし。ただ、本やアニメが好きなことは別に悪いことじゃないんじゃない? 逃げるって、何かヤな言い方だな。そう思ったけど、私は口を差し挟まずに幸太郎さんの話の続きを聞いた。


「思春期を迎えてみるみるその容姿が整っても、親父の心は小さないじめられっこのままだったんです。

ちょうどそのころ、タイミング良くというのか悪くというのか、祖父の事業が成功し、櫟原は飛躍的な成長を遂げました。甘いマスクと、大会社の御曹司というステータス。

幼い頃とは打って変わってモテるようになった事に一番ついて行けなかったのは、当の親父自身でした」

今回と次回でマイケルさんが結婚しなかった理由(できなかった理由とも言う?)をお送りします。


ミュートス工業というのは「赤パニ」で出てきた彰教の会社。『のりちゃん』舎弟扱いされちゃってます。


それに、幸太郎の車も……ふふふ、こいつ企んでます。

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