文系のガソリン捻出大作戦 3
【まだ持ってたの?】
僕は酸っぱさで口を曲げながらそう聞いた。
【ああ、一つでもいくつでも手間は変わらんだろうが】
そりゃそうだろうけど、どうもこの強烈な酸っぱさは慣れない。『良薬口に苦し』とは聞くけど、『良薬口に酸っぱし』なんて反則技だ。まぁ、一晩ですっかり回復してまた魔法が使えたんだから、かなりの妙薬だってことは認める。でも、脳まで痺れる酸っぱさはどうにかしてほしい。
おかげで何とか倒れずに済んだんだけどね。
せっかくガソリンを満タンにしたんだから、一気にグランディーナまで行こうと言った僕に、マシューは、
【王都は都会だ。こんなもんどこにも隠しておく所がない。リルムの町でもそうだったんだ、欲に駆られた連中にまた狙われるぞ。一つ手前のガルダモで降りて歩こう】
と言った。僕はそれに対して、ため息を一つ落として、
【そして、マシューは一人で行くんですよね、違う?】
と返す。マシューの肩が図星という感じで揺れる。
【俺には ……】
【大事な手紙を運ばなきゃいけないってことは解ってる……】
そして僕が言おうとしていることを聞きもしないで、
【解ってない、ビクは全然判ってない! 俺の正体も知りもしないでのこのこ付いて行こうなんてするな!! それに、お前にはコータロがいるだろ。コータロはコータロの考えがあるだろうが】
と怒鳴リ気味に先輩に尋ねる。それに対して先輩が、
【いや、俺は別にマシューとグランディーナに行くのには異論はないぞ。大体、この世界じゃ右も左も判りゃしないしな。ってことは、俺たちはどこに行こうが何をしようが自由ってことだ。それに王都ならひょっとして俺たちが元の世界に戻る方法を知ってる奴もいるかもしれないしな。俺たちにとっても全くの無駄足じゃないと思ってるんだがな。それとも、お前の方が一緒に行ってまずい理由でもあるのか?】
と聞き返すと、
【い、いや……まずいことなんて……ない】
と、なんだかしどろもどろで答えた。
【じゃぁ、問題ないだろ。『袖擦り合うも多生の縁』ともいうし、な、宮本】
【はい!】
ニヤリと笑いながらそういう先輩に、僕が元気に返事をする。それから、先輩が少し声をひそめて、
【それにな、こいつを敵に回したら怖いぞ。本気で怒らせてあの『一億年』の魔法なんかかけられてみろ。一瞬で塵だぞ】
と付け加えた。それを聞いたマシューはぎょっとして僕を見る。そして、ぼそっと
【そうだよな、魔女様を怒らせると禄なことがないよな】
と、つぶやく。次の瞬間、
【誰が魔女様だって?】
と薄笑いする僕に、二人は完全に固まった。でも、
【冗談はそれくらいにして、早く行きましょう】
と、言って一歩足を出したところで僕は目の前が真っ暗になってその場に蹲る。結局、二人に支えられて車に乗り込む始末だ。
これじゃ、メガンテを連発するミニデーモンと変わらない……かも。