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道の先には……  作者: 神山 備
本編
25/80

夢のあとさき 2

 僕の傷は順調に回復していった。先輩も傷は大分良くなっていて、もう命の心配はないという。だけど、先輩は僕が目覚めても一向に目覚める気配がなかった。

 とんでもない大事故だったにも関わらず、僕にも先輩にも脳に損傷はないという。なのに目覚めることがない先輩……僕はある一つの思いにどんどんと心が苛まれるようになっていった。

 僕たちがいたあの世界はもしかしたら僕の夢の世界なのではないだろうか。そして、本来なら先に先輩がテオブロに切られてこちらの世界に戻り、それから僕が戻る。あるいは、僕が本当はもうこっちの世界には戻ることができなかったのかも。

 だけど、僕は先輩を押し退けてテオブロに切られた。そのために先輩をあっちの世界に閉じこめてしまったんじゃないのかと。

 長い間眠ったままの先輩の肌は抜けるように白くなり、少し痩せてしまっている。でも、まだちゃんと生きていることを主張するかのように髭が少しずつ伸びる。その髭をまるで壊れものを扱うように優しく丁寧に剃る谷山先輩を見ていると、僕は胸が詰まりそうだった。先輩、こんな戦闘不能の状態から早く抜け出してきてくださいよ。マシュー曰く、先輩は勇者様なんでしょ?

 先輩の髭を剃り終わった後、谷山先輩がぽつりと、

「宮本君、どうしたら鮎川は目を覚ますんだろうね」

と言った。

 僕はRPGの戦闘不能なら、死者蘇生の呪文を唱えればそれで良いのになと思った。実はあの魔道書を最初に見た時、ゲーマーの僕はそこを真っ先にチェックしていて、その詠唱文言もちゃんと覚えていた。だけど、現実世界でそれが効くとは思えないし、死者蘇生の魔法は、ランク的に最上級に属するはずだから、よしんば僕にまだ魔力が残っていたとしても、全然MP不足だろう。でも、あっちの世界では超初心者の僕が結構ぽんぽんと上級魔法唱えていた。後で、ぶっ倒れるおまけ付きだけど。それでも、唱えてみるだけの価値はある? 

 もし効いたらガザの実のないこの世界では、僕の方が今度は寝たきりになってしまうかもしれない。ちょっとそんな考えが頭を過ぎって、僕はかすかに震えながら谷山先輩に、

「谷山先輩、僕ね、眠っている間すっごくチートな魔法使いだったんですよ。案外死者蘇生の魔法を唱えたら、復活したりして」

とわざとおどけてそう言った。

「ぷぷっ、なにそれ。チープなコミックスじゃあるまいし」

案の定先輩はそう言って笑った。

「でも、やってみる価値はありますよね。何もやらないよりは良い」

僕はそう言って、やっとくっついたばかりのテオブロに切られた傷を庇いながら立ち上がり、背筋をピンとのばすと、

<黄泉の世界を統べるものよ、我の声に応えてこの者の魂を現し世に呼び戻せ、Rise dead>

と高らかに詠唱した。

 先輩の頬が上気したような気がした。でもそれだけで、先輩はやっぱり目を覚まさない。当然と言えば当然だけど、魔法なんてありはしないのだから。

「ヤダ、それもしかしてラテン語? イヤに本格的じゃない」

谷山先輩が目を丸くした後、バカ笑いする。ひとしきり笑った後、小声でありがとうと言って、

「じゃぁ、お姫様がキスでもしたら、目覚めるのかしら。眠り姫ならぬ、眠り王子は」

と、言った。彼女は全くの冗談のつもりだったんだろうけど、僕が

「それ、アリかもしれませんよ。僕の夢の中では谷山先輩はお姫様で、先輩は王子様だったんです」

と、マジ顔で返すもんだから、ちょっぴり引き気味だったけど、

「じゃぁ、やってみよっか。やらないよりはマシかもね」

と、笑うと、照れながら先輩に顔を近づける。そして、二人の口びるが重なったとき……


 窓も扉も全く開いていない病室に一陣の風が吹いた。驚いて、窓を確認した僕の耳に、

【う……ん、フローリア愛してる】

と言う先輩の声が聞こえる。ギョッとして先輩の方をみると、先輩はがしっと谷山先輩を腕の中に閉じこめて、キスをしている。谷山先輩が突然の事態にあたふたしていた。

 唇が離れたあと、谷山先輩に、

「あ、鮎川っ! いきなり舌を入れてくるなんて、どういう了見? ホントはいつから意識があったの? このエロ親父!!」

と言われてグーで殴られたことは言うまでもない。



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