並行世界
この世界には私たちの住むこのオラトリオの大地とは別に、いくつかの大地があるのです。その世界-仮に並行世界-と申し上げておきますが、その並行世界には私たちとそっくりな人々が違った生活を営んでいます。
実は私は11歳の頃、偶然ニホンに飛ばされたことをきっかけに、そのニホンのことを研究し、ニホンが魔法を介さずに病や怪我を治してしまう治癒技術を持っていることや、私の映し身の美久に私が殿下に仕えるようになった同じ時期に殿下にそっくりな男、鮎川幸太郎氏と職場で出会ったことを知っていました。
最初、私はこんな強引な方法を採らず、ただ出かけていって、幸太郎氏に殿下との交替をお願いするつもりでいました。
しかし、界渡りの呪文を唱えて私がニホンに現れたとき、彼らは道に飛び出してきた少女を避けて彼らの乗っている自動車という大きな鉄の塊を急旋回させてまさに道の端にぶつかろうとしていたのです。
私が殿下に仕える時期に美久が幸太郎氏と出会ったように、この並行世界では、環境の違いで出来事は違ってはいますが、こちらが危険になればあちらでも似たような事が起こるようでした。私は、とっさに時間を止める魔法をかけました。
私はどうしたものかと思いました。このまま時を進めても彼らは無機質な道具にぶつかっていくだけで、彼らもまた治癒が必要になるのは目に見えています。