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道の先には……  作者: 神山 備
本編
19/80

謁見の間 2

 フローリア姫に一喝されたマシューは唇をかみしめて立ち尽くしていたが、姫様が

【エリーサ! 分かっているのよ】

と言うと、マシューははぁっと大きなため息を吐いた後、それこそしゅるしゅるという擬音が聞こえてきそうな勢いで、どんどんと縮んでいき、あっと言う間に子供の姿になった。それは、僕がガザの実を初めて食べたときに見たあの少女だった。ガザ実を食べることで、一時的に魔力が上がって、マシュー(エリーサちゃんと言うべきなのかな)のかけている魔法を見破っていたのだろう。でも、僕は経験値が限りなくゼロに近かったから、一瞬だったんだろうな。

 それに、日本語と違って英語は言葉尻で性別を特定するのは難しいし、僕にとっては外国語だからマシューの体格で低音の声音で話されたら、僕の頭は無意識のうちにそれを男言葉として認識していた。だから、マシューのことを本当は女の子だったなんて微塵も思わなかったのだ。

【お姉ちゃま、なんで分かっちゃったの?】

エリーサちゃんは、フローリア姫にふくれっつらでそう尋ねた。

【分からない訳がないでしょ、あなたが家出したってことはとっくにソルグが知らせてきてるし。あなたがお城を出て、向かうとしたら、私の所しかないだろうって、おじいさまもね】

【そう、バレてたの……それにしてもあのバカ烏、速すぎるよ】

フローリア姫の答えに、エリーサちゃんが舌打ちをする。

【あら、あなたが遅すぎるのよ。大体、空を突っ切って飛んでくる烏に、徒歩のあなたが勝てるわけないじゃない。途中からは、コータル様たちの馬にでも乗せてもらえたの? 先触れの者からは、あなたたちが歩いていたと聞いたけれど】

 ソルグというのは、伝書鳩みたいなもんなんだろうか。烏だと、届けるのは不幸の手紙みたいな気はするけどね。

 それはともかく、この世界の魔法使いが箒に乗って空が飛べるかどうか僕は知らないけれど、あの魔道書にも、空を飛ぶ項目はなかったし、飛ぶ魔法とかはないのかもしれない。

 と言うことは、この幼い少女はなりを大人に変えていたとしても、たった一人で車で何時間もかかる道程を行こうとしていたってことだ。

 パシンッ、次の瞬間、広い謁見の間に平手打ちをする音が響く。いや、正確に言えば響かせる。僕が、エリーサちゃんの頬を打ったのだ。

「なっ、宮本!」

【ビク!! 】

フローリア姫をお姉ちゃまと呼ぶのだから、エリーサちゃんは間違いなく隣国のお姫様。国際問題に発展しかねないその状況に、周りは一気に青ざめた。だけど、僕は怯まずに、

【エリーサ様、あなたは何という無茶をなさるんですか。魔法で大人のフリをしたからと言って、それはあくまでもフリでしかないんですよ。あのときもたまたま殿下と私が通りかかったからよかったものの、そうでなかったらどうなっていたことでしょう。そうなったときに、お悲しみになる陛下やお后様のことを考えなかったんですか!】

と言った。

【だって……】

【だってじゃないです。知り合って3日と経たないこの僕が、それを知ったらこんなに苦しいんですよ。何もなくて本当によかった】

僕はそう言いながらエリーサちゃんの頬を撫でた。すると、エリーサちゃんは泣きながら僕にしがみついてくる。やっとこで立っている僕はちょっとよろけたけど、何とか踏ん張って、彼女を抱きしめた。その様子に、安堵のため息がそこかしこからもれてくる。

【お、おっほん、そろそろ陛下が参られます。お控えください】

 その時、奥の方から出てきた人が僕たちをちらりと横目で見てそう言った。僕は慌ててエリーサちゃんの身体を離し、臣下の礼をとって、王様を待った。



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